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いちご  作者: リュウ
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紫陽花

 6月になり、雨の日が多くなった。僕等剣道部は元々室内で練習しているから、天気の影響はない。しかし、合羽を着て自転車をこぐ登下校は大変だから好きではない。だから雨は苦手だ。

 学校では、進路希望調査が行われるようになった。そのプリントに第1希望から第3希望まで記入するように言われたが、みんな記入に困った。

「志望校って言ってもよく知らないしな」

僕等はまだ、周辺にある高校のことをよく知らない。

 なので僕は、父さんに相談してから記入しようと思った。そして、夕食の支度をしながら父さんの帰りを待った。

「父さんお帰り。ちょっと相談したいことがあるんだけど…」

夕食の後、父さんに事情を話した。

「志望校?それは親に言われて決めるもんじゃないだろ」

父さんにそう言われた。

「でも、できれば公立の、専門学科の高校の方がいいよね?」

「どうして?」

父さんに不思議そうに聞かれた。

「その方が就職しやすいから」

僕の家は10年以上前に両親が離婚して、父子家庭なのだ。だから、高校を卒業してから進学するのは負担になると思う。

「まあ、できれば公立の高校に行ってほしいけど、どうしても高卒で就職してくれとは思ってないよ」

父さんにはそう言われた。でも、就職を少しでも考えている場合、普通高校は行かない方がいいと思う。

「専門学科の高校からも進学はできるよね?だから、普通科には進学しない」

「そうか。聡史は勉強できるからもったいない気はするけど、それでいいんじゃないか」

僕は塾に通ったことはないが、それなりに勉強してきた。

「でも、何科がいいだろう?商業、工業、農林とか、色々とあるけど」

僕は専門学科と言っても、よくわからなかった。

「俺は商業か工業がお勧めだな。農林系の学校は、聡史にはもったいない」

父さんにそう言われた。

 僕の家は農家ではないから、農林系はよく知らないし、あまり興味がなかった。だから、お勧めできないと言われてもさほど悲しくはなかった。

 そして、商業と工業、どちらがいいのか迷った。商業は女子、工業は男子が多いと言われているが…。

 ふと、遠藤さんはどの高校を目指しているのだろうと思った。そんなことを考えるなんて、意志が弱いってことだよな?

 でも、迷っているなら、好きな人と同じ学校を目指したいと思うのは、おかしくないよな。

 遠藤さんはこんなことを知ったら、僕のことを気持ち悪いと思って嫌うだろうか。だから、このことは誰にも言わないでおこう。

 翌朝、プリントも持って登校した。この日も梅雨らしい雨降りだ。通学路には、紫陽花の花が咲いていた。

 紫陽花の花の色は似ているようでそれぞれ違う。きっと、高校もそれと同じで似ているように見えても校風は全然違うのだろう。


 「聡史、志望校はどこにすんの?」

翌朝、ホームルームの前に、諒一にそう聞かれた。

「専門学科の高校にしようとは思ってるけど、まだ決めてない」

「そうか。遠藤さんは商業高校を目指してるらしいけど?」

「‼」

諒一に、言わないでおこうと思っていたことをあっさりと言われてしまったので、言葉を失ってしまった。思わず、教室に遠藤さんがいないか確認してしまった。良かった、いない。

「昨日、バスケ部のみんなでどこの高校を目指してるかって話してたんだよ」

そうだ、諒一も遠藤さんもバスケ部だった。

「迷ってるなら遠藤さんに付いて行ってもいいと思うけど?」

僕は諒一に対して遠藤さんのことが好きとは一言も言っていないのだが…。

 そのくせ、帰宅してからプリントに、彼女が希望していると思われる商業高校を第1志望校として記入した自分がいる。

 この高校は、商業・情報・国際の3学科あるのだが、自分は英語が不得意ということと、就職率が低いことから、国際科は希望から外した。

 そして直感で、情報化を第1希望、商業化を第2希望にしておいた。そして、第3希望は工業高校で、学科未定にしておいた。

 このプリントは保護者のサインが必要になるので、改めて父さんに見てもらった。

「商業高校にしたのか。商業は女子が多いから男子は大変だぞ」

父さんにはそう言われたが、同じ高校を目指す好きな女子でもいるのかとは言われなかった。ただ、冗談っぽく

「だから、商業高校に入ったら女子にモテるかもよ」

とは言われた。

 まさか。いくら男子が少なくても、僕みたいな頼りない男はモテないだろう。男らしくないし、かっこよくもないから。それに、モテたいとも思わない。

「まだよくわからないから、迷ってるけど」

「今はそれでいいさ」


 そのプリントを提出した直後に、実力テストがあった。3年生になってから、実力テストの回数が増えた。

 このテストは進路に直接的な影響はないが、偏差値がもろに出るから気が抜けない。本当に、勉強ばかりで嫌になってくる。

 でも、2回に分かれて行われる公立高校の入試のうち、1回目の試験は学力試験がなく、3年生の成績が重要になる。だから、嫌だと言わず、しっかり勉強する必要がある。

 それに、高校のことは早くから知っておいた方がいい。そう思って、高校について調べるようになった。

 学校の図書室にある学校案内は、普通高校を中心に置いてあったのが少し鼻に付いた。そのため、パソコンで、気になる高校のホームページを見ることにした。そして、商業高校と工業高校の両方に魅力を感じた。

 商業高校は僕のイメージ通り、国際科は就職率が低いことがわかった。それから商業科は商業について幅広く、情報科はパソコンを中心に勉強することもわかった。

 でも、この2学科に大きな違いはないような気がした。1番違うのは、商業科は何クラスかあるけど、情報科と国際科は1クラスしかないということだろうか。遠藤さんは何科を目指しているのだろう。

 一方、工業高校は学科が多い。機械科・電気科・自動車科・建築科がある。工業高校は学科によって勉強する内容や取得できる資格が違う。

 その中で、もし入るなら電気科と思った。この学科は、電気や通信の勉強をする学科で、情報科との共通点も多いから。

 父さんがITの仕事をしているということが関係あるのか、自然とそんな学科に惹かれていた。

 でも、商業も工業も多くの資格が取得できて就職率も高い。高校について詳しく知ることがいいが、さらに迷ってしまった。


 それから1週間後、私立高校と高等専門学校の説明会があった。僕にとっては私立高校を受験するつもりはないから、そこまで興味は出ないのだが。

 それでも説明を聞かないのは失礼と思い、説明を聞き、配布された資料に目を通した。でも、そうして私立や高専のことを知れば知るほど、自分とは縁のない学校たちと思うのだった。

 高専は工業の勉強ができる学校もあるが、そこは僕の家から遠いし、とても高倍率らしい。


 それからも、配布された進路の手引きを何度も見た。昨年度の高校入試のデータや、学科の説明がされている。

 でも昨年度のデータ、特に入試の倍率は、その年によって波があるから参考にはしにくいらしい。それに、資料だけではわからないこともあると思う。

 だから、夏休みは高校のオープンスクールに参加しよう。それから志望校を商業にするか工業にするかを決めよう。

 こうして進路のことを考えているうちに、6月が終わってゆくのだった。

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