エピローグ〜桜の絨毯〜
「佳穂さんおはよう」
高校の入学式の朝、僕は佳穂さんと駅で待ち合わせをした。これからは、2人で一緒に登校することになる。
「おはよう。新しい制服、似合ってるね」
佳穂さんにそう言われた。
「ありがとう。佳穂さんも、新しい制服が似合ってるよ」
「ありがとう」
高校の制服は、中学校で着ていた制服とデザインが大きく違ったものだ。夏休みのオープンスクールでも見たが、やはり男の僕から見てもいいデザインだと思った。
外の空気は少しほこりっぽく風も吹いているが、入学試験の時期と比べると遥かに温かくなった。父さんが去年庭に植えていた苺は、白い花が咲いて、果実も紅くなり始めていた。
そう考えているうちに、電車がやってきた。それはすでに満員で、ちゃんと乗れるのか不安になってしまったが、佳穂さんと一緒に乗ることができた。この満員電車の通学も、そのうち慣れるだろうか。
電車を降りて、駅から高校まで歩く通学路も、オープンスクールや入学試験の時と違って、春を感じる景色が広がっていた。この道を、まだ佳穂さんと手を繋いで歩くことはできないが、何気ない会話なら普通にできる。
1ヶ月くらいあった春休みの間、佳穂さんと頻繁に連絡を取り合ってはいたが、特別に2人きりで遊びに行くことはなかった。そんなこともあり、僕は佳穂さんとのことを父さんに話す機会がなかった。隠すつもりはないのだが。
そのため父さんは、僕がこうして佳穂さんと2人で登校していることを知らない。このことで父さんが怒ることはないだろうから、いつかは話そうと思っている。
校門を潜ると、桜の木が僕等を迎えてくれた。花は散り際で、風に舞う花びらが校舎の前に薄紅色の絨毯を作っている。
「校舎の桜、綺麗だね」
佳穂さんがそう言って微笑んでいる。
「そうだね」
と、僕も笑顔がこぼれた。こうして佳穂さんと2人で目指していた高校の校舎の前で、桜の木を眺められることが、何より嬉しい。
さあ、僕等の新しい学び舎へ踏み出そう。ここから、僕等の高校生活が始まる。