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第三話 「この世界のことがわかりかけてきた」

今朝起きてすぐに管理ページを見たところ、ブックマークが1件入っていました。

まさかこれほど嬉しいとは…。

ブックマークしていただいた方、本当にありがとうございます!頑張って書いていきたいと思います。


今日はとりあえず一話投稿です。

  3歳の誕生日を迎えた。

 この2年間でようやく、自分が転生してきたこの世界のことがつかめてきた。

 まず、俺の暮らしているこの国はベリーズ王国というらしい。

 国王の名前がリア・ベリーズ。父親のことだ。

 

 つまり、俺はエドワード・ベリーズということになる。

 名前に関しては、さすがに3年間も呼ばれ続けてきたこともあって、呼ばれても反応できないということはなくなった。

 

 王国というだけあって、政治形態は王政だった。それもガチガチの専制政治で、いわゆる絶対王政というやつである。王様の好き勝手な政治が許されているあたり、やはり昔のイギリスやフランスみたいな時代なのだろう。

 

 父親の結婚相手が思うように行かなかったはなんでだろうと思って調べてみたのだが、どうやらその父親も、先代の王であるグラハムさんに逆らえなかったかららしい。

 母親の実家は国内でも最も力の強い貴族である、グロウナー家というところらしく、他の家との絡みもあって、グロウナー家から嫁をとらない訳に行かなかったらしい。

 

 グラハムさんはリア王の結婚後すぐに亡くなってしまい、予想外に王位を得たリア王はすぐに本命だった現第二王妃のリリスさんを迎えたようだ。


 王家の人間模様が生々しく垣間見えてしまって、俺は少し昼ドラを見ている気持ちになった。


 

 経済面も少しだがわかった。ベリーズ王国の主要産業は農業である。

 職人や商人もいるが、多くの国民は肥沃な土地を活用して農作物を育てているらしい。

 工場で機械を使った生産が行われていないところを見ると、まだ産業革命は起きていないらしい。

 

 正直、中学校の勉強の何が役に立つのかわからなかったが、こういう立場に立たされると役に立ちまくっているのだから、現代日本の教育というのもそれほど捨てたもんじゃないかも、とか思ってしまった。

 まぁ、学校は正直もうこりごりだが…。


 さて、なぜ俺がこんなにもいろいろな知識を身につけることができたかといえば、答えは簡単で、たくさん本を読んだからだ。

 

 2年前に文字がわからないということに気づき、本気で文字を習うかどうするか悩んだのだが、俺は結局文字を習うことに決めた。

 ただし、あまり大っぴらに習い周りから何か言われても面倒なので、それとなく文字を習うことに決めたのだった。


 この時代の人間としては珍しいのだろうが、サラは文字が読める人だった。考えてみれば、王宮で働くような人物なのだからある程度の学がある人物のはずだということに気づいたのは最近だが…。

 とにかく、彼女は読書が趣味らしく、仕事の合間を縫ってよく読書をしていた。俺が昼寝をしていて暇な時間などは読書をして時間を過ごしているらしい。

 その本に興味を持ったふりをして文字を覚えることにしたのだ。


 この世界の文字はどうやら本当にアルファベットと同じ法則性になっているらしい。ABCのような文字の並びがあり、驚くことにそれぞれの文字の音もアルファベットと同じだった。

 さらに、文法に関しては日本語と完全に同じで俺にとってはむしろこの世界の文字の方が楽に感じるほどである。

 文字の数が26個しかないため、漢字のようにたくさんの文字を覚える必要もないし、文法が同じだから感覚的には違和感が全くない。

 しいて言うなら名詞が少し違っていて面倒なぐらいか。

 一度イチゴみたいな果物が食事に出てきたことがあったのだが。


 「イチゴきらい。」

 「イチゴってどれでございますか?」

 「え?イチゴはイチゴでしょ?」


 なんて素で返してしまったこともあった。

 ちなみにこの世界のイチゴっぽい果物はロベリーの実というらしい。

 まぎらわしい限りだ。


 とにかく、そんなわずらわしさは少しあるものの、基本的には困っていない。むしろ、前世から嫌いだった漢字から離れることができて嬉しいぐらいである。

 

 

 今日もサラが本を持ってきていた。誕生日を祝うためのサプライズパーティーの準備をしてくれているらしいのだが、俺のお世話が担当のサラはあまりやることがないらしい。

 ちなみに、なぜサプライズなのに俺が知っているかといえば、これまた俺が某段ボール箱に隠れるスパイおじさんごっこをしているときに、偶然立ち聞きしたからだ。

 サラは少し暇そうにしているので、今日のお勉強タイムにさせてもらうことにした。


「さら、これなぁに?」

「あら殿下、また文字をお読みになりたいんですか。本当に、優秀すぎて逆に将来が心配になってしまいますねぇ。」

「…サラ、これなに?」


 サラはよくこうして困ったような期待するような表情を見せてとぼける。そのたびに俺は思わず幼児らしからぬしゃべり方で返してしまい、慌てて取り繕うのだった。

 まぁ、サラの場合とぼけているのか、本当にボケているのかわからないのが怖いのだが…。


 「それは、恋人という単語ですね。」

 「こいびと?そうなんだぁ…。」

 「そうです。殿下にもいつか恋人がお出来になりますよ。」

 「三次元の女なんてクソくらえ…。」

 「え?何かおっしゃいましたか?」

 「ううん!なんでもないよー!」


 俺は無意識にそんなことを呟いていた。

 危なかった、サラがほどほどにとぼけてくれていて本当によかった。

 まだ前世の癖が抜けないようだ。あぶないあぶない。


 こんなやり取りをほぼ毎日2~3時間ほど繰り返していた結果、俺は既にこの世界の文字をほとんどマスターしていた。

 さすがに難しい用語とか、この世界独特の表現が出てくるとわからないこともあるが、そういう部分は普段あまり使わないし、必要になった時に覚えればいい。

 こうして、サラは人知れず俺にこの世界の知識を与えてくれる、家庭教師のような存在になっていた。

 

