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部下のお悩み

 「姐さん!」


 エステルの殴り込みの件から数日後のことだ。

 その日、天界から戻ってきたアルズフォルトは、レドルリアに泣き付かれた。

 話を聞けば、件の挑戦者である少女がこの城に入り浸っているのだという。

 レドルリアは、そこそこサラサラヘアーであるが短髪の細マッチョな青年である。頭には二本の立派な角があったが、樹里により右側の角はへし折られてしまったので欠けていたりする。

 その実力は元々四大陸を任されている四天王の中でも一、二を争うほどだったらしい。

 しかし、業務を効率化させるという目的でやってきた中年女性ーー樹里に負けて城を明け渡した。何故なら、スキルの使用はあったものの樹里の方が強かったからだ。

 顔の形を変えられ、樹里の指示によってアルズフォルトから拷問を受けた。

 ある意味、城を乗っ取った相手に完膚なきまでに敗北を味合わされた魔族である。

 とことんまで実力差を思い知らされた彼は、樹里を変な方向で崇拝しているし、アルズフォルトのことも敬っている。

 それはともかく、それなりに鍛えた体をもつ男に泣き付かれて、アルズフォルトは戸惑ってしまった。

 ちなみに降格した彼は樹里の補佐として働いている。

 

 「どうしてそれだけの事で泣いてるんですか?」


 件の少女が入り浸っているのは初耳だが、挑戦を受けて勝ったのは樹里であるし、特異点といえど拠点を潰さないのであれば天界としてはとくに何かを言うとかはない。


 「だってあの人、ずっと魔王様にべったりなんですよ!」


 確かに、道場破りに失敗したというか、負けたのならさっさと帰ってしまえばいい。

 しかし、道場破りの少女ーーエステルはこの城に居続けている。


 「俺だって、俺だって魔王様と風呂に入ったことないのに!」


 「本当にそんなことやったら社会的に処分されますよ。というか社会的に死にますよ」


 ちなみに、レドルリアは今年で五百歳になる。独身である。恋人いない歴はイコール年齢だ。

 魔族の外見は正直当てにならない。

 魔族だけではなく長命種族に外見年齢は当てにならないことが多い。

 レドルリアからすれば、樹里なんてロリの部類に入る。

 というか、魔族はどういうわけか愛が重い。

 あと、変に一途なところがある。

 一目惚れしたら、自覚の有無に関わらず例え相手より自分が弱くても守ろうとする習性があるのだ。

 

 「というか、中央大陸の本部には報告入れたんですかね?

 エステルさん、でしたっけ? 部外者を滞在させるのは機密の漏洩に繋がりかねませんし」


 そもそもルール違反だ。

 ただ、報告をした上で許可を得て滞在させているのなら話は別だが。


 「報告はしたみたいです。と言うかエステルのやつ本部にパイプがあったみたいで、特例だかなんだかで居続けてるんすよ!」


 「樹里さんは、なんて言ってるんですか?」


 「そのうち飽きてどっか行くって、本人が言ってたから放っておけと」

 

 魔族側の了承を得ているのなら、問題はないだろう。

 

 「でもですよ! 部屋の用意が出来てないからって、ずっと魔王様の部屋に寝泊まりしてんですよ! あり得ないですよ。俺の方が早く魔王様に仕えてるのに」


 あり得ないのはてめぇの頭だ、とアルズフォルトは思ったが口には出さなかった。

 そもそも上司と部下の関係でそのような妄想を口に出すのは、常識的でない。

 

 「と言うか、そもそも貴方男性でしょう」


 「はい?」


 「いくら行き遅れの売れ残りとはいえ、樹里さんも女性なんですからプライベートな場所に異性の同僚を入れるなんてしないでしょう」


 「え、同性でも危なくないですか?」


 「え?」


 「え?」


 しばしの微妙な沈黙の後、アルズフォルトは合点がいった。

 そうだった、普通に恋愛も出来れば金はかかるが同性で子供を作る技術が中央大陸にはあるのだ、と。

 そして、所謂寝るときの道具で片方が男性役をするための物が存在することも思い出す。

 

 「あー、すみません」


 レドルリアが申し訳なさそうに言ってくる。

 アルズフォルトもこういった会話は初めてで、気まずく顔をそらしてしまった。


 「いえ、下品な話題になってしまってこちらこそすみません」


 とりあえず、樹里に天界からの指示を伝えに行こうとアルズフォルトは、魔王の執務室にむかい歩きだす。

 レドルリアも仕事があるので、アルズフォルトとともに執務室へ向かう。

 と、その途中でこちらに向かって歩いてくる人物に気づいた。

 先程まで話題にしていた人物ーーエステルであった。

 桃色の綺麗な髪を靡かせて歩いてくる彼女は、それだけならば育ちの良い令嬢に見える。

 見えるが、この外見に騙されてはいけない。

 何しろ、あの樹里とそこそこの勝負をした相手なのだから。

 とはいっても殴り込んできた件以外は、わりと常識的な人物である。

 挨拶はするし、樹里の指示に従ってこの城に滞在するなら働けという命令も聞いている。

 この前なんて、清掃パートとアルバイトに混じってトイレ掃除をしてた。

 従業員のほとんどには新人アルバイトとして受け入れられているようだ。


 「あ、レドじゃん」


 気安く名前を省略されて呼ばれ、レドはむっとしてエステルを見た。


 「樹里さんが探してたよ」


 しかし、次にはそう言われ忠犬のように執務室へ走って行ってしまった。

 

 「あなたがエステルさん、ですか」


 「はい。はじめまして。その神気から察するに女神アルズフォルト様ですね」


 レドとは違って、エステルはアルズフォルトに対して丁寧に接してくる。


 「樹里さんに負けたらしいですね」


 「えぇ、それはもうボコボコにされました」


 あっはっはっはと豪快に笑ってエステルは返した。

 笑ったあと、エステルはアルズフォルトの横を通りすぎる。

 通りすぎながら、


 「しばらくここで世話になるんで、これからよろしくです」


 なんて言ってきた。

 どうやら滞在が許可されているのは本当のようだ。

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