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樹里の目が、汚物を見る目だった

 さすがに馬も休ませなければならず、ある意味車中泊をして日が昇る前に出発をした。


 「......ダメか」


 樹里は中空で指を滑らせる動作をしていたかと思うと、そう呟いた。

 

 「何をしてるんですか?」


 「ん? イリシアさん知らない?? 貴族の中にこうやってる人いなかった?」


 「はい、少なくとも私の知る限りではいません」


 「一部の人たちの中には、その人だけに見えるステータスウィンドウってのがあるんだけど、持ち物の確認や状態異常、スキル所持者によっては地図なんかが目の前に表示されるの」


 「はぁ、それを見ていたんですか?」


 「まぁ、いろいろチェックをしてみたんだけど。

 この大陸、少しずつ魔法が使えない地域が広がってる」


 「え」


 「今回のことに関係あるのかはわからないけど、一部の魔法が制限されつつあるのはたしか」


 「そんな」


 「この制限は私にはあんまり関係ないけど。

 連絡出来ないのは辛いからなぁ」


 ステータスウィンドウを隠す者が度々いる。

 事情はそれぞれだ。

 樹里の場合、隠す理由がないのでそのままを話しただけである。

 当人にしか見えない設定だが、その設定を変えればイリシアにもエステルにも見えるようになる。

 めんどくさいからやらないが。

 ちなみに、貴族の令嬢がこのような動作を行っている場合、悪役令嬢か聖女の可能性が非常に高くなる。

 あとは、適当にスローライフ送ってくれれば良いという、超適当な理由付けで転移、転生させられた者もいるので絶対とは言えない。


 「関係ない、ですか?」


 イリシアが不思議そうに首を傾げた。


 「そ、私もだけどエステルもね、あんまり関係ない。

 制限かけられてる魔法が元々使えないから」


 「賊を捕まえたときのは?」


 「うーん、説明が難しいなぁ。

 えっと、制限させられている、はっきり言ってしまえば使えなくなっている魔法っていうのが、今は普通に主流になってるやつで、私らがつかっている魔法って言うのがマイナーなやり方というか、現代ではほぼ廃れたやり方だから、使える人を見つけるのが難しいやり方というか。

 とにかく、その制限から外れる魔法ってわけ」


 分析したところ、魔法だけではなくスキルの使用も基本不可になっていたが、エステルにも、もちろん樹里にもやはりこれは当てはまらない。

 エステルはそもそも、スキルという概念の外の存在でそういうものが割り振られていなかったからだ。

 彼女の強さは、『頑張って修行したら人外ゴリラの強さになった』だけのことである。

 そして、樹里については彼女の存在そのものが神族に認められたチートだからである。

 彼女は、神族が特別任務のためにわざわざ派遣した存在だ。

 その職務内容が特殊なために、いろいろな、いわゆるサービスを受けているのである。

 例えば、城に殴り込んでくる勇者パーティの個人情報、一度ストレージに貨幣を入れれば自動的に、その時いる国の貨幣へ変更してくれるシステム等々である。

 今回の場合は、ほぼ一般的なスキルの使用ができない状況でもあるが、樹里の場合は神族に認められたズル存在であるので、この効果の影響を受けないのだ。

 

 「と、とにかくジュリさんたエステルさんには、効かないと言うことでしょうか?」


 「そう言うことです」


 不便といえば、南大陸に連絡が取れないことくらいだ。


 



 太陽が完全に姿を現して、気温が上がって来た頃、三人を乗せた馬車はエルミスト領の領都へ到着した。

 衛兵に書状を渡し、すぐにエルミスト家へと連絡を取ってもらった。

 すぐに、手配された馬車が到着し、関係者が降りてきた。領主ではなかった。婚約者でもない。

 イリシアは事情を説明し、ジュリ達のことを紹介した。

 すべてを聞き終えた後、派遣された者はジュリ達に詐欺の疑いをかけてきた。


 「なにを、何を言ってるんです?!」


 事態が飲み込めないイリシアが悲鳴に近い声をあげた。

 

 「どこぞの馬の骨ともわからない者の言葉を信用するわけにはいきません。

 イリシア様、あなたがその本人であることはこの書状と、一緒にあった肖像画で証明されています。

 ですが、あなた以外に生存者がいない以上、その盗賊にあなたが脅されて協力させられていることも考えられます。

 もうひとつ、根拠をあげるならこのような細腕の女性が、仮に冒険者だったとしても魔族の暴漢に太刀打ちできるなど信じられません。

 ましてや、今現在、イリシア様が仰ったようにこの大陸では魔法が使えなくなりつつあります。

 だからこそ、そこの二人は余計に怪しいのです」


 という理屈をネチネチと展開している、偉そうな人物を見ながら樹里は小声でエステルにだけわかるように呟いた。


 「人間なんて嫌いだ」


 

 

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