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いちご  作者: リュウ
10/14

プレゼント

 ついこの前夏休みが終わったと思っていたのに、もう冬休みが始まろうとしている。一応、冬休みの宿題は渡されたらすぐ始めるようにしている。そうすれば、だいたい年内に宿題を終わらせることができる。

 今年のクリスマスは?というと、イヴではないが、冬休み前に剣道部で集まらないかという話があった。僕のクラスに剣道部員が他にいないので、シロちゃんがわざわざ連絡をくれた。プレゼントは必要ないから、一緒に遊びに行かないかと。それから、柔道部もその話を知り、一緒に集まることになった。


 「部員で集まるのって、久しぶりだな」

そして約束をした日に、僕等はショッピングセンターのファミレスに集まった。この集まりは強制ではなかったから、集まったのは剣道部と柔道部の男子だけ。女子部員にも連絡を取ったが、全員に断られたらしい。結局、男だけの方が気楽だからな。

「聡史はクラス違うからあんま会ってなかったよな。進路とかどう?」

1番クラスが遠いシロちゃんに聞かれた。

「まあまあ順調だよ。剣道部は、公立の普通高校を目指してる人が多いんだっけ?」

「そうだな。俺は工業の機械科を目指してるけど」

シロちゃんはそう言っていたが、他の剣道部員はみんな普通科志望だった。

「シロちゃんも聡史も、勉強できるのにもったいねーよな。俺なんか、成績がギリギリって言われた」

景太がそう嘆く。こんな場所でも進路の話をしてしまうのは、受験生の性だろう。

「そういえば、遠藤さんとはうまくいってる?」

景太に、そんなことを聞かれた。

「聡史って、佳穂ちゃんのことが好きなのか?」

シロちゃんに聞かれた。

「佳穂ちゃんって呼ぶけど、友達?」

逆にシロちゃんに聞いてしまった。

「保育所からの幼馴染みだよ。佳穂ちゃんは昔から明るくて優しい子だから、聡史にはお似合いだと思うよ」

「そうか。志望校が同じだから、よく相談し合っているけど」

「なんだ、いい感じじゃん」

柔道部員からもからかわれた。そうだろうか。

 「なあ、この後クリスマスプレゼントを捕獲すべくUFOキャッチャーしようぜ?」

みんな食事が終わるという頃に、柔道部の武田がそう言い出した。

 「どうせならこのゲームをあんまりしないヤツから始めようぜ」

ゲームセンターに集まり、UFOキャッチャーの前で武田がそう言った。

「じゃあ、僕がします」

UFOキャッチャーどころか、ゲームセンター自体ほとんど行かない僕が最初に手を挙げた。

「聡史はゲーセン行かなさそうだもんな。頑張れ」

景太に応援された。このゲームは難しいって言われているよな。一発で取れるなんていう期待は全くしていない。そのため、直感だけでクレーンを動かした。

「すごいぞ聡史!一発で取ったじゃん。お前、天才だな」

僕の気持ちとは裏腹に、クレーンは一発で景品を掴んだ。そのことで、僕というより周りのみんなが盛り上がった。僕自身はというと、自分のしたことが信じられなくて、呆然としてしまった。

「よし、じゃあ次は俺がやる!」

その次に、景太が手を挙げた。しかし、一発で景品を掴めなかったので、悔しそうにしていた。

「もう1回!もう1回!」

ゲームに失敗するたびに、景太がそう言った。

「何回してもいいけど、お金を無駄にするなよ」

シロちゃんは、呆れたようにそう言った。

「やったー!ついに取ったぞー!」

景太は13度目の正直で、景品を手に入れた。僕等は呆れて言葉を失ったが、本人が喜んでいるからいいのだろう。それから他の人もゲームをしたが、全員景太より少ない回数で景品を掴んだ。

「何だ、俺が1番成績悪かったのかー。悔しい!」

景太がそう言う。

「別にゲームでビリになるくらいいいだろ?」

シロちゃんが冷静にそう言った。景太は進学してからも、シロちゃんみたいに冷静なことを言ってくれる人がそばにいたらいいのにと思ってしまった。そう考えると、2人の志望校が違うのは少し残念だ。


 クリスマスイヴ当日はというと、1人で宿題にかじりついていた。父さんは、仕事で帰りが遅くなるかもしれないと話していた。

 しかし、予約したケーキを楽しみに待ってろと言われた。そして、今年もちゃんとサンタクロースは来るから安心しろとも言われた。僕はもう、そんなことを期待するような年齢ではないのだが。

 そんな父さんへの恩返しになるかどうかはわからないが、僕はクリスマスらしいディナーを準備すべく、1人で寒さをこらえてスーパーへ向かうのだった。せっかく時間があるのだから、手の込んだ料理を作ろうか?そう考えるくらい、料理だけは得意になった。

 「ただいま聡史!」

「お帰り。早かったね」

父さんは、僕が思っていたよりも早くに帰ってきた。話していたように、ケーキも持っている。父さんは僕よりも明るい顔をして、僕が用意したディナーを見てはしゃいでいる。なんだか僕よりも子供みたいになっているな。

「やっぱり家族と過ごすクリスマスっていいよな。うちは男2人だけだけどさ。聡史もジュース飲むだろ?」

「うん」

父さんはそう言って、僕のグラスにジュースを注いでくれた。父さんは、こうして家で過ごせることが何より好きなようだ。

「ところで、飲み物はこれで良かった?」

「酒じゃなかったらなんでもいいよ。さあ、乾杯しよう」

父さんはほとんどお酒を飲まない。下戸という理由もあるが、動けなくなった自分を僕に介抱させたくないという理由もあるらしい。心配しなくても、10代の僕は、お酒を買いに行くことができないのだが。

 そんな感じで、ささやかではあるが父さんと2人で過ごせるクリスマスは幸せだ。

「聡史、今夜はサンタクロースが来るから早く寝ろよ」

食事の後に、父さんにそう言われた。

「わかってるって」


 翌朝、目を覚ましたら僕の寝室の枕元にクリスマスプレゼントが置いてあった。その上には、メッセージカードもあった。それには、

『聡史君、メリークリスマス。受験勉強で大変だと思うけど、疲れたら無理をせず好きなことをしてね。fromサンタクロース』

と書かれていた。プレゼントの中を見てみると、ピアノの楽譜が入っていた。僕は嬉しくて、思わず笑顔がこぼれた。

 メッセージカードに書かれている見慣れた優しい字、僕の欲しいものを知っているサンタクロースの正体。そんなもの、とっくに知っているのに、僕を思う気持ちが嬉しくて、つい気付かないふりをしている。きっと、向こうも全て僕にばれていると知っていながらも、こうしてくれているのだろう。

 でも、僕だっていつまでも子供なわけではないのだから、こんな甘えたことから卒業したほうがいい。そう思い、起きたばかりで眠そうにしているサンタクロースに言った。

「クリスマスプレゼント、ありがとう」

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