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鬼踊 ーヒトー9

『ピンポーン』

『ピーンポーン』

『ピーンポピンポーン』

『ピンポピンポピンポーン』

『ピピピピピピピーンポーン』

『ピピピピピピピーンポピピピピピピピピ』

 朝からうざっ。

 ソファに寝たまま顔をしかめて、枕元のスマホを取る……あれ? ない。あ、床に落ちてる。あ、漫画も落ちてる。寝落ちする前にどこまで読んだっけ。

 漫画をテーブルの上に置いてからスマホを手に取った。

 玄関チャイムは依然鳴り続けている。朝から近所迷惑もいいところ……うわ。もう昼過ぎてる。

 あーそっか。なんか寝付けなくて漫画読んでたら朝になってて……。最後に確認した時、時刻は七時を過ぎていた筈。

 現在十三時七分。

 そして、時刻の下に小さく表示されている日付は、四月一日。

 エイプリルフール。

 扇野支部所属の徒花としての仕事が始まる日。

 カチャ、と玄関の鍵が開く音がしたかと思うと、

「へい、結羽!」

 ここ数日ですっかり聞き飽きーー聞き慣れた声が聞こえた。

 廊下から聞こえる、タッタッタ、という軽い足取り。ドアが開いて戸舞流華が入ってきた。

「おっはーって寝てたの!?」

「うん」

「駄目だよー、沙良さらさんみたいな生活しちゃ」

「今日はたまたま。ていうか流華だって莉乃がいなきゃ不規則な生活するんでしょ?」

「えへへ」

 出た。笑って誤魔化す。相手が男なら百パーセントの成功率を誇る、戸舞流華の必殺技だ。でも残念ながら私には効かない。

「ところでどうやって鍵開けたわけ?」

「え?」戸舞流華はわざとらしく小首を傾げてキョトンとしながら「もちろん鍵でだよ」と右手を顔の横に上げた。立てた人差し指には指輪みたいにキーホルダーリングが引っ掛かっていて、それにはキモいキャラクターのストラップと鍵が付いている。

「なんで私の部屋の鍵を持ってるわけ?」

「隊長がくれたよ。一応私が班長だからね!」

 胸を張る戸舞流華。自慢かこら。

「莉乃が管理した方がいいんじゃない?」

「隊長もそう言ってた!」

「胸を張っていうことじゃないでしょ」

「えへへ」

 誤魔化されない。

「でも大丈夫! 結羽と莉乃の鍵は普段部屋に置いてあって、私の部屋の鍵は莉乃も持ってるから!」

「なにそれ。二人とも私の部屋入り放題ってこと」

「あー。そう言われればそだね。えへへ」

 だから誤魔化されない。

「ていうか結羽の部屋入るの初めてー」戸舞流華は両腕を広げてくるくる回りながら部屋を見回す。肩に掛けている小さなバッグが遠心力で少しだけ浮く。「うわー。引っ越して一週間経つのに段ボールだらけー。しかもちょっと汚ーい」

 うっさい。

「あ、漫画! あははは! 恋愛モノだ! 似合わない! え、何?」戸舞流華の顔を掌で覆って、指先でこめかみを締め付ける。「あ、痛い! 多分これかなり痛いやつだよ、結羽ちん! あはは!」

 アイアンクローをしても止まらない減らず口。まぁ徒花は痛みを感じない(感じたとしても錯覚)だから仕方ないけど。

「うん?」

 指の隙間から見える赤い目が何かを見つけた。なんだろう。テーブルの上に置いてある何か…………げっ。

「それなに? お手紙? しかも差出人男の子だ!」驚きの表情がニヤニヤに変わる。手でよく見えないけど。「えー? もしかして彼氏? 結羽ちんそういうこと興味なさそうなのに実は津々なの? う、うん!? 握力強くなったよ!? これ以上やると頭弾けちゃうって!」

 ギャーギャー騒ぐ戸舞流華をスルーしてテーブルの上に目を向ける。

 昨日届いたコタロウからの手紙。内容はというと公園で話していたような何気ないもので、新しいゲームを買ってもらったとか映画を見に行ったとか家で犬を飼うことになったとか。オンラインで協力プレイが出来るからやろうと書いていたけど、誘う相手を間違えているとしか思えない。

「遠距離? 私遠恋ってしたことないよー。ねぇどんな感じ? ねぇねぇどんな感じ? むふふー」

 本当に頭潰してやろうか。

「彼氏じゃない。小学生の男の子」

 手を離しながら言うと、戸舞流華は「小学生?」と小首を傾げた。「なぁんだ。ファンレターか」

 違うけど説明するのも面倒だから否定しないでおく。

「でも意外ー。結羽ってそういうの読まなそうなのに」

「暇な時に読むくらいだけど。流華は読まないの? たくさん来るでしょ」

「読まないねー。文字読むの疲れるし。あ、一般人に言ったら駄目だよ」

「はいはい」

 読んで当然だって思ってる人ばっかりだからね。

「で、何の用?」

 私の問いに戸舞流華は「ふふ」と笑い、キリッと眉尻を上げて「今日の夜に班活動をやります」と言った。

「班活動?」

 そんなの蛍山支部じゃあなかったけど。

「内容は決行まで極秘。七時くらいに迎えに来るから家にいてね。あ、他の班の人も来るからね!」

「りょーかい」

「どこか出掛ける用事とかあるの?」

「まぁ、ちょっと」

 ゲーム屋に行こうかと。

「へー、そうなんだ。私はね、これからデートなんだー」

「あっそ」

「もー。僻まないの」

 うざっ。

 顔をしかめると同時に、これまたここ数日で聞き慣れた着信音が部屋に響いた。流華はスマホ(私物)を取り出し、指先で画面を何度かタッチしてからバッグにしまった。

「迎えに来てくれたみたいだから私行くねー」

「あぁはいはい。さっさと行けば?」

「もー、相変わらずのツンデレ!」

 そんなふざけた言葉を残して戸舞流華は部屋を出ていった。

 ふぅ、と溜め息。

 戸舞流華といるのは疲れる。それは人格とか相性云々じゃなくて、ただ単にあの人が強いから。

 いくら友好的でも。天然お馬鹿っぽくても。少しだけ若菜と似ているところがあっても。

 顔を見れば分かる。

 どんな緩い表情であっても、本能が警報を鳴らす。油断するな。隙を見せれば、次の瞬間には殺されていてもおかしくない。

 考え過ぎだということは分かっているし、他の徒花相手ならここまで酷くないんだけど。

 深呼吸。

 よし、気を取り直してゲーム屋に行こう。




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