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いちご  作者: リュウ
13/14

卒業式

 中学校の卒業式が近付いてくると、中学校であった出来事を思い出すようになった。高校が別々になる仲間もいるが、遠藤さんと同じ高校に入れると思うと、それほど寂しくない。高校が離れたら仲間と会えなくなるわけでもないから。


 卒業式当日は、遠藤さんへのプレゼントを用意して学校へ向かった。もう中学校へ行くのもこれが最後になる。そして、式の合唱でピアノ伴奏を担当することになった。色々な意味で、僕はどきどきしながら登校した。

「おはよう森崎君。プレゼントはいつ渡すの?」

教室に着くと、二宮さんにそう聞かれた。

「卒業式の後にでも」

何でそんなことを聞くのだろう?僕は相談する相手を間違えたのだろうか。

 そして、卒業式が始まった。体育館は寒く、体が震えそうになった。変な話、合唱のピアノ伴奏をしているときの方が、ヒーターが近くにあって暖かかった。

 しかし、富田先生に名前を読んでもらったときは、何だか嬉しかった。卒業式は堅苦しくて、決して楽しいものではないが、大切な学校行事だ。でも、早く卒業式を終わらせて、遠藤さんにプレゼントを渡したい。

 「遠藤さん、渡したいものがあるから、一緒に早めに教室に戻ってもいい?」

卒業生退場の後すぐに、僕は彼女にそう言った。

「いいよ。何だろう?」

彼女はバレンタインデーに僕が言ったことを忘れてしまったのだろうか。僕は早足で教室に向かった。他のクラスメートが来る前に渡したいから。

「遠藤さん、これ、バレンタインデーのお返し」

「ありがとう。そういえば、そんなことを言ってたっけ。開けてもいい?」

「うん」

彼女は僕からのプレゼントを開けて、明るい表情になった。

「タオルにCD⁉︎両方私にくれるの?」

「だって、遠藤さんは僕に誕生日プレゼントもくれたから」

僕は、彼女がくれたシャーペンをお守りに入学試験の作文を書いてきたのだ。それに、バレンタインデーのときにはチョコレートをくれた。手作りのお菓子の味をほとんど知らなかった僕は、涙が出そうな程嬉しかった。それからしたら、僕からのお返しは軽すぎるくらいだ。

「そんな、良かったのに。でも大切に使うね。タオルは可愛いし、CDも欲しかったから」

「CD、もう持っていたらどうしようって思ってた」

彼女に贈ったタオルは向日葵模様のもの。彼女が生まれた夏をイメージして選んだ。それから、CDは彼女と僕が好きなバンドの新曲。もし彼女が持っていたらどうしようと思いながらも購入した。

「本当にありがとう」

彼女にそう言われた。まだ他のクラスメートは来ないな。と思い、覚悟を決めた。

「遠藤さん、中学校は卒業するけど、高校に入ってからもよろしく」

「こちらこそよろしく」

彼女がそう微笑む。チャンスは今しかない。ちゃんと言わないと。

「あの…僕、遠藤さんのことが…好きです」

赤くなりながらそう伝えたら、突然外からクラッカーの音がした。彼女はきゃっと短い悲鳴をあげて僕の腕にしがみついた。なので僕は、色々な意味でどきどきした。

「おめでとう‼︎」

クラスメート達がそう言って、教室に入ってきた。何これ⁉︎どういうこと?

「やった、大成功だね」

二宮さんがそう言う。

「どういうこと⁉︎」

遠藤さんが二宮さんに聞いた。

「2人のカップル成立の瞬間に立ち会ってお祝いしてあげようと思って、クラッカーをしのばせたの」

「何でそんなことするのよ、彩織のばかー‼︎」

遠藤さんは赤くなりながら、二宮さんの背中をべしべしと叩いた。

「だって、2人の中は有名よ。キヨンセちゃんはもちろん、富田先生も知ってるよ」

キヨンセちゃんはもちろんだったのか⁉︎

「って言うか2人って付き合ってなかったの⁉︎」

と言うクラスメートまでいた。僕は恥ずかしさで逃げ出したくなった。きっと、遠藤さんも僕と同じように思っているのだろう。なのに前田が

「さあ、まだ聞いてないぞ。遠藤佳穂、返事はどうだ⁉︎」

なんて言ってきやがった。

「私、みんなの前で返事しなきゃいけないの⁉︎」

「うん」

クラスメート達にそう言われる彼女が可哀想だった。しかし彼女は小さな声で

「私も…もりさと君のことが好きです」

と言ってくれた。

「良かったな、さとる!」

前田はまた僕の名前を間違えた。遠藤さんのフルネームはちゃんと言ってたくせに。これは絶対わざとだと思った。卒業式で、富田先生が僕のフルネームを呼んだばかりだから。

 「もりさと君!」

最後のホームルームの後、校舎を出たら遠藤さんにそう声を掛けられた。そう、始業式のときと同じ、桜の木の下で。

「さっきはびっくりしたね」

やはり、彼女もあのサプライズに驚いていたのか。あれで驚かない方がおかしい。

「プレゼントを渡すタイミングが悪かったのかな?ごめんね」

「いいのいいの。もりさと君のせいじゃないから。あれは彩織のバカのせい」

でも、あのときの彼女は可愛かったな。

「それから、さっき言ってたの、嘘じゃないから。私、もりさと君のことが大好き」

「良かった」

彼女の返事は、周りに乗せられてしたものじゃなかったんだ。それも、大好きだなんて。

 ふと見上げると、桜の木が冷たい風に揺れていた。3月と言ってもまだ寒いが、春は確実に来ている。桜の花はまだ咲いていないが、もうしばらくしたら咲き始めるだろう。

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