妙な喧嘩に巻き込まれた件 3
ここで、時間は樹里達がレジャー施設を堪能しホテルをチェックアウトしたところまで戻る。
「あー、久々に遊んだ」
「すんごい飲み食いしてたよなぁ。樹里様」
「昼間からお酒が飲めるなんて、すごい贅沢だしね」
まさか異世界でこんな贅沢な時間を過ごせるとは思わなかった。
エステなんて初めて受けた樹里である。
心なしか肌艶も学生の頃のようだ。
「まぁ、一番驚いたのは樹里様の年齢だけどな」
エステルの言葉に首を傾げる。
思ったより若かったと言いたいのだろうか。
「?」
「俺と同い年だとばっかり思ってた。かなり童顔なんだな」
アラサーにとっては嬉しい言葉である。
「そう?」
「まぁ、日本人って童顔に見えるっていうからなぁ」
そういえば、エステルの前世も日本人だった。
「そうは言っても、最初に潰した子供達はおばさん扱いしてたけど」
「あぁ、あの生意気言った子供の鼻っ柱折って粉々に砕いたとかいうやつか
」
くつくつと、エステルが笑う。
「俺もその場に居合わせたかった」
居なくて良かったと樹里は思った。
とりあえず一週間、もとの世界ではできない贅沢をして過ごした彼女の心はとても潤っていた。
この後、定期連絡をした後に、この北大陸の最北端にあるという観光名所の一つである古都に向かう予定だ。
そこで名物の鍋料理の食べ歩きをするのだ。
定期便の乗り合い馬車を使って、目的地を目指す。
樹里達の他にも乗客がいたが、護衛のために雇われた冒険者が二人と、あとは近隣の町から働きにきている、夜勤勤務のもの達だった。
何度か乗り換えを繰り返すのだが、これも旅の楽しみの一つだ。
「挑戦メニューの激辛鍋もいいし、牡蠣鍋もあるらしいじゃん?」
樹里は事前情報を頭の中で思い出しながら、とても楽しみだとエステルに語った。
金がかかるだの何だのうだうだ言ってたわりに、やはりこうして出掛けることは嫌いではないらしい。
そうして雑談をしていた時、急に馬車が止まった。
御者の悲鳴が響いて、冒険者が慌てて確認に外へ出ようとした瞬間にその首がはねられてしまった。
それも二人同時にである。
つまり、護衛が殺されたのだ。
事態の把握をする前に、武装をした魔族達が乗り込んできた。
「馬車ジャックだ」
「わお」
樹里とエステルは、どこか淡々と言葉を交わす。
と、他の乗客が怯えているところに魔族達が声を上げた。
「こっちは当たりだな!
上玉がいるぞ!」
樹里とエステルを見て、その魔族は下卑た笑いを浮かべた。
「おや、嬉しい」
恐怖耐性のお陰なのか、あるいは仕事がら故か、樹里は人が惨殺されたのを目撃したにも関わらず、やはり淡々としている。
しかも、元の世界では見向きもされなかった容姿をさして【上玉】と言って貰えたことに少しだけ機嫌を良くする。
ちなみに家族や親戚などからは、直接的であったり遠回しであったりしたがかなり頻繁に妹と比べられ、ブスと呼ばれていた。
子供の頃はそれなりに傷つきはしたものの、いつしかその感覚も麻痺してしまった。
いい思い出である。
「樹里様、呑気だなぁ。このままだと殺されるぞ」
「それは、ものすごく困る。激辛鍋が食べられなくなるのは困る」
と言うか、純粋に死にたくない。
と、そんな俺達の会話が聞こえていたらしい。
乗り込んできた魔族の一人が座っている樹里達に目線を合わせると、やはりニタニタと笑いながら言ってきた。
「安心しろ。すぐには殺さねーよ。
それにこの匂い、お前ら生娘だな?
死ぬ前に天国見せてやるよ」
言葉がおかしいが、いちいち指摘しても疲れるので樹里はそこで目を細めた。
そして、口を開いた。
「セクハラ魔族が、そのきったねー口を閉じろ」
静かに言って、しかし言われたことを魔族が理解するよりも早く、樹里の手はその魔族の口許を鷲掴みにしていた、
「吐き気がする。女は性欲処理の道具じゃねーんだよ!」
ベゴキンっ!
一気に力をいれ、樹里はその魔族の口、というか顔を砕いてしまった。
痛みに、魔族がのたうち回る。
異変に気づいた他の魔族が装備していたライフルなのかマシンガンなのか、樹里には判断がつかなかったが、とにかく銃を向けられる。
しかし、完全に銃口が樹里に向く前にエステルが動いた。
残る魔族は二人、まず他の乗客の近くにいた一人の腕を掴んで、ねじきる勢いであり得ない方向にその腕を回しへし折った。
同時に、無理矢理銃を奪うと足払いをかけて倒してしまった。
立ち上がれないように、片方の足に一発銃弾を打ち込む。
そして、残った一人と銃を向けあった。
「こういうのは苦手なんだよな」
苦笑して、引き金にもう一度指をかけようと見せかけて、床を軽く蹴りつけた。
それだけで、魔法の鎖が伸びて最後の一人を拘束したのだった。
スキル名のト書きを書いた方が良いのかいつも悩みます。




