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黒猫剣士と獣人差別 1

 エルミスト家から派遣されてきた者の言動と、他ならないイリシアの言葉で女性の地位というか存在がかなり軽んじられてるのだろうと、樹里は考えたのだが、これが大当たりだった。

 牢屋の外に続く扉にも、見張りがいなかったのだ。

 この建物のどこかに常設されている休憩所か事務室にでも引っ込んでいるのだろう。


 「鍵も簡単に開くし」


 ちなみに、正確には鍵を開けたのではなく、魔剣で鉄格子ごと斬ったのだ。

 念のために、外へと続く扉も確認したところ見張りがいないことが発覚したのだった。

 そちらの方も鍵が掛かっていなかった。


 「信じられない。ザルすぎる」


 呆れるばかりだ。

 他に捕まっている者がいなかったのも、樹里達が簡単に埋蔵金を手に入れ脱出できた理由である。

 もちろん、パクったことがバレないように埋蔵金の場所は元に戻しておいたし、隠し通路に繋がる扉は自動的に閉まったので、問題なしであった。

 さすがに、地下通路すべての金目のものを回収するのは疲れるので、通った場所にある物のみ樹里達は山分けしていく。

 

 「国によっては、女性の奴隷扱いが普通って国もあるとは聞いたけど」

 

 エステルが、まさかと言いたげにそんなことを呟いた。


 「お国事情はそれぞれだから、一概に言えないけど」


 「あと、あれだな。獣人の扱いも酷いんだよな北大陸って」


 レジャー施設でもそうだったが、下働きではなく奴隷として働いている獣人が多かった。

 そんなエステルに、樹里は返す。


 「責任が無くて、休憩時間と寝る時間があるだけマシ」


 働き蜂どころではなく、現代の社畜のほうがよほど奴隷扱いだ。

 体調を崩せば管理がなってないと言われ、当然の諸々の権利を行使すれば立場的には下のパートタイマーからは『社員のくせに』と罵られる。

 『社員なんだから』、『私たちよりも金をもらってるんだから、もっともっと大変な思いをして当たり前』なんてことを言われ続け、上からはパワハラとモラハラ、逃げようとすれば責任転嫁の嵐である。

 日本人は優しいというのは、都市伝説だ。

 外面が良いだけである。

 本当に優しかったら評価をする、相手を思いやる。

 そんな人間もいるのかもしれないが、大抵はそうやって潰されていく。


 「前から思ってたけど、樹里って人間が嫌いなわりに俺とはつるむよな?」


 「エステルは人外ゴリラでしょ」


 「ひっでー」


 「それに、嫌がってばかりじゃ生活できないし」


 「それもそうか」


 エステルは、とりあえずは納得してくれたらしい。

 元々細かいことは気にしない質なのだ。

 そうして、繋がっていた出口の一つにたどり着く。

 そこは、町外れの貧民街にある、使われていない教会の祭壇に繋がっていた。

 外に出ると、すでにお昼をとうに過ぎて日が傾きかけていた。

 教会から出てきた人間の女性二人を見て、近くにいた破落戸達が数人寄ってきたかと思ったら取り囲まれてしまった。

 どうやら、如何わしい淫らな行為に及ぼうという魂胆らしい。

 とりあえず、男達の腕を折って逃げるかと二人が考えた時。


 「おいおい、女二人に男がよってたかって何してんだ?」


 そんな若い男の声がしたかと思うと、次の瞬間、破落戸達は地に倒れていた。


 「大丈夫かい? お嬢さん達?」


 それは青年だった。

 黒猫の獣人である。

 艶やかな黒の短髪から、猫耳が覗いている。

 耳には金色のピアス。

 目も金色だ。

 軽装ではあるが、剣士のようだ。


 「おおおお! すっげー!」


 エステルが目を輝かせる横で、樹里が頭を下げた。


 「助けていただきありがとうございます」


 そして、隠し通路で得た金を一応礼として渡そうとする。

 しかし、黒猫獣人の青年はそれを制して言ってきた。


 「俺は、スカル。スカル・ミリオーネ。

 お嬢さんがた、物は相談なんだが俺を雇ってくれないか?」


 「「はい?」」


 樹里とエステルの声がハモった。


 「いや、実はさ。傭兵とか警備とかの仕事を探してたんだけど、奴隷じゃない獣人は雇ってもらえなくて困ってたんだよ!

 見たところ、二人は良いとこのお嬢さんだろ?

 ここには迷って入り込んだ感じだろ?

 今ので腕は見せたし、助けると思って俺を雇ってくれないか?」


 だいぶ切羽詰まっているのだろう。

 かなり早口で、こちらに何も言わせないよう捲し立ててくる。


 「ここは治安が悪いし、貧民街から出るまでの護衛でいいからさ」


 またさっきみたいな事になっても嫌だろうと、言外に告げてくる。

 この二人にそんな心配は無用なのだが、そんなことを知らないスカルは頭を下げてくる。

 助けてと言った覚えはないが、彼の気遣いを無駄にするのも若干気が引けたのか、樹里は溜め息をついた。


 「スカルさん、一つ聞きたいんだけど」


 「スカルでいいよ、えっと」


 「私は、ジュリ」


 「ジュリな。で、聞きたいことって?」


 「この街の人間にムカついてたりする?」


 

 

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