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死にかけたら不死身になっちゃった  作者: 0417(椎名)
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第七章

狼、烏、梟、山の精霊。

異能者が顔をそろえ、刺客の計画を破綻させる。

世界の命運はどうなるか

 目の前でフクロウがガラス戸を張り替えている。隣でそれを監視する烏。なんとも平和的でこれが妖怪だと言われても大体の人は納得しないだろう。

「にしても若様。急にいなくなられては守護者として心配しますよ。」

「手を止めるな阿保フクロウ。」

「はっはい!」

 容赦のない烏こと鞍馬の里の天狗。結城宏一。先ほどガラス戸を破壊しながら突入してきたフクロウ、ミネルヴァ。私の椅子の上でくつろぐシュレディンガー。そして部屋の中央で胡坐をかく私、工藤悠香。私に群がる山の精霊たち。

 見る人が見れば地獄絵図だったかも知れない。しかし私はそんな魑魅魍魎たちの中央で私は久々の幸福感を得ていた。

 思えばここ数ヶ月のうちにいろいろあった。

 殺人鬼に追われて殺されかけて、鬼になって、両親を殺されて街を焦土にして。普通の人が体験できそうにない体験しかしていない気がするのは気のせいじゃないはず。

『マタ、ナニカ、ナニカ、クル、クル。』

 カタカタと騒ぎ出す精霊たち。玄関部としてそれなりに綺麗にしたところから器用に開けて入ってくる大型犬とその背に乗る中世的な顔立ちの子。ヘッドフォンをつけてダボついたパーカーを着て私たちを一瞥した。

「主が面白そうだというから来てみればなんだここは。人の里の幼稚園みたいだな。」

「おぉ、真神じゃないか。どうした急に来るとは。」

「まっ真神様!なぜここに?というかいいのですか?異能者をこんなに集めて」

「心配いらんだろう。ここは吾が結界を張っておいたからな。当分ここを拠点とさせてもらおう。」

「ちょっ何勝手に決めてるのさ。」

「なんだ?文句あるのか小娘。」

「リンさんが言いたいことがあるそうです」

『ちょっと待て、儂がいつ言いたいことがあるといった!?』

「おい、鬼。早く言ってみろ。」

「何もないぞ。もともとここは儂らのものでもないしな」

『自己紹介くらいしてほしいんだけど。』

「自己紹介が必要らしいぞ?悠香にはわかっていないみたいだからな。」

「やれやれ、いちいち説明せねばわからんのか小娘。真神と聞けば大体わかるであろうに。」

「もしかして…。大口真神?」

「いかにも。」

「背中の子は?」

「主だ。」

「いや真神に聞いてない。背中の子に聞いてるの。」

 真神は震える。神である自分をないがしろにする小娘に怒りを覚え、主の前で愚かな行為に走るのはプライドが許さなかった。そのための震えである。

「あぁ、お嬢。その子は話せないぞ?」

「え?どういうこと?」

「異能者は皆代償を払って能力を獲得したんだよ。お前の場合人の体と寿命が代償でその子は声を犠牲にしたのさ。」

「…声はなくても思考はあるよね?」

「?まぁあるだろ。」

 私はそういうと角を伸ばす。そして思念を飛ばす。『聞こえる?聞こえたら返事してくれるかな?』と。

『…お姉さん…鬼?』

『よかった。思念会話はできるね。そうだね。鬼だね。私は人間のつもりだけど。』

『…ふふふ、変な人…。私はリル。よろしくね。』

『こちらこそよろしく。』

 こうして三人の異能者が山奥の廃屋に集まった。


 ちょうどそのころ。地獄から来た刺客は20人目を殺した。全て冷凍して肉として保存している。彼は腐敗が一番嫌いだった。そのための処理でもあった。死体と魂。それが地獄の大王たちを現世に呼ぶときに必要な材料で、それらをそろえればあとは大王たちが殺戮を行い、配下がどんどん生まれる算段である。 この計画の実行のためにはあと9980人の死体と魂が必要だ。それを理解しているからこそ彼は学校に忍び込んだ。一気に死体をかき集めるため。


 真夏の太陽がアスファルトを焼く。その上を歩く三人と一匹。それ以外は肩に止まっている

 異能者一行はとある学校の前でその足を止めた。

「ここでいいの?」

 私の頭の上にいる山の妖精に尋ねてみるとコクコクうなずいてくれているように見える動作をしてくれる。

『ココ。イル。』

「おい小娘、まずいぞ本当に学校に忍び込んでおる。」

「小娘違うわ犬。学校?なんでそんなところに行く必要があるの?刺客も勉強したいの?」

「小娘…貴様…。」

「お嬢、真神、喧嘩はよせって。奴らの性質上肉がほしいんだろ?人間の。そのために学校を狙う。簡単な話だろ?」

「そうだね。死体がほしいならそれが手っ取り早そうだね。」

『…沢山…人…死んじゃうの?』

『このままだと死ぬじゃろうよ』

『リン…さん…だっけ?』

『なんじゃ?』

『…どうすればいいのかな…。』

「どうするもこうするもすべて壊してしまえばよかろう。」

「…おい、リン。作戦通りに動けよ?」

「わかっておるわい。」


 暗い廊下を歩く男。この日は満月だった。心なしか力がみなぎっている。しかし、静かなものだ。当然人の気配はない。

「おじさんかな。向こう側の臭いがする。」

「…。」

 男は無言のまま氷柱をどこからともなく現れた不審な少年に解き放つ。

 氷柱が少年に当たったちょうどその時、少年の姿が揺らいだように見えた。

「あはは、無駄無駄。俺にはそんな攻撃当たらない。」

「っち」

 シュレディンガーは男を挑発すると男の背後に現れ、そしてそのままかけていく。

「ほらほら、殺したければここまでおいでー」

 シュレディンガーはちょっとずつ転移しながら階段部で立ち止まる。その姿を悠然と追う男。挑発されているのに男は怒ることなく冷静にシュレディンガーを追いかけ始めた。

 男の足元には紙があった。なにやら幾何学的な模様のそれは男が踏んだ瞬間空間に溶け込んだ。

「確保!」

「結界か…。」

 男は氷柱を結界の壁に当て、破壊を試みるも罅一つはいる様子はない。

「リン、いまだ!」

 私の肉体が結界の中にいる男に刀を振り下ろす。刀は結界をすり抜けると男を袈裟切りにしてのけた。

「やった」

「いや、今のは残像じゃな。」

 結界の中に男の姿はなかった。そしてつららが私の背中に突き刺さる。

「グッ」

「結界ごと切断するとはとんだ馬鹿のようだな。おかげで助かった。」

 男は悠長に、大げさに、一礼すると両手を広げた。

 真夏の長い長い夜はこうして始まったのだった。

次回、バトル開始~

どうも0417です。いつの間にか7章になってしまいましたが次回から本格的にバトル編になりますね

異能力者は何人いるのかな?

次回に続きます

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