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ピンクゴリラが道場破りみたく乗り込んできた話 2

 「俺、いま武者修行中で強いやつと戦いたいんだよ。だから」


 一瞬、少女の姿が消えたかと思ったら背後をとられた。


 「ちょっと相手してくれよ」


 囁くように言ったかと思うと少女は樹里を蹴りつけてきた。

 それを、振り向くことなく左腕で受け、動きが止まった一瞬を見逃さず樹里は少女の足を掴むと遠心力を利用して、彼女を壁に投げた。

 少女はそのまま壁に激突が、まるで手足に磁石でもついているかのように壁に張り付いていた。

 おそらく受け身でも取ったのだろう。


 「すっげぇな! この動きについてこれるやつなんて一人しかいなかったのに!」


 テンション高く、叫んだ少女に樹里があきれながら口を開いた。


 「忍者のつもり? それと、人に物を頼むときやお願いをするときは頭を下げるものでしょう。

 ましてやここはお嬢さんみたいな子供の遊び場じゃ」


 言葉の途中で、また少女の姿がかき消える。

 今度は樹里の足元に一瞬で移動して、彼女の顎を狙って拳をつきだしてきた。

 それを樹里は、一歩体を後ろにずらして避ける。


 「全く、どういう教育を受けてきたんだか」


 少しだけ、イライラしながら樹里は言うと少女に足払いをかけた。

 簡単に少女は転んでしまう。

 すかさず、樹里は今まで相手にしてきたパーティから回収し、時おり使っている道具を手元に出現させる。

 それは、回転式拳銃(リボルバー)であった。

 その冷たい銃口を殴り込んできた少女の額に押し付ける。


 「まず、挨拶。これ基本でしょう。それと自己紹介をする。目的だけ言われてもこっちは、だから何状態でしょうが!」


 そんな注意は無視して、少女は目を輝かせて樹里を見てくる。


 「すっげぇな! 本当に強いんだな。ひょっとしてスキル使ってた?

 いやでも技名とか言ってなかったし」


 「話聞きなさいよ。敵に聞こえるように自分の手の内を叫ぶなんてアホウでしょう。そんなことしたら対策とられるし」


 「たしかに、じゃあどうやったんだ? 少なくとも身体強化されても追い付けないくらいの動きで俺動いてたのに」


 「今の話聞いてた? それと、君。自分の立場理解してる?」


 「立場?」


 「ここは一応魔王軍の拠点、施設の一つ。そこに殴り込みをかけるなんて勇者にでもなったつもり?」


 「勇者とかにはなりたくないなぁ。ただ強くなりたい」


 ダメだ。言葉が通じない。

 これはゆとりなのだろうか?

 しかし、少し違う気もする。

 少女の無邪気な顔を見ながら考えをめぐらせようとした瞬間、銃を持つ手に違和感を覚え、樹里は咄嗟に身を屈めた。

 すると、今まで銃口を突きつけていた少女の姿はすでになく、代わりに頭上を何かが過った。


 「これもダメか。

 あ、名前な、俺の名前はエステルって言うんだ」


 声のした方へ銃を向ける。


 「言うのが遅い」


 発砲するが避けられてしまう。

 銃弾が玉座に当り、痕を刻み付ける。


 「術式加工された特殊弾かよ。物騒なもの持ってるな」

 

 「物騒な殴り込みしてきた人間に言われたくないんだけど」


 「魔王なら魔剣とか魔杖とか持ってないのか?」


 樹里は、とりあえずこの少女を無力化することを考える。

 最初、壁に吹っ飛ばした時にこの少女ーーエステルを無力化出来なかったのは痛手である。

 出来るなら修繕箇所は少ない方が良いからだ。


 「っていうか、俺の動き全部読んでるよな?

 さっき、その拳銃を俺の頭に押し付けた時点で俺は幻術を展開した。そして背後をとったのに、あんたは背後に立った俺のことに気づいた。

 後ろに目でもあるのか?」


 「さぁね」


 「それにその余裕。さすが魔族に強いと認められただけはあるな」


 「武者修行で、君はここに来たんだよね?」


 ベラベラ一方的に喋られるのは別に良いが、なんとなく嫌な予感がして樹里は逆に質問をすることで会話をこちらのペースに持ってこようとする。

 種明かしするとなんのことはない。ただ樹里は常時発動(パッシブ)スキルである、【現状把握】とイキリ冒険者から結果的に奪うことになってしまった【アカシックレコード干渉】を同時に使用し未来を予測、その上で【ながら動作】を併用してエステルと攻防を繰り広げたに過ぎない。


 【現状把握】は文字通り、樹里が現在いる場所で起こっていることを正確に把握できるスキルである。

 例えば、幻術の類いも見破れるし背後に立たれたり不意を突こうとしてもそれを事前に把握できてしまうスキルである

 【アカシックレコード干渉】は未来を見る、干渉できるスキルである。

 今回は未来予知として役立った。

 あとはいつものように【ながら動作】で他のスキルを同時使用しただけである。 


 慌ただしい繁忙期。常にたこ焼と今川焼きのストック管理をしなければならず、並行して釣り銭がなくならないよう(万札が大型連休だと比較的多く来るため)に気を配り、或いは予測し、常に不足しないよう気をつけなければならなかった樹里には慣れたもので、その一連の行動は息をするよりも自然にできた。

 【ながら動作】はもとの世界に戻っても使いたいスキルである。

 

 「うーん、まぁな。あと会う奴会う奴口を揃えて南大陸には化け物魔王がいるって言うから」


 酷い言われようである。

 

 「本当に化け物かは微妙なんだよなぁ」


 「色々ツッコミをいれたいところだけど、私は雇われ魔王で化け物なんかじゃないし」

 

 「いや、でも普通じゃないだろ。俺はさっきから魔法を発動させようとしてんのに、全部無効化(キャンセル)させられてる」


 これは【アカシックレコード干渉】によって、樹里はエステルの魔法を発動をさせる未来を潰しているからだ。

 無効化とは似て非なる状態である。


 「なら、これ以上はお互い消耗するだけだし、帰ってくれないかな?

 来月のシフトの調整もあるし経費の報告書も作んないとだし」


 樹里の言葉にエステルがむくれた時だった。


 「見つけたぞ! 諸悪の根元たる魔王!

 今こそこの聖騎士が成敗してくれようぞ!」


 今日のノルマが、エステル以上に時代錯誤な台詞を叫んで玉座の間に乗り込んできたのだった。

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