 コンコン


 ふと、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 サラが短く返事をすると、「失礼いたします」という声とともにドアが開いた。

 扉の向こうには顔馴染み(だと勝手に俺が思っている)メイドが立っていた。


 「エドワード様、王妃殿下がお呼びでございます。」


 いつもは少し意地悪な笑顔で王族のゴシップネタを語っている彼女だったが、今日はずいぶんとかしこまっている。

 いや、よく見ると少しだけ口元が歪んでいた。

 あれは彼女が同僚と内緒ばなしをしているときの顔だ。


 おそらく彼女なりに必死にパーティーのことを内緒にしているつもりなのだろう。

 だめだぞメイドちゃんよ、そんなんじゃ普通の人は騙せてもこのス○ークは騙せないぜ。

 などと考えながらも、俺は彼女たちのたくらみを、知らないふりをした。


 「え、ぼく、なにかわるいことしたのかな?」


 なんて少し涙目を演出してみる。

 これはすごい、自分でも驚くほど簡単に涙が出てきた。

 子どもの涙腺ゆるいな!


 「わ、私にはわかりかねますがっ…。」

 

 メイドちゃんは俺の演技にすっかり騙されている。

 さっきまで必死に笑みを隠していたはずなのに、今は半ば泣いたような目になって本気で焦っているようだ。

 まぁ、確かに3歳児がこんな風におびえている様子を見れば、こうなる人もいるとは思うが。あ、というか、これはあれだ。そうとは意識しないで結果的に弱いものいじめをしてしまった年長者の焦りだ。

 なんか、自分の外見に付け込んでいるみたいで気が引けてきた…。


 俺はほどほどのところで話を切り上げ、メイドの後ろについて部屋を後にした。



 リディア王妃はこの2年ですっかり大人の女性になっていた。元からきれいな人ではあったが、美しさに磨きがかかったといっていいと思う。

 俺への愛情は相変わらず深い。というか、どんどん深くなっているように感じている。

 今回のサプライズパーティーも、企画立案はリディア王妃らしい。


 もともとリディア王妃をお母さんと呼ぶことに抵抗はなかったが、それでも最初は自分の中でどこか壁があってからの「母さん」という感覚だった。

 しかし、この2年で俺はすっかりこの人を「お母さん」と呼べるようになっていた。

 そこにもう、壁はほとんどない。

 なぜなのかはわからないが、リディア王妃にはいい意味での気安さがあった。

 

 幼馴染との件があってからというもの、俺は対人恐怖症とまでは行かないまでも、軽い人間嫌いにはなっていた自覚がある。

 そんな人間嫌いが、リディア王妃のおかげで軽くなっているように感じられる。

 

 しかし、転生の悪いところというべきか。精神年齢が高い分、思いっきり甘えるということはどうしても苦手だった。

 俺の視点からはリディア王妃への愛情が育っている一方で、リディア王妃から見た俺はおそらく、あまり甘えてくれない不愛想な子どもに見えているのではないだろうか。そんな悩みを俺は抱えていた。


 パーティー会場への道すがら、そんなことを考えていた俺は、今日ぐらい目いっぱい母親に甘えてみようと密かな決意を固める。

 

 気が付くとメイドは食堂のドアの前で足を止めていた。

 サッと横に体をずらした彼女は、俺のほうに体を向けると自然な様子でお辞儀をした。


 「御足労いただきましてありがとうございました。王妃殿下はこちらでお待ちでございます。」

 「うん、ありがとう。」


 メイドの作法は完璧だった。

 俺は何も知らないふりをして、3回ノックをする。


 「エドワードです。お母さま、お呼びでしょうか。」

 「おはいりなさい、エドワード。」


 よく通るリディア王妃の声を確認した俺は、ゆっくりと扉を開けた。


 瞬間、目に飛び込んできたもの。それは…。

 あきらかにサイズを間違えた、巨大なバースデーケーキだった…。


 「………。は?」


 時間にして3秒ほどだろうか。完全に時間が止まっていたと思う。

 それくらい素で固まってしまった。

 見た目に、直径が2メートルほどもある。明らかに人間よりも大きいサイズのケーキを目の前にして、母の愛情の大きさを実感してしまった。


 ――お母様、これは明らかに度が過ぎてしまいましたよ…。


 ケーキの隣には満面の笑みで「お誕生日おめでとう」と書かれた木の板を抱えているリディア王妃。

 俺の直感が告げている。これは逃げられないな、と。


 この後、俺は先ほどの決意をすっかり忘れて、ただひたすらにこの巨大なバースデーケーキを口に運ぶ作業にいそしんだ。


もちろん、次の日俺は当然のようにお腹を壊した。


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