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いちご  作者: リュウ
3/14

遠足

 5月の上旬に、学校行事の中で最初の楽しみである遠足があった。遠足と言えば、原則行動するグループを自分たちで作るように言われるのだが、今年は違った。


 「じゃあ、くじを引いてくれ」

今年の担任の富田先生は、くじ引きでグループを作ると言った。それも、体育の授業の班分けみたいに、数字が書かれた木の棒を引くタイプのくじだった。

 36人のクラスなので、男子3人女子3人の6人組のグループを6組作るという。富田先生は社会科の先生なので、こんな分け方をするとは思わなかった。

 先に女子がくじを引いたので、僕ら男子は女子以上にドキドキした。そして僕は、残り少なくなったくじの中から、1本引いた。

「6班。6班ってどこに集まればいいんだ?」

僕が1人で迷っていたら、遠藤さんに

「もしかして、もりさと君も6班?」

と聞かれた。僕は、初めて彼女に声を掛けられたことと、同じ班になったことが嬉しかったが…

「もりさと?僕は森崎だよ。森崎聡史」

「ああ、そうか。ごめんね、間違えちゃって」

彼女が恥ずかしそうに笑った。それを見ていて、僕も笑ってしまった。

「僕の名前を略したら『もりさと』だから、そう呼んでもらっていいよ」

「えー、いいの?なんか悪いよ」

これが、僕が初めて彼女と交わした会話だった。

「佳穂、何男子と楽しそうに喋ってるの!」

彼女の背中をポンと叩く女子がいた。

()(おり)!そうだ、一緒の班だったね」

「そうよ。みんなで行動するんだから、いちゃいちゃしないでね!」

二宮彩織にそう言われて、僕は赤くなってしまった。彼女は

「そんなことないって!」

と言い返している。僕は、これが反発なのか照れ隠しなのかがわからなかった。

「聡史、一緒の班だったか。よろしくな」

その後、幼馴染の諒一(りょういち)の顔を見て、僕はほっとした。それから残りの2人もやってきて、どこをまわるか話し合うことになった。

「遊園地といえば絶叫マシンだけど、みんなは大丈夫?」

と遠藤さんが言い出した。

「絶叫マシンいいね。乗ろう乗ろう!」

と班のみんなは盛り上がっている。僕はというと、絶叫マシンは怖くて乗ったことがない。でも、これをきっかけに乗ってみようかな。

「僕も絶叫マシンに乗るよ」


 「聡史、隣の席に座ろう!」

バスの座席表を掲示されたとき、諒一にそう声を掛けられた。バスの座席は自由行動の班とは関係なく、自由に決められるのだった。

「そうだな」

「前の席じゃなくても大丈夫か?」

諒一に、そんな心配をされた。

「うん大丈夫。そんなに酔わないから」

「無理するなよ」

僕は車酔いしやすいしやすいタイプなのだが、そのことをあまり知られないようにしている。周りに迷惑を掛けたくないし、心配させたくないから。それに、酔い止め薬を飲んだら大丈夫だから。諒一と隣で話していたら、車酔いすることもないだろう。


 「晴れ男の聡史のおかげで、天気予報を裏切って晴れたな」

「いや、僕は関係ないって」

遠足当日は、見事な五月晴れとなった。直前まで雨が降ると予報されていたので、本当に嬉しい。

諒一からは、僕が晴れ男だからだと言われた。僕は昔からそう言われてきたが、きっと偶然だ。

僕等はバスに乗り込んで学校を出た。移動に2時間以上はかかると思うが、移動も遠足の楽しみのひとつだ。

「先生、カラオケってできますか⁉」

高速道路に入ったところで、クラスの男子の前田が富田先生に聞いた。

「あるよ。歌うか?」

「歌いまーす!」

前田が元気良くそう言うが、こいつは歌が下手なんだよな。

 案の定、前田の歌はジャイアンのリサイタルのような状態になり、クラスメート達は耳を押さえていた。

「他に歌いたい人いる?」

そんなことに気付いているのかいないのか、前田がそう聞いた。

「佳穂、いい声してるし歌いなよ」

二宮さんらしき女子の声がした。遠藤さんの歌、聴いてみたい。

「私の歌なんて聴きたい人いる?」

彼女はそう言っていたが、クラスメートたちは

「聴きたい!」

と盛り上がっている。彼女の歌は、そんなに有名なのだろうか。

「わかった。その代わり、好きな歌を歌っていい?」

彼女はそう言い、マイクを握った。

「何でもいいよー」

クラスメート達にそう言われ、彼女は歌いだした。

彼女が歌ったのは、以前話していたバンドの歌だった。この歌は、僕も大好き歌のひとつだ。

彼女の声は可愛くて、とても歌が上手かった。僕は、男性目線で書かれている歌にも関わらず、とてもきゅんきゅんした。

僕等は彼女が歌い終わると、自然と拍手をしていた。そして、そのままアンコールの手拍子になった。彼女は、

「また歌うの?」

と動揺していたが、もう1曲歌ってくれた。

 その歌も、前に歌っていたのと同じバンドの歌だった。また違ったタイプの歌だったが、彼女は上手く歌いこなしていた。

 そんな感じでバスの中で盛り上がっていたら、あっという間に遊園地に到着した。楽しみはこれからなのに、遊園地で遊ぶことがおまけみたいになってしまった。

 「さあ、何から乗る?」

遊園地に入場してから、遠藤さんが楽しそうに聞いてきた。

「僕はなんでもいいけど?」

僕は乗りたいものを決めていなかったのでそう言ったが、二宮さんが

「ジェットコースターに乗っちゃう?」

と言い出した。

 僕は、いきなりジェットコースター!と思い、心の準備ができずにいたが、班のみんなは乗る気満々だった。こうなれば、乗るしかないよな。

 僕等が乗るジェットコースターは、2人1列になっていた。男女3人ずつの班なので、必ず異性と同じ列に座る人が出る。と考えていたら、残された僕と遠藤さんが最後に乗ることになってしまった。

