第九話 「新たな出会い」
しばらく更新できなくて申し訳ありませんでした。仕事の方が大変忙しく…というのは言い訳に過ぎず、正直なところこの後の展開に悩んで更新する意欲がなかなか生まれてきませんでした。
一応、大まかなプロットのようなものができたので、少しずつではありますがまた更新していきたいと思います。
更新が不定期になると思いますが、読んでいただけると大変うれしいです。
5年が経った。
年齢は10歳だが、精神年齢だけは既に30歳を超えた。そのせいか1年間がずいぶん短かった。
この5年間で俺の周りはずいぶん変わった。
まず、家庭教師についてくれていたクロエ先生が宰相をやめることになった。理由はわからないが、国政から離れたという話だけが噂話で聞こえてきた。俺が何かしてしまったのかとも考えたが、変わらず家庭教師には来てくれているあたり、おそらく俺には関係がないことだと思う。今では完全に俺の専属教師としての仕事に専念しているらしく、俺としてはうれしい限りだ。
アーシャは正式に王宮のメイドとして仕事を始めた。アーシャも10歳になり、大人びた表情をすることがある気がする。そんな彼女の顔を見ると、なぜだか顔が熱くなるのだが、理由はわからない。仕事ぶりはなかなかのもので、最近ではサラの代わりにお茶を入れてくれているのだが、サラに負けず劣らずおいしいのだ。
「まだまだ修行が足りませんね。」
などとサラは言うが、正直なところ俺には差がわからない。お茶の細かい味の違いなんて俺にはわからないが、それでもサラの淹れてくれるお茶がおいしいことはわかる。そんなサラのお茶とそん色がない程度にはおいしいお茶が淹れられるのだから、アーシャの腕前はなかなかなんじゃないだろうか。
そして、一番大きな変化が、俺の王位継承が正式に決定したことだった。
これまでリア王は必死に第二王妃リリスさんとの間に子供ができるように努力したらしいが、結局リリスさんが子供を身籠ることはなかった。
これといった事故や病気をすることもなく、すくすくと育っていく息子(俺)に対して、複雑な気持ちはあっただろうが、それでも他に子供がいない以上俺を後継者に据える以外の選択肢がなくなってしまった。
「エドワードを私の後継者として、正式に次期国王とする。」
この言葉を聞いたのが、昨日の誕生パーティーでのことだった。
サラやアーシャはもちろん喜んでくれたが、それ以上に嬉しそうだったのがリディア母さんだった。
さすがに俺も、10年間母親として接してきた人には親愛の情が出てくる。最初こそ「母親」と認識するのに違和感を覚えたし、正直慣れることができなかったが、最近やっと違和感なく「リディア母さん」と呼ぶことができるようになった。
さすがに人前では「お母様」と呼んでいるが、二人きりの時やサラぐらいしかいないときには「リディア母さん」と呼ぶことにしている。
初めてリディア母さんと呼んだ時は、「まぁまぁまぁ!」と言いながらずいぶんニヤニヤ笑っていた。よほどうれしかったのだろう、その後しばらく抱きしめられて少し鬱陶しかった。
これまた不思議なことに、リディア母さんに抱きしめられてもいやらしい気持ちになったりはしない。その時は、親子というのは細胞レベルで親子なのだなと、よくわからないことを考えさせられたりした。
誕生日の翌日、クロエ先生が俺の部屋へやってきた。宰相としての立場を返上したクロエ先生は、俺の誕生日に参加することができなかったらしい。
「エドワード、お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう、クロエ先生。」
「今日は、エドワードに新しい先生を紹介するために来ました。」
あまりの衝撃に、俺はすぐに反応することができなかった。
俺はおそるおそる聞いてみた。
「それは…、クロエ先生が、先生をやめるということですか…。」
「いえ、違いますが。」
キョトンとした表情とは、こういうのをいうのかもしれない。
まさに、意味が分からない、といった様子のクロエが首をかしげている。
「そうですか。よかった。先生に見放されてしまったのかと思いました。」
「私がエドワードを見放すわけがないじゃありませんか。」
あ、やばい、これは顔が赤くなるやつだ。
案の定、クロエ先生は俺の様子を見て顔をニヤニヤさせている。
最近クロエ先生は年上の余裕というのか、俺の表情を見て楽しんでいることが多い。
これで、わざと俺を恥ずかしがらせるようなことでも言い始めたら、いよいよ手が付けられない。俺の方が年上(精神年齢は)のはずなんだけどなぁ。
「そうではなく、剣術の先生についてもらうことになりました。」
「剣術ですか!」
いかんいかん、年甲斐もなくはしゃいでしまった。
はたから見れば、やっと剣を持たせてもらえるとはしゃぐ子供みたいじゃないか。
いや、まぁ、その通りなんですがね…。
「…ずいぶんうれしそうですね。」
「それはもう、男の子に生まれたからには、やはり剣術というのは多少の憧れがありますから!」
「エドワードはもっと文化系の、おとなしいタイプだと思っていました。」
「もちろん、僕は頭を使う活動のほうが好きですが、それでも剣術には憧れます。」
クロエ先生は、なんだか納得いかないという表情をしていた。
「まぁ、やる気があるのはいいことです。」
「それで、僕に剣術を教えてくれるのは、なんという方なのですか?」
「えぇ、ご紹介しましょう。とはいえ、訓練するのに室内では差し支えます。外の教練場まで一緒に来てください。」
「もちろんです!」
俺は教練場までの道すがら、どんな先生が付いてくれるのかをひたすら妄想していた。
――筋骨隆々のおじさん、それとも美少年剣士?意外なところで新卒の兵士だったりして。まぁ大体は経験豊富な老将軍とかだろうけど。
そんなことを考えながら教練場に着いた俺を待っていたのは、それまでの予想とは全く違う。 俺の予想を大きく裏切る人物だった。
「彼女がエドワードの剣術の先生に就くことになった、ミーティア・クロームです。」
紹介をしてくれるクロエ先生の声など全く耳に入っていなかった。
そこにいたのは、剣を携え、腕、脚、腰などの要所に甲冑をまとい、まっすぐ伸びた背筋が力強さとともに誠実さをうかがわせる、金髪の長い髪を背中に流した、とてつもない美少女だった。