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鬼踊 -オニ-2



 病院が見えてきた。うわ。派手にやってるよ。駐車場に車停めてた人はどんまい。車の中で一緒に潰れちゃってる人は御愁傷様。

 戸舘班は例のごとく戦闘員二人に吸花一人という構成。

 現状は吸花が小型の引き付けていて、戦闘員の二人が大型をなんとか抑えている。多分戸舘班が来るまでカフカに捕まっていた人達なんだろうけど、まだ避難すら終わっていない状態。例のごとく恐怖で動けない人もいるけど、戸舘班に助けに行く余裕はないし、そこまでする一般人もなかなかいない。ていうかアホ人間どもは窓から顔出すのやめろ。カフカによっちゃあ目の前の敵よりも人間殺しを優先する奴もいることくらいテレビやネットで知ってる筈だろボケ。自分なら大丈夫っつー無根拠な自信持ってんじゃねぇよ。お前らに出来ることなんて大人しく喰われるか逃げるかだけだっての。いつまで絶対的捕食者の立場のつもりでいる気だよ、雑魚被食者が。

 あっと。

 気が昂ると口調が荒くなる。悪い癖、悪い癖。

 深呼吸。

 人間はさておき、正直、この状況はかなり有り難い。おあつらえ向きと言ってもいいくらいかも。

 足場を蹴り、戦場と化した駐車場へ急降下する。その間に刀を形成。

「空木!?」

 着地寸前、誰かの声が聞こえたけど、まぁどうでもいい。大型カフカに(テキトーに)切りかかりながら戦闘員二人に声をかける。えっと、どっちが戸舘班長さんだっけ? まぁいいや。

「二人とも、ここは私に任せてください! 二人はまず一般人の避難と小型の討伐をお願いします! こいつは私が殺……抑えておきます!」

「で、でも、あんたは……!」

「いいから早く! くっ」

 ちょうどいいタイミングで攻撃(棘)が飛んできたから、わざと戸舘班から離れるように跳んで避けた。

 と、避けた先に巨大な影。

 遠目で見るよりちょっと速いね。それとも避ける方向を読んでた? 少し知能があるのかな。そう考えると、普通のカフカよりかは身体の原型を留めているような気がしないでもない。でも元はなんなんだろう。正直、腐ったベヒーモスにしか見えなーーーー

 横殴りの前足。車をスクラップにする腕力。

 ゾクゾク。

 高く跳び上がって避ける。

 巨大な前足が空を殴る音。

 速いけど、やっぱりパワータイプだ。

 これまた有り難い。

 井戸上班の到着、あるいは戸舘班が小型を殺すまでに終わらせなきゃいけないから。

 ちょこまか動き回られるよりはいい。

 車どころかアスファルトすら砕く攻撃を避けながら刀を腐化。再形成。もっと長い刀に。

 知能が高いといっても所詮四足歩行の獣タイプ。敵を寄せ付けないどころか自分から近付いてくるし、隙をつけばカウンターで胸を一突きすることも不可能じゃない。

 私はその隙が来るまで待てばいい。踊っていればいい。

 身体を横にずらす。ヒラリと舞ってその場に残ったマフラーの先っちょをカフカの前足が抉った。

 恐ろしいね。恐ろしいね。

 理不尽を優しさに変える。お婆ちゃんが言ったことを出来る自信はないけど。

 私は恐怖を悦楽に変えることが出来る。

 前足での攻撃、飛び掛かり、噛み付き、体当たり。

 全てを紙一重で避けていく。余裕があるわけじゃない。悪い癖を治したらちょっとは余裕が出来るかもしれないけど。

 でもしょうがない。これが私のスタイルだ。

 ダイナミックに。刹那的に。感情のままに。

 戦うおどる

 ま、本当はガンガン攻める方が好きなんだけど。

 不意に断末魔が響いた。後ろに跳びながら目を向けると、胸に刃が突き刺さった小型カフカの姿。

 予想していたよりも優秀すぎるでしょ、戸舘班。

 視線を前に戻す。大型の攻撃は大振りなようでなかなか隙がない。何とか隙を作ろうとときたま軽い反撃をしてみるけど避ける素振り一つ見せないから意味がない。それしか考えていないみたいに攻撃を繰り出すだけ。