 彼女に

「隣に座ってもいい?」

と聞くと、彼女は嫌そうな顔をせず、

「うん」

と答えてくれた。

 いざジェットコースターに乗ると、遠藤さんの隣に座っていることよりも、人生初のジェットコースターの怖さに緊張した。この鼓動が、彼女に伝わってしまうのではないかと不安になった。

 僕が1番緊張したのは、ゆっくりと上昇するところだった。もうすぐ高速で急降下するというのに、焦らすように昇るのは、本当に怖かった。

 そして急降下して何回転もしたときは、悲鳴も上げられなかった。そして気分が悪くなってしまった。ジェットコースターを降りるときには、すっかりへろへろになっていた。

「大丈夫⁉」

遠藤さんが、そんな僕の体を支えてくれた。

 その後、他のメンバーも僕を心配して僕の周りに来てくれたが、僕は自分のせいで他の人の遊ぶ時間が減るのが嫌だったので、

「僕は大丈夫だから、みんなは他のアトラクションで遊んでいていいよ」

と言った。そのくせ、吐き気がしていた自分が情けない。

「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」

「荷物を持つよ」

「ありがとう」

遠藤さんが、僕の荷物を預かって待ってくれた。

「ごめんねもりさと君。絶叫マシンに乗ろうなんて言って」

「遠藤さんは謝らなくていいよ。僕、初めてジェットコースターに乗ったから、どんな感じかわからなかっただけ。気にしないで」

本当は、彼女と一緒にアトラクションに乗りたかったのに、気持ち悪くなってしまった自分がかっこ悪いと思った。

「無理せずゆっくりしてね」

と彼女に言われた。

「いや、もう大丈夫。次のアトラクションは一緒に乗ろう」

せめて、そう言って彼女を安心させたかった。実際、口を漱いで爽やかな風を受けていたら、気分もすっきりした。

 「聡史、もう大丈夫か?」

僕がトイレに行っている間にアトラクションに乗っていた四人が戻ってきた。

「うん、もう大丈夫」

「じゃあ、次はフリーフォールに乗っちゃう?」

二宮さんにそう言われた。

「いやいや、絶叫マシンは無理!」

僕は本気でそう答えた。これ以上気分悪くはなりたくない。

「じゃあ、佳穂と好きなところをまわったら?」

二宮さんにそう言われた。

「え、分裂したら富田先生に怒られない?」

僕は分裂するとうことよりも、遠藤さんと2人きりになることに動揺して赤くなってしまった。

「もし怒られたら私のせいにしてくれたらいいよ。じゃあね」

二宮さんはそう言い残して他の3人と一緒に離れてしまった。

「どうしよう…」

遠藤さんと2人取り残された、困って彼女の顔を見た。

「彩織の言葉に甘えて、好きなところをまわろうか」

彼女は笑顔でそう言った。これが苦笑いじゃなかったらいいけど。

「乗りたいアトラクションってある?」

せっかくなら彼女の行きたいところに行こうと思って聞いた。

「観覧車!もりさと君は観覧車は平気?」

彼女が嬉しそうにそう言った。

「平気だよ。一緒に乗ってもいい?」

「もちろん」

観覧車は僕も好きだ。でも、彼女と同じゴンドラに乗るのはドキドキする。

「彩織は観覧車は苦手だって言ってたから、乗れないと思ってたの」

彼女はゴンドラの中でそんな話をしていた。目の前に座る彼女は、とても楽しそう。

「二宮さんは、観覧車に乗りたくなかったから離れていったのかな?それとも僕と一緒に行動したくなかったのかな?」

「そんなことはないでしょ。でも、観覧車に乗れて本当に良かった」

僕はこうして彼女の笑顔を見られて良かったが、そんなことは恥ずかしくて言えなかった。

 「今日は本当に楽しかったね」

帰りのバスに乗るときまで、彼女はずっと笑顔だった。まあ、それは僕と2人だったからではなく、好きなところをまわれたからだろうけど。

 でも、彼女も僕も、楽しい思い出ができて良かった。

「聡史、遠藤さんとのデートは楽しかった?」

バスの中で、諒一にそう聞かれた。

「デートじゃないって!でも楽しかったよ。諒一たちは?」

「俺達も楽しかったよ」

諒一はそう言っていたが、バスが出発してしばらくしてから寝てしまった。

 他のクラスメートも疲れているのか、寝ている人が多くて、バスの中は静かだった。

 しかし僕は、体は疲れているはずなのに、楽しかったという感情が高まって、眠れずにいた。

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