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妙な喧嘩に巻き込まれた件 5

 「しかし、なんでまた魔族の襲撃を?」


 樹里の質問が意外だったらしい。

 イリシアは、頭をふる。


 「魔族の考えなんてわかりません」


 「いや、そうなんだけど、何て言うか引っ掛かるんだよね」


 「何が、引っ掛かるのですか?」


 馬は無事だったので、御者はエステルに任せている。

 縛りあげた盗賊、もといテロリスト魔族は身ぐるみを剥がして、文字通り全裸で気絶させ放置した。

 

 「魔法が使えなかったってイリシア様は言いましたよね?

 これ、偶然だと思いますか?」


 「それは」


 思っていないのだろう。


 「襲撃は計画されていた。

 でも、何故なのか?

 何故、いまこのタイミングなのか?」


 「わかりません」


 現状として、領都は襲われている以外なにもわからない。


 「戦争、で良いのかはわかりませんが、あえてこういう言い方をしますね。

 通常、国へ攻撃をするとき、人間同士、あるいは他種族でもそうですけど、まずは使者を派遣して口上を述べるか、書状で脅しをかけるものです」


 簡単に言えば、死にたくなかったら言うことを聞け、と脅しをかけるのだ。

 

 「ジュリさんとエステルさんは、他の大陸から来たのですよね?」


 「えぇ、南大陸の出身です」


 「魔大陸の大魔王に次ぐ四天王が一人の魔王が支配する地の出身だったのですか。

 どうりで魔族に引けをとらないわけです。

 南大陸での女性の地位がどういうものかは、存じ上げないのですが、この北大陸の貴族の女性は政治などの表舞台に基本関わらないのです。

 なので、そう言った書状ややり取りがあったとしてもわからないのです」


 「なるほど」


 「ただ、今回のような場合は異例中異例です。

 父は軍の指揮を取らなければならず、ましてや逃げたと後ろ指を指されることはできませんでした。

 そこで、以前から私へ婚約の打診があった隣の領を治める領主へと助けを求めることにしました。

 見返りは、私の輿入れとこちらの領の一部を渡すことです」


 「なるほど。かなり政治的な利権が絡み合ってる、と」


 そして、それくらい状況はヤバイと言うことだ。

 それにしても、


 「かなり太っ腹な見返りですね」


 「元々、我が領と隣の領を治める家は昔からいがみ合っていたのです。

 そこで隣の領ーーエルミスト領を治める領主が『このままいがみ合っていても不毛なだけだ。セントファーレン家の一人娘とエルミスト家次期当主であり領主のディーバを婚姻させ永続的な友好関係を結ばないか』という話がきました」


 政略結婚というやつだ。


 「それって、こう言っちゃなんですけど。選択肢ないですよね?」


 助けを求めてすぐにでも結婚するから、実家をすぐ助けてくれということである。


 「これも領を守るためです」


 「確実に、そのエルミスト家が助けてくれるという保証は?」


 「助けないわけにはいかないでしょう。

 いがみ合いの原因も、そもそもはセントファーレン領の豊かな土地を手に入れるための侵攻が発端です」


 助けた上で甘い汁が吸えるというわけだ。

 加えて、綺麗な嫁も手にはいるとなれば断る理由もないのだろう。


 「質問を変えます。これ、裏でその魔族とエルミスト家が繋がってるとかその可能性は無いですよね?」


 あまりにも突拍子もない考えに、イリシアは言葉を失う。


 「ぶ、無礼ではないですか!」


 「すみませんね。ただ、あまりにも襲撃が計画的すぎて、全てが怪しく思えてしまうんです。

 ま、私が疑り深い質でもあるんですけど」


 「ありえないです。もしそうだったら、先程、馬車を襲撃した者達の行動はどう説明するのです?

 わざわざ襲う理由がーー」


 「慰みものして扱われ、傷物にされた女性を人質にされれば助けを求められる前に侵攻の大義名分ができる。

 魔族と繋がっていた場合、折りをみてセントファーレンの領都から魔族達を撤退させ、恩を売ったように見せることができる。

 いわゆる、八百長、ヤラセ。

 そこで、足元を見ての交渉ができる。どんな理由であれ穢され、処女を奪われた公爵家の令嬢には価値がない。

 これでは娶れない。どうしてもと言うなら嫁にもらってやるから、領地を全部寄越せ、とか言ってきそうだなと思っただけです」


 「そんな、ことは」


 「お嬢さん、これはヒネくれている私の戯れ言です。

 ただ、これだけは言っておきます。

 魔族はたしかに残酷で残虐です。しかし、交わした契約や約束事に関しては守ります。

 そういう絶対的な習性があるんです。

 だから、約束をした相手を裏切ることは有り得ません。

 ですが、人は違う。

 多種多様な種族が存在するこの世界で、人間だけは他の種族と比べても、簡単に人に嘘をつくし裏切ります。

 そういう特性を持っている者が多い種族、と考えてください」


 「その論法で行くなら、エステルさんもジュリさんも私を裏切る可能性があることになります」


 揚げ足をとったつもりなのだろうイリシアに、樹里は冷めた視線を向けて口を開いた。


 「そうですよ」


 もちろん、そんなつもりは樹里にはない。

 エステルにもだ。

 樹里の即答に、イリシアが息をのんだ。

 

 「疑心暗鬼に囚われてしまう考え方ではありますが、ようはそれくらい警戒した方が良いということです。

 もちろん、見返りの謝礼があるのでそれを受け取るまでは、信用してもらって良いです。

 貴女の処女を奪う危険もないし、そういった趣味もありません。

 ただ、ヒネた考え方をすると、利益を一番得られる存在が怪しいってだけです」




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