それでもグッと堪えるのが日本人です。
結局、樹里達は衛兵によって捕縛されてしまった。
「逮捕と捕縛って何が違うんだ?」
牢屋の中で、エステルが訊ねた。
「逮捕は国によってルールが違うから、日本式で言うなら、被疑者が逃げたり、逃げて証拠隠滅をさせないために強制的に身柄を拘束する行為。
捕縛は、縄で捕まえること」
「んじゃ、現状は逮捕されたってことか?」
「そういうこと」
「てっきり暴れるかと思ったのに」
「おとなしく捕まったふりした方が良いこともある」
「その心は?」
その言葉に樹里はいま捕まっている牢屋の壁と床を見た、そして、壁の一部を叩いた。
それから、今度は床に這いつくばって同じことをする。
「この街に入ったときに、ゲームで言うところの【全マップ表示】スキルを発動させたんだけど、あちこちに抜け道があるみたいなんだよね。
たぶん、戦争になったときの一般人の避難経路かなんかだと思うんだけど。
で、この牢屋からはかなり不恰好な通路がのびてるみたい。お手製かな」
「脱獄王でもいたのかね?」
「ちょっと違う」
「ちがう?」
「一応前もって言っておくけど、全部が全部そうってわけじゃないよ?」
「何が?」
「警察とか権力を持つ人たちの腐敗。
普通はこんな抜け穴のあるところに罪人なんていれない。
でも、普通に放り込まれた。
女二人だと思って油断したのか、バカにしたのか、もしくは下っぱにまではしらされていなかったのか、そんなとこかな?」
「だから、なんの話を」
「公的組織の腐敗、汚職、これに付き物なのは?」
「金?」
「そう。ちょっと設定をかえてエステルにも見せるけど」
這いつくばっていた体を元に戻して、宙で指を滑らせる。
やがて現れたのは、平面の地図だった。
「これって、この建物の地図か?」
「そう、で、ここが隠し通路ね」
マップを操作して、今度は秘密通路の全体図を写し出す。
所々に金色に点滅している場所がある。
「この光ってるところに、金目のものがある」
「光ってるところって、これ全部か?!」
驚きでエステルが目を丸くした。
地図を縮小させているので、あちこちで夥しいほどの光が点滅していた。
「そう」
「すげぇな」
「で、隠し通路がそこの壁にあって、ここの床にも隠し財宝、この場合は文字通り埋蔵金がある」
「わお」
「んで、これらの詳しい説明をONにすると」
一気に、地図が文字で埋まってしまった。
そのひとつを拡大して、樹里はエステルに読ませる。
そこに書かれていたのは、どこの組織、あるいは貴族が隠した金かという詳細な情報だった。
「個人情報もへったくれもないな」
エステルの言葉に、樹里も頷いた。
「ほんとにね」
「で、どうするんだ?」
「このままだと、本来の謝礼もらえそうにないし、これで手を打つのが良いかなと思ってる」
「いや、それもそうだけど、イリシアさんのこと」
「ざまぁ、としか思ってない」
「樹里ってそういうとこ、けっこう残酷だよな」
「こっちはちゃんと注意はした。
何度か行き先を変えるようにも、忠告はした。
それでも、初対面の人間ではあるけど送迎役をかって出た恩人の言葉に耳を貸さなかったのは、彼女の自損事故、いや自業自得。
これから待つ運命を選んだのは彼女自身だから」
「そっかー」
「ちょうど馬車も没収されちゃったし。蝶よ花よと育てられたっぽい彼女を徒歩でつれ回すわけにも行かないし。
というか、邪魔だし」
「じゃあ、なんで助けたんだよ」
「何言ってんの。最初に助けたのはエステルでしょ」
「そういや、そうだった」
「エステルこそ、助けに行かないの?」
「いやぁ、実を言うと、前に北大陸でいろいろヤンチャして、手配書が回ったことがあるから、動きたくないというか、あんまり目立ちたくないというか」
「私よりも理由が酷い。というかクズい」
ここにアルズフォルトがいたなら、おそらくどっちもどっちと言ったことだろう。
「まぁ、冗談はさておいて。樹里、ほんとに見捨てるのか?」
「さっきも言ったけど、私には助ける理由ないでしょ。
それにエステルは目立ちたくないんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ」
「エステルは助けたいの?」
「助けたいというか、なんか後味悪いなぁって思って」
「煮え切らないなぁ」
「んー。もし俺が同じ立場だったら助けてほしいなぁって思うかな」
「じゃあ、助けに行けば?」
「目立ちたくないのもだけど、一人だと淋しいじゃん」
本音はそっちだろ。と思ったが樹里は口にしなかった。




