第六章
地獄…そこでは大王たちが雁首を並べ会議を行っていた。
新たに放たれる刺客
束の間の団欒…。
ところ変わって地獄。十代王そのすべては雁首並べて水晶球をのぞき込んでいた。
「死霊術師。死んだのか?あんなものだったのか死霊術師の力とはあんなもんだったのか!?」
「閻魔大王、取り乱すでない。しかし…地獄最弱の鬼種が地獄の一角を占める死霊術師に殺されるとはなぁ。」
「しかし、泰山王。彼のものは我々の受け皿を向こうで作らせる役割があったのですぞ?」
「向こうの受け皿の状況は?」
泰山王。地獄の大王の総司令官ともいえる男のもとに小柄な影がそっと耳打ちをする。
「何!?すべて消えただと?」
「これではわれらの情報を敵側に一方的に流しただけではないですか。どうするんですか?この責は誰に問えば良いでしょう?」
飄々とした顔で理知的にふるまうのは泰広王。地獄で一番若い王その人である。
「泰広王よ、貴様我を愚弄する気か!」
今回の作戦実行を指揮した閻魔大王が額に青筋を浮かべながら凄む。
円卓を囲んだ地獄の王たちは皿の上にこんもり盛られたモノに手を伸ばし、食しながら会議を行う。
「どのみち、忌々しい封印がもうすぐ解ける。その時向こうで解き放てばよかろう。」
「次はそうだな、少々癪ではあるが奴を呼べ。向こうを氷と恐怖と死で埋め尽くせ!」
大王たちが去った会議室。そこには大王たちが食べ散らかした残飯を片付けるものがいた。
「やれやれ、大王様たちも困ったもんだ。自分で食べたものくらい自分で片づけてほしいものだ。こんなに散らかして…。」
円卓からは血が滴り、うめき声が会議室で響く。同時に、すすり泣く声も…。そのすべては先ほどまで普通の生活をしていた人間たちのものだった。
ある者は腕を、またある者は足を生きたまま引き千切られ大王の口に運ばれた。痛みで狂うものもいれば泣き叫びながら神の名を叫ぶ者もいた。皿の中で蠢く彼らをため息とともに処理していく魔人。今日も地獄は平常運転だった。
地獄から新たな刺客が送り込まれたのは死霊術師の卵が死んだ3日後だった。
その日の日本はは真夏並みの気温だった。そこかしこでハンカチで額をぬぐいながら汗だくで歩くサラリーマンをよそにその男は悠然と歩いていく。金髪と大柄な肉体をきれいなYシャツで包みサングラスまでかけて男はだんだんと人気のないところへ向かっていく。そこに、ガラの悪そうな男が三人近づいていた。一人が肩をぶつけ、もう一人が大げさにわめき、最後の一人が金を要求する。獲物は主に外国人。そこそこ熟練したチンピラどもだった。
「いってぇ!」
体当たり役の男が盛大に転び肩口を抑え、声を上げる。標的の男は無表情でその様子を窺うと立ち去ろうとした。
「おい、ちょっとそこの外人さん?ぶつかっといて無視ですか?」
喚き役が男の前に立ち足止めをする。
「この国にはな?礼儀ってもんが一番大切なんだよ。ほら、今なら持ってる額で許してやっからよぉ財布、出せよ。」
後ろから凄み役が男の肩を掴み、無理やり己の顔を近づける。
「……。はぁ、いつから人の世はこんなに乱れてしまったのか…。まぁ私の初陣にはちょうどいいか。」
「何わけわかんねぇこと言ってんだよさっさと金出せや!」
「煩い」
チンピラ三人衆の体は一瞬何が起こったのか反応できずにいた。真夏の気温のはずなのにすごく寒い。次第に手も悴み、足元から氷が張っていく。
「さて、私を楽しませてくれる奴は残っているのかな?」
男が去っていくと路地には氷漬けの人間が三体立っていた。真夏の気温でも氷は解けず、冷気が路地に充満し始めていた。
