迎えに行ったら、なんか最終局面だった
その光景を見て、樹里を迎えにきた南大陸の魔王城で幹部を務めるリドルリアとノストラの二人と、アルズフォルトは言葉を失った。
まず、彼らが向かったのは樹里とエステルの二人が身を寄せていたという、役所の隠れ蓑になっている情報ギルドである。
そこで、彼女の現状を詳しく説明され、手伝いに向かったのだ。
エステルもいるし、北大陸の魔族達の士気も高い。
何よりも、樹里の能力の高さを知っていたので三人は行っても後片付けくらいしか手伝えることはないだろう、と思っていた。
しかし、違った。
戦況は、大将同士の一騎討ちにもつれ込んでいた。
空中戦となり、激突していた樹里とダヴィだったが、やがて樹里が圧されはじめたのだ。
男女の差故のスタミナーー体力の差が物を行ったのだ。
油断したのか、重たいダヴィの拳が一発、樹里の額へと見事にヒットした。
衝撃で、一瞬樹里の意識が飛んだように見えた。
「信じられない、あの樹里さんが」
アルズフォルトは、ウィンドウを出して樹里の状態を確認する。
そこに表示されている情報に目を通す。
どうやら、この攻防の最中に精神に干渉するスキル【心的外傷《トラウマ》】を発動され、その効果内にあるようだった。
そのスキルの説明を読むと、どうやら当人にとって一番思い出したくない記憶が幻影と幻聴として現れ、相手を行動不能にさせるようだ。
そして、このスキルが北大陸の魔王暗殺に使われたスキルのようだ。
魔族でも、心の傷を闇を持つ者はいる。
その忘れたい記憶、封印したい心の傷を抉り出すと同時に精神攻撃となるスキルである。
ただされるがままに、顔を体を殴り続けられている光景は、かつて樹里が冒険者や勇者達にしてきたことだ。
それが、返ってきているようにも見えた。
助太刀にレドルリアとノストラが動こうとした時、黒猫の獣人が立ちはだかった。剣を携えている。
「あんたらが、悪鬼王の部下達か。
悪いが、邪魔が入らないようあんたらを止めるように言われてるんだ」
「なんだ、てめぇ?」
レドルリアが殺気を纏って臨戦体勢に入る。
ノストラも同様だ。
しかし、ノストラはレドルリアよりも冷静だった。
いつ戦いが始まっても良いように構えはそのまま、黒猫の獣人に問いかけた。
「それは、誰に頼まれた?」
「あんたらの上司。今、まさにあそこでボコボコにされてるあの頭のイカれた女に、だ」
そんな会話がされる横で、画面を注視していたアルズフォルトの顔が真っ青になっていく。
「どうして、樹里さんを止めなかったんですか!」
そして、そんな金切り声をアルズフォルトは上げた。
同時に、黒雲がその場に立ち込め始める。
「姐さん?! いったいなにが」
そのレドルリアの言葉は途中で、止まる。
全てを言う前に、ノストラが樹里とダヴィが戦っていた場所を指差し、叫んだ。
「なんだ、あれは!?」
「さて、ね。俺も聞かされてないからわからん」
そこには黒雲の雷が魔方陣の形を取り、樹里を取り囲んでいるところだった。
その異様さに、ダヴィは樹里を殺そうと最後の一撃を放った。
しかし、渾身の一撃である拳は今までなぶられていた樹里にあっさりと、片手で止められてしまった。
「反撃の出来ない女を殴るのは、楽しかったか?
楽しかっただろうな?」
地を這う、なんてものじゃない。
地獄の底の、さらに底から響くような声で樹里がそんなことを言った。
「スキル【悪鬼羅刹】解放」
樹里が静かに呟くと、彼女を取り囲んでいた雷の歪な光の魔方陣が発動し、彼女とダヴィへ襲いかかってきた。
「情けない。逃げんのかよ」
思わず飛び退いたダヴィへ樹里がそんなことを言うのと、襲いかかってきた雷撃が彼女を貫くのは同時だった。
爆発が起きて、ダヴィも地上にいたスカルやレド達も吹っ飛ばされてしまう。
「言ったよな?」
爆発の直後、そんな樹里の声がダヴィの耳元で聴こえた。
かと思うと、体に衝撃が走る。
「あ?」
見れば、背後から禍々しい樹里の持つ魔剣で貫かれていた。
「デコピンで負ける醜態を晒すって」
今度は眼前から声がして、見ると禍々しいオーラを纏って赤黒い一対の角を生やした、女の鬼神がいた。
その鬼神は凶悪な、しかし、楽しそうな笑みを浮かべると。
細くしなやかな指ーー親指と人指し指で丸を作るとダヴィの額の手前で止めた。
「頭、残ってるといいな?」
「おい、や、やめーー」
ぱちん、そんな小さなデコピンの音の後。
ダヴィの頭がミンチになったのだった。




