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「居ない?」

 さんさんと降り注ぐのは光の雨。

 高度が高いために、空気は澄んでいるが風が強い。勿論魔法によって維持されている城は、住みやすいように加減されている。

 それでも、室内にある壁掛けや人々の衣装が、開いた窓から吹き込んでくる風ではためいてうるさい。

 男は目を細め、自分のマントを軽く翻した。

「探せ」

 分かり切っていることだが、上官命令は形式であろうと必要であるから、後ろに控える武人たちや文官たちにはっきりと聞こえるように発言しなければならない。

 彼は腹の底に力を入れ、ため息をこらえた。

「城外もだ――ただし、外部にそれと悟られぬよう、秘密裏に行え」

「それが――すでに国内にも見あたらないようでして」

 壁際に立っていた一人の男が、ひょいと肩をすくめる。服は黒いが、髪が白いためにひどく目をひく。

「いや、国内って気もするんですが、なにぶん透視しようにも、何か強い力が阻んでるんですよ、そう、僕なんてそりゃあもーちょー弱っちいみたいなーって分かっちゃうくらいに強いです」

「シェーラ……お前は何年経っても変わらないな」

「そっかな」

 鎧と剣を身につけた、この場の最高指令者は、短く刈った己の白い髪をかき回す。

「お前が弟だなんて、許せないくらいだ」

「ふふ、僕の有能なる力がなけりゃあ、ベルガザード家もおしまいさ。いっくら将軍のお前が居ても、武術より盤上でコマを動かすほうが得意でしかも戦闘よりも事務のほうができるんじゃあさぁ」

「魔術の司、全力で彼女を見つけろ。これは将軍命令だ」

 二人のやりとりを見ている下官たちは、こっそり小さなため息をついた。見慣れてはいるが、彼らのやりとりはいつも無駄に長引いては本題から逸れていく。頬に傷のある屈強な武人と、すらりとした肢体を闇色のローブで隠した青年とは、性格も容姿も、その色を除いては似てもにつかぬ双子の兄弟だ。

「分かってるよ」

 魔術の司は再び肩をすくめ、床に届くかというほどに長い髪を面倒そうに払いながら部屋を出る。

 将軍もまた別室に移ろうとして、

「――全員、はやく配置につけ」

 と命令を下し、全員を退室させてから一人、廊下へ出た。


 神の花嫁が逃亡して、それが最初の一日だった。

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