『えー先ほどお伝えしました通り本日正午過ぎ、東京羽黒地区にある路地で氷漬けの遺体が複数発見されました。どの遺体もこの真夏の中氷漬けになっており、軍警は情報を求めています。』
テレビをしばらく拠点とすることにした山中の廃墟に設置したとき、そんなニュースが耳に入った。辺りは日が沈み、山の精霊と呼ばれる種族が活動し始めていた。
「ねぇ、結城、この子たちどうにかならないの?」
私には体中に山の精霊がへばりついて離れようとしていなかった。
「これはこいつらなりのお礼だぜ?お嬢」
テレビにとまった烏がそういいつつ、山の精霊たちに情報収集を命じる。天狗は山の精霊が進化した姿であったらしく、精霊たちはきびきびと散っていく。驚くことに子の精霊たち、木のある所なら移動可能らしく日本中で情報を集めてきてくれていた。そんな彼らの根城である木が近くに生えていた木に押しつぶされそうになっていたのでどかしてあげたら非常になつかれてしまった。
「この事件、真夏の気温で氷漬けって…。なんかおかしくない?」
「間違いなく新たな刺客だな。でも今回の被害者は力の持たない一般人だ。」
「その力を持つ者たちってどこにいるの?」
「あぁそのことなんだが、異能者を一か所に集めると被害がでかくなるから今世界中に散っている。皆護衛付きだけどなお嬢みたいに。」
「あぁ、私の護衛って結城なんだ。」
「まぁな。正直お嬢は単体でも奴らと渡り合えると思うが一応俺がついてる。」
「ふぅん。」
『珍しいね。ユウキがそのかっこのまま人前で話すなんてさ。』
突如、何もない空間から声がした。角を伸ばして確認するも何も見えない。
『わぁお嬢さん人じゃなかったのか。』
「おい、シュレディンガー、脅かすのはいい加減にしろ。」
「ふふふ、やっぱり気づいちゃったか。さすがだねユウキ。」
気が付くとそこには中学生くらいの少年が立っていた。こんな山奥でさらに周囲を警戒してくれている精霊たちに気づかれずにだ。
「お嬢、こいつはシュレディンガー。異能者の一人だ。」
「こんばんわ。お嬢さん。ボクはシュレディンガー。どこにでもいるしどこにもいない。あやふやな存在だけど以後よろしく。」
「え?あぁ、よろしく。私は工藤悠香。で、」
「儂がリンじゃ。」
「え?何が起きたの今?」
突然の自己紹介の意味が分からなくて困る少年。
「あぁ、シュレディンガー、こいつはちょっと特殊でな工藤悠香っていう人間の女とリンっていう鬼が同時に一つの体に存在しているんだ。」
「へぇ。そんな摩訶不思議現象があるんだね。」
「お前には言われたくねぇだろうぜ。」
『ユウカ、ナニカ、ナニカ、クルヨ。』
精霊が何やら騒ぎ出す。何かが来るらしい。角を伸ばして臨戦態勢で身構えると補修したばかりのガラス戸から一輪のフクロウが飛び込んできた。
「若さまぁぁぁぁ」
「やべっもう来ちゃったよあいつ。」
結城はやれやれといった動きだった。
「若様、ご無事ですか!?あぁよかった。己貴様!若様にこのような狼藉断じて許すものか!」
どうやら早とちり系のフクロウのようだ。こういう相手には力でねじ伏せるべしと私に格闘技を教えた師匠は言っていた。
「おい、ミネルヴァ…。お前…今すぐその窓直せや!」
「はっはいっ只今!」
フクロウに命令して監視する烏…。絵面がとてもシュールで私はいつの間にか笑みをこぼしていた。
その笑みは鬼になって初めてと笑みだったことは誰も知る由もなかった。
地獄編とか言っちゃってすみません…w
新たな刺客が死体を既定の数集めるのが先か悠香たちが先か。
続々と集まる異能者集団。
どこにでもいるしどこにもいない…。
世界は滅亡するのかしないのか…。
まだまだ続きます