表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

プロローグ

初投稿になります。

自分が書く側に回るとは思ってもいませんでしたが、気が付いたら書いていました。


ご意見、ご感想、誤字報告 もしありましたらよろしくお願いします。

「三次元の女なんてクソくらえ」

 パソコンの画面に表示されている自分のつぶやきに、「いいね」カウントが増えていくのを見て、世も末だなと思った。

 かれこれ半日以上座り続けていた椅子の背もたれに体重をかけ、大きく伸びをしてみると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいることに気づいた。


 ――もう朝か。


 また徹夜してしまったと後悔をするが、だからといって仕事に影響するということもない。そもそも仕事なんてしていないのだ。有り余る時間を使って、やることといえばエロゲをするか、オナニーをするか、ネットに適当な感想を書き込むかぐらいであった。

 俺が現実の社会からドロップアウトして、もう5年になる。きっかけは、(思い出したくもないが)幼馴染に振られたからだった。

 

 アイドルのように可愛いか、といわれたらそんなことはない。ただ、なんというか、小動物のようなかわいらしさのあるやつだった。中学生になってからも男子と平気で話をしたり、遊びに誘えばすぐに乗ってくる、付き合いやすいやつだった。

 だからこそ、俺も勘違いをしたのだろう。


 ――こいつ、俺のこと好きなんじゃね。


 そんな妄想をした俺自身を、できることなら殴り飛ばしてやりたい。

「全然そんなことなんかねぇから、目を覚ませよ!」

 声をかけるならそんな感じだ。

 

成功率100%だと思ってのぞんだ告白は見事に玉砕し、茫然自失の俺の横を通り過ぎざまに、彼女からかけられた一言が今でもリフレインする。


「勘違いしないでほしいんだけどっ!」


 なにがどう勘違いなのかも、その時はわからなかった。ただただ、自分の中にあったプライドのようなものが音を立てて崩れ去ったような気がしたのだ。


 それからというもの、俺は学校に行くのが嫌になった。単純に同じクラスの彼女に会いたくなかったのだ。どんな顔をして教室に入っていけばいいのかわからなかったし、最後に言われた勘違いという言葉を思い返すと、クラスで自分が笑いものにされているような気がして登校できなくなった。


「嫌なこと思い出しちまったじゃねぇか…。」

 自分で書き込んだつぶやきで勝手に気を悪くしただけだとわかっているのだが、そうつぶやかずにはいられなかった。

 これも深夜テンションというものか。(もう朝だけど。)


 足元からは親の起き出す音が聞こえた。小言を言われても嫌だなぁと思い、俺はベッドに飛び込んだ。






 気が付けば時計の針は3時を指していた。


「腹減ったな…。」


 いつもならばパートに出る母親が昼食を用意してくれているのだが、今日は見当たらない。かわりに食卓の上に一枚の紙と、1000円札が置いてあった。


 ――お昼は何か買って食べてください。


「おいおい、マジかよ…。」


 5年ほど外出していない俺にとっては、ちょっとコンビニへ行くなんてことも、勇者が魔王を倒しに行くより重大なイベントだ。というか、まずこのあたりのコンビニの場所がわからない。

 いつもなら母親が帰ってくるのを待って、夕食でも作ってもらうところだろうが、なぜだか今日は外出してもいいかなという気分になった。


 そもそも、母親が金を置いていくなんてこと自体が珍しい。しばらくぶりに見た日本銀行券にテンションが上がっていたのかもしれない。


 俺は玄関で靴箱からもう何年もはいていなかった自分のスニーカーを引っ張りだし、足を突っ込んだ。

 ふと気が付くと、サイズがあっていない。考えてみればこれも中学生の時にはいていたものだ。20歳の俺にとってはもう小さくなっていた。

 靴を放り投げ、靴箱を再び見てみると父親のサンダルがある。少しくたびれていたが、関係ない。はければなんでもいいのだ。


 玄関ドアの取っ手に手をかけると、いやに緊張する。背中にじっとりと汗をかいているのがわかった。


 ――ちょっと外出するだけじゃないか。


 俺は1分ほどそのまま固まっていたが、意を決してドアを押し開けた。

 太陽の強い光に目がくらむ。少しの後に見えてきた景色は、5年ぶりだというのにあまり変わっていなかった。目の前にある家の様子も、道も、電柱も、記憶の通りそこにあるままだった。


 ――なぁんだ、こんなもんか。


 緊張がどこかへなくなっていくのがわかる。そのまま俺は意外なほど軽い足取りで歩きだした。

 記憶を頼りに市街地のほうへの足を進めてみた。店があるのはこっちのほうだろうという勘を頼りに、くたびれたサンダルをパカパカさせながら5分ほど歩いていくと、ラッキーなことにコンビニを見つけることができた。

 以前までは古い家が建っていたような気がするが、そんな影など全くない。広い駐車場にはそこそこの車が停まっており、繁盛していることがわかる。


 久しぶりの買い物に来た俺は、コンビニのありようの変化に面食らっていた。なんでコンビニにドーナツが置いてあるんだなどと考えながら、弁当の棚の位置が変わっていないことに安心感を覚え、商品を物色していく。あまりにも久しぶりだったためか、これまた5年ぶりに見る週刊漫画雑誌を立ち読みまでしてしまった。

 気が付けば30分ほど店内を見て回ってしまい、店員から完全に変なやつ認定を受けたなと思いながら、会計を済ませた。


 この時の俺は、完全に忘れていた。俺が歩いてきた道が、例の幼馴染の家にほど近い道だということを。そして、失念していた。彼女が、まだこのあたりに住んでいるであろう可能性を…。


「もしかして、りゅうくん?」


 記憶の中よりも少し大人びた声で、しかし聞き間違えるはずもないあの娘の声で…。自分の名前を呼ばれたことに、俺はパニックを起こした。


 反射的に振り返った先にいた彼女は、俺の記憶の中よりもずっと成長していた。それでも確実に彼女だとわかるほど面影が残っていることに気づき、結局未だに振り切ることのできていない過去だという現実を突きつけられる。


「やっぱり、りゅうくんだよね?久しぶり、って言っていいのかな…。」


 彼女の気遣うようなしぐさがわかってしまい、いたたまれなくなった俺は気が付けばその場をかけだしていた。


 サンダルが立てるパカパカという情けない音が耳に入ってくる。そんな音に交じって、彼女の自分を呼ぶ声が聞こえて、俺は走る速度をさらに上げた。


 ――なんで、こんなタイミングで会うんだっ!


 真っ白な頭の中に浮かんできた言葉はそれだけだった。

 なにも5年ぶりに外出した、今日会わなくてもいいのに。そんな恨み言を呟いていたかもしれない。どの道を走っているのかもよくわからない。とにかく逃げたかった。


 唐突に目線が地面に近づく。

 次の瞬間、全身に痛みが走る。

 俺は盛大に転んでいた。

 

 ブーッ!ブブーッ!

 クラクションの音が耳に飛び込んでくる。驚いて目を向けると大きなトラックが十数メートル先に見える。

 

 現実感がなかった。足元を見れば、壊れたサンダルが目に入る。

 もうどうしようもなかった。


 ――あぁ、まったく、リアルなんてクソくらえだ


 最後に浮かんできた言葉はそんな恨み言。そして、最後に聞いたのは、自分の名を叫ぶ、彼女の悲鳴にも似た声だけだった…。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