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死にかけたら不死身になっちゃった  作者: 0417(椎名)
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序章

150年程前、とある事件に巻き込まれたいたいけな少女がいた。

変わり者の父を持ち、不老不死の研究の手伝いに訪れ、移住した村で起きた惨劇。

死する寸前の少女に宿った力


不死とは素晴らしい力なのか…。

 不老不死。人々は昔からこの力を欲した。ある呪術師は自分が不老不死になるために何人ものいけにえを捧げ、ある科学者は研究に人生をかけた。

 私がこの不老不死の石(仮称)と一体化したのは不老不死研究に命を懸ける父親と一緒に行った村だった。今からざっと150年程前のことだ。当時の世界はとある国でクーデターが起きたり、とある国でテロ事件が頻発していた。その中で比較的安全な日本で生まれ、不老不死になってしまった。

 村の人々はとても親切で、不老不死の伝説などを語ってくれた。ほとんどはおとぎ話だったけれども。いわくかつてこの地に商人の一団が商売をしに来たという。そのとき村人への代金の支払いが滞り、お詫びの品として不老不死の妙薬の原石と呼ばれる石をもらい受けたとのこと。紫色に光る石で今は村のどこかの社に祭られているらしかった。

 父と私はその村に2年滞在し、私が16歳になった年、最初の悲劇が起きた。

 当時、現代のジャック・ザ・リッパーなる連続殺人鬼が世間を騒がせていた。非常に残忍な犯行でナイフのようなもので殺した後全身をバラバラにして百舌の早贄のように木にひっかけられていたという。各地で目撃情報や検問が張られ、犯人はいま私が生活している村に逃げ込んだというTV放送も聞いた。村では夜間の外出を避けるようにというお触れが出た。私たち家族以外に。

 私たちはよそ者だった。はじめは親切にしてくれた村人たちも次第に本性を現し私たちは村八分にされていた。

 その日は赤い満月の夜だった。父は隣の町の研究所に研究データを渡しに家を空けており、私はこの村の住人の八割が通う公立高校内で起きたちょっとした揉め事のせいで帰宅が夜遅くなっていた。

 暗く、街灯もない雑木林寄りのあぜ道。家までの最短ルートをテクテクと歩いていた時だった。

「やぁお嬢さん。こんばんわ。」

 月を背にした形で男がそういった。見慣れない男だった。

「こんばんわ。」

 私はそのまま歩を早め、男の横を素通りした。

「ちょっと待ってくれよ。俺、村長に会いたくてさ。君、村の人だろ?なら村長の家を教えてくれない?」

「・・・・・・」

 私はそのまま男を無視して去ろうとした。

「無視ですか。じゃあいいよ。」

 男はそのままどこかへ去っていき私は内心ホッとした。ホッとしたのも束の間。

「…獲物…発見。」

 雑木林からそんな声が聞こえた。瞬間左肩に激痛が走った。

「ッつ」

 傷口はさっくりと鋭利な刃物で切られており、結構深くまで切られたらしく出血もかなりしていた。

「くっくっくさっきの男と一緒にいれば死なずに済んだんだかもしれないのにねぇ。」

 声は次第にはっきりし、男の姿もはっきりと月明かりに照らされた。手には血の付いた大ぶりのククリナイフと呼ばれるナイフを持っていてその表情は恍惚と私を見ていた。

「…ジャック・ザ・リッパー…」

「?巷じゃ俺のことそんな風に呼んでいるのかい?光栄だねぇ。」

 男は一気に距離を詰めると私を切り裂くべく次の手を打った。今度は右肩口を狙った斬撃。私はその斬撃を見切って躱すと土を一掴み男の顔面に投げつけた。

「うッこんのアマぁぁ」

 男はククリナイフを振り回すも間合いにすでに私はいない。すきを見て雑木林に逃げ込む。夜の森は恐ろしいが今殺されてしまうより生存率は高い。そう判断したのだが、思いのほか殺人鬼の対応が早くすぐに追いつかれてしまった。暗く、足場もきちんとしておらず夜の森。おまけに殺人鬼。私の人生の幕引きの舞台が完全にそろった瞬間だった。

