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何していいかわからないんです。基本出不精だから。

 急遽、役所本部から貯まった有給を消化するように言われてしまった。

 その日数は、三十日である。

 つまり、一ヶ月間だ。

 その指示に樹里は、即答で、


 「休みは要らないので、その分現金でください」


 と、無茶苦茶なことを口にした。

 と言うのも、もちろん理由がある。

 休むと体調を崩すのだ。

 仕事をしている方が体調が良いくらいなのである。

 その社畜特有の理由を言ったら、直後ーーつまりはその日の午後から休みとなった。


 「解せない」


 そこまで強く言われたわけでもないが、決められたルールだからと説得されて、その日から樹里は休みを貰うことになったのであった。

 と言っても、急に出来た余暇をどう使ったものか悩んでしまう。

 一応、私室として与えられている、どこかの高級ホテルのスイートルームのような部屋で、適度に堅いベッドに横になりながら、ウィンドウを操作してこちらの世界のゲームの実況動画をぼうっと見始めた。

 本当はふかふかだったベッドを堅いものにしたのは、柔らかいと単純に腰が痛くなるからだ。

 一応、自炊も出来るようにコンロも設置されている。

 しばらく、ごろごろダラダラと動画観賞をした後、寝落ちしてしまい起きた時には翌日となっていた。

 それから数日はそんな調子で過ごしていたのだが、そんな彼女の元にさすがに見兼ねたのかアルズフォルトがやってきた。

 樹里が休みの間は天界に戻ると聞いていたのだがまだ帰っていなかったようだ。


 「あの、どこか出掛けないんですか?」


 「基本インドアだから、自分」


 「せっかくの休みですよ! ほら、旅行とか」


 「出先で、誰それが体調崩したとかトラブルが起こって駆けつけるよりも、自宅待機してた方がすぐ対処できるから」


 「樹里さん、あの、ちなみにですけど。

 元の世界だと休みの日って何してたんですか?」


 「給料が入ってとくにトラブルが無さそうな日なら図書館行ったり、銭湯行ったり、弥彦に鹿見に行ったり。

 でも基本家からでなかった。寝てた。胃も痛かったし、そもそも起き上がれないくらい体調悪くなってたから」


 「............」


 「あと、旅行だって簡単に言うけどお金かかるじゃん」


 「でも樹里さん、ほとんど使ってないですよね?

 食事は基本社食だし、なんならお夜食だって出ますし」


 樹里が約束させた衣食住の保障、それはこの魔族側にいてもちゃんと守られている。

 衣に関しては、魔王としての衣装は支給されている。

 プライベートな私服に関しては、適当に古着をネット通販して買っている。

 ほぼ外に出る理由がないのだ。

 休みではあるものの、樹里に関しては

 

 「こっちのお金を元の世界でも換金できるなら貯めるに越したことはないし。

 使うときは使ってるけど」


 言いつつ、備え付けの三つの本棚の一つを指差す。

 そこには本ではなく、映画やらアニメやら舞台にミュージカルといったディスクが収まっていた。


 「こういうのが好きすぎて結婚できなかったんですか?」


 「違う違う。自分、基本、人が嫌いだから」


 「はい?」


 「あと、自分の父親見てたからかなぁ。

 嫁に行くでも、婿を取るでもどっちでも良いけど、自分が住んでた所って男尊女卑がそれなりに残ってる田舎でさ、結婚すれば夫の子育てすることになるのが嫌だっただけ。

 極端なこと言うけど。

 ブラック企業以上にブラックなのが、典型的な農家だと思ってるし。

 女性を酷使して、司令塔である大黒柱は楽な作業をする家だったしね。

 年末の大掃除なんて、自分達は炬燵でぬくぬくしながら、あそこはやったのかここはやったのかって、口だけは出してきたり。

 弁当は手作りじゃなきゃ嫌だ、とか、どんなに頑張っても認められないかったりとか、いや違うか労いが無さすぎるんだ。

 あとは、とにかく支配しようとしてきたりとかね。

 所謂、長女だから長男だから理論。

 跡を継いで家を守れっていう絶対的な命令。

 それが嫌すぎてさ。だから嫌がらせで実家を自分の代で潰すことにしたんだ。

 子供だと言って良いよ。こう考えるくらいには私は家族のことも親戚のことも嫌いだし、入った会社はブラックでますます人が大嫌いになっただけだから」


 「いや、でもいい人もどこかに」


 「いままでの人生の何処かしらで、『いい人』に出会ってたらこんなに性格歪んでない」


 こりゃダメだ、アルズフォルトは言葉を飲み込んで息を吐き出した。


 


 


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