 格下と戦ってる時の私もこんななのかもしれない。そりゃあ鬼とか言われちゃうわけだ。

 隙を探す時間がないならしょうがない。

 一か八か。

 大型が前足を振り上げたタイミングで地面を強く蹴る。降り下ろされた前足が数十センチ後ろのアスファルトを抉る。

 横殴りの左前足を跳躍でかわす。

 そこへ大型の巨大な顔が迫ってきた。口が大きく開かれる。上下に並んだ鋭利な歯。

 避けられないけど、まぁいい。噛みつきなら吹き飛ばさない。でもただ噛まれるだけっていうのはムカつく。

 宙で回転して下の前歯に蹴りを叩き込んだ。蹴り足に感じた、パキ、と歯が折れる感覚は、カフカの口が閉じると同時に消え失せた。

 右足をきっちり噛み千切ってくれたのは有り難い。自分で切断する手間が省けた。

 予め足元に作っていた足場に左足だけで着地。更に噛みついてきたカフカを跳躍して避けた。

 そのまま背中の真上へ。

 懐に飛び込むことは難しくても、この刀の長さなら背中側から突き刺せば核まで届く。

 ふわっと浮き上がっていた身体に重力がかかる。

 切っ先を下へ向けて、刀を持つ両手に全体重をかける。

 唐突に、背中への衝撃を感じた。

 小さな子供でもぶつかってきた程度のもの。それでも、空中で、たった一点に全体重をかけていた私の体勢を崩すには十分すぎる衝撃だった。

 刀を再度構える暇もないまま背中に着地。

 やけくそに振り上げた刀は、背中の一部から射出された棘によって弾き飛ばされる。

 背後でなにかが動いた。そう察知すると同時に右半身へ強い衝撃。背中から落下しながら、攻撃の正体を目で追う。

 尻尾だ。最初の妨害もあれか? いや、でもそれにしてはあまりに衝撃が弱すぎーーーー

 カフカの身体がぐるんと回った。

 一瞬、眼前に顔。目があった気がした。それが通りすぎると同時、回転しながら振り抜かれた右前足が私の左半身を叩いた。

 あまりの破壊力に左半身は形を失い、ヘドロと化して周囲に散乱した。残った右半身も、駐車場の壁に叩き付けられたことによってベチャっと弾ける。

 身体が動かせない。

 当然だ。動かせる身体がないから。

 今の私を端から見るとビー玉サイズの球体でしかない。

 こうなるとお手上げ。もうなんにも出来ない。腐化、硬化はもちろん、再生すら。私の人としての意識が空木結羽を自然と形作ってくれるのを待つしかない。人でいう自然治癒みたいなものだ。もちろん、その間は完全に無防備で、動けるようになるまで十分はかかる。

 つまり、私の負け。

 幸運なことに私がぶん殴られると同時に戸舘班が戦いを始めたみたいで、カフカの注意はそっちに移っている。少なくとも今すぐ殺されることはないようだ。

 殺せなかった。

 残念。

 勝てると思ったのに。

 勝てたら私が一番だったのに。

 コタロウに報告出来たのに。

 ムカつく。

 ムカつくムカつくムカつく。

 何が?

 そんなの知らない。

 ただムカついてムカついて仕方がない。

 動かせる身体があったら駄々っ子みたいな動きで地面をぶん殴ってるかもしれない。

 怒りは優しさに変換出来るのかな。

 あのお婆ちゃんなら出来るのかもしれない。

 私は無理。

 多分、この行き場のない怒りは、そのうち誰かにぶつけることになってしまう。

 誰に?

 そんなの、知らない。




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