「さっきはよくも俺様の顔面にきたねぇもの投げつけてくれたなぁぁ」

「…夜の森によくもまぁ平然と足を踏み入れたもんだね。」

「あ?暗いからどうしたっていうんだよ糞が!」

「足元にご注意を。」

「何を!?うおっいってぇぇ」

 男は木の根で躓き下枝で手を切ったようだ。このあたりの地の利は私にある。そう油断したのがいけなかった。殺人鬼がククリナイフを投げてくるという可能性を失念していたのだ。歪な軌道を描いて私に迫る凶刃。すぐさま回避行動をとるも背中をバッサリと切られてしまった。激痛とともに這い寄る寒気。死が間近に迫る恐怖。出血のせいで私は木の根で盛大に転び手に何やら固いものが刺さった。

「へっへっへ。まさかもう死んだってこたぁねぇよな。どこ行きやがった。」

 男に悟られぬようこっそりとその場から移動し、月明かりのある場所で月に手をかざしてみる。するとそこには長さ十センチほどで妖艶に光る紫色の石が刺さっていた。

「ッつ」

 背中の激痛に耐えながら掌に刺さった石を抜こうと試みるも刺さった石は抜けるどころか私の体にめり込んでいく。体がいうことを聞かなくなったころには手のひらから石は消えてしまっていた。代わりにおとずれる猛烈な寒気。視界も暗くなっていく最中、一番聞きたくない声が聞こえてきた。

「俺はな、血の匂いがわかるんだよ。どこに隠れたってあれほどの傷をおわせりゃ嫌でもその匂いがわかっちまう。」

「…私…こんなところで……死んじゃうのか…。」

完全に生を諦めたとき、不意に声が聞こえた。

『お主、まさか儂を取り込んでおいて簡単に死ねると思うておるのか?』

「は?」

『まぁよい、久々の人の世。せいぜい暴れさせてもらうかの』

 意味を理解する前に私は私の中で何かとすれ違った。私ではない何かと…。


「見つけた…あぁ早く殺してぇ。暖かい血を浴びて臓物引きずり出してやりてぇ」

「ふむ、重症じゃな。どれ、少し動けるようにしてやるか。」

「なんだ?さっきまでのお嬢ちゃんじゃねぇ…何もんだお前…」

「儂か?儂はリンじゃ。貴様が儂の体を痛めつけた野郎か?」

『この体は私のものだ。』

「ほう、まだ生きておったかしぶとい奴じゃ。じゃが、そこまでの気力…気に入った。ここは一つ二人三脚と行こうじゃないか。」

『何を…』

「何ごちゃごちゃ言ってんだ!」

 その時、男がククリナイフを携え、私の身に迫る。私の体は慣れた動きでかわすと接近した男の顔にこぶしを叩き込む。男の歯が宙を舞う。しかし、男は腕を無理やり捩じりナイフを私の腹に突き立てる。

「ぐふッ」

「へっ中身は大して変わってないな。」

 ナイフを勢いよく引き抜きさらに追撃として胸に突き立てられるナイフ。

 痛いなんて生易しいものではないそれこそ早く殺してほしいほどの激痛が襲い狂う。

「うっが…」

「死んだか?いや、念のため首をまず刎ねとくか」

「…勝手に殺してくれるなよ人間風情が。」

「あ?」

「人間風情が儂を殺すには一億年ほど早いんじゃよ小僧」

「何だと?」

「まだ目覚めたてだから遠慮しておったがこの体は儂にとって相性が良いようじゃ。回復速度なんぞ前の体より早いようじゃしの。」

「うるせぇ早く死ねぇぇ」

「うるさいのはそっちじゃよ若造。」

 腕が夜空に舞う。鮮血が頬を濡らし男の絶叫が森の中で木霊する。

「うわぁぁっ俺のッ俺の腕がぁぁぁ」

「喧しい奴じゃのう。腕の一、二本大したことなかろうに。」

「ひっひぃ。」

 男は自分の腕を拾い上げると一目散に森の中へ消え、その後木の折れる音と何かが落ちた音、湿った音が聞こえてきた。

「ふっ哀れな男よ…さて、儂もそろそろ疲れたし、傷も癒えた。そろそろ眠るとするかの」

そうつぶやくと私の体は糸が切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ち、数日後隣町の病院で目を覚ますことになった。

さて、

短くなってしまいました。

次回はもう少し長めに…。いや、このくらいのほうがいいかな…

不老不死…。なれるものならなってみたいものではありますけれども

進んでなりたいと思わないのもまた事実。

老いゆく親友、取り残され、研究材料にされてしまう自分…。

そんな光景が思い浮かんでしまう。

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