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異世界でストーキングされるとは思わなかった

 「さて、なにか御用でしょうか?」


 くるり、と背後を振り向いて樹里は途中から自分を尾行していた存在へ声をかけた。

 現れたのは、夜では迷彩になる黒衣に身を包んだ、見るからに怪しい格好をした人形の種族だった。

 黒衣はすっぽりとその人物を包んでいるので、多種多様な種族が存在するこの世界においては、それが人間族なのか鬼人族なのかエルフなのか魔族なのか、もっとほかの種族なのかは見ただけではわからない。


 「魔族、うわ、星空のれーめーだんって、中二かよ。誰だよこんな名前考えたの。だめだわ、脱糞はないわー。そういうの我慢しちゃ駄目だよ。授業中でもトイレには行かなくちゃ」


 じいっと黒衣のストーカーを見ながら樹里はそんなことを言った。

 実際にはウィンドウを表示して、個人情報を丸裸にしているだけである。

 黒衣の人物は、消したはずの過去を出されて多少動揺したようだ。


 「で、いまは定職にも就かず他人に迷惑をかけるテロリストって、脱糞テロだけじゃ満足できなかったって、ほんと、男ってバカ」


 それ以上喋らせまいと、樹里の周囲に拘束の魔法が展開するが、それを溜め息を吐き出して樹里は軽く手を払う動作で無効化させてしまう。


 「状況的に重要参考人っぽいから、捕獲っと」


 何もない中空に指を滑らせながら、樹里は言ったかと思うと黒衣の体がその時間を止めた。

 座標で固定して、文字通り彼の体だけ時間をストップさせたのだ。

 効果時間は短いので、魔力は吸収してゼロに、樹里にだけ見えている相手の体力ゲージも数字としては疲労困憊になるまで吸い上げた。

 そして、拘束魔法を発動して、その場は何事もなく終わった。


 「さて、と。もう一人のストーカーさん、出てきてください」


 次に、樹里はそう口にした。

 姿を現したのは、樹里の部下にもいるダークエルフだ。

 樹里の部下は少年の姿をしているが、こちらは愛らしい少女である。


 「ストーカーとは、中々言ってくれるじゃないか。

 役所本部所属のミルだ。

 いや、悪いな噂の南大陸の魔王役の力を見てみたかったんだが、いい意味で期待外れだった」


 「省エネ主義なんです。本部の方でしたか」



 「あぁ、とは言っても君にはわかっていたと思うが」


 「一応、私のウィンドウで確認できるだけの情報は全て確認してます。

 ほんとは、プライバシーが筒抜けになるんで好きじゃないんですけどね、この機能」


 この個人情報の確認機能も樹里に与えられた特典、チートである。

 この機能でわかるのは対象者の簡単なプロフィールと略歴、そして黒歴史である。


 「使えるものは使えばいいさ。そのために与えられているのだから。

 それよりも、その者は預からせてもらう。それと情報の共有と改めて協力を要請する」


 「事情は大体のことは察していますし、その中二団体組織所属の人からの情報もあります」


 「それは良かった。では、なぜ襲われそうになったかもわかるな?」


 「はい。迷惑な話ですが。

 私はお飾りの魔王で、ただの人間だからと思われていたらしく甘く見られていたようです。

 しかしそれでも、何かしらの情報を握っているだろうと考え拉致しようとしたみたいです」


 「なるほどな」


 「あ、でもちょうど良かった。あのお願いがあるんですけど」


 「なんだ?」


 「諸事情で南大陸の魔王城に連絡ーー定期報告が入れられないんで、もし通信手段があるようだったら、しばらく帰れないこと伝えてもらえますか?」


 今後のことを全て知っているゆえ、そうお願いした。

 樹里が知っているのは、今回巻き込まれてしまったトラブルの行方である。

 まさか連絡が途中で滞るとはこの時点では思っていなかったのだ。

 見ようと思えば見えたのだが、そんなことにまで気が回らなかったのだ。


 「その口振りからするに、今後のことを知ってるな?」


 「えぇ、スキルで、ある程度は。

 これから、自分がこの北大陸でテロリストと喧嘩をするための旗印にならなければいけないのですよね?」


 「話が早くて本当に助かるよ。

 そして、こちらとしては、君の存在は不幸中の幸いだ。

 魔王の力は特別だからな」


 「自分は普通の人間で在りたいです。

 もう、無理でしょうけど」


 「そんなことはないさ。

 自覚があるだけ、君は人間でいられる」


 「だと良いですけど。因果応報が巡ってこないことを日々祈ってビクビクしてますよ」


 「だからこそ、だ。

 人間の魔王は唯一神にも近い力を手に入れられる存在なんだ」


 「え」


 「まぁ、その話は今度機会があったらゆっくりしようか。

 今は、仕事が最優先だ」

 



 

 

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