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短編?

ケブラー繊維無双 ~コンビニに13km売ってた~

作者:稲荷竜
 あたりは見たことない景色だった。
 異世界に来たようだ。

 でも、困ったな。
 俺、ただの社会人だし、なんにも特技がないぞ。

 所持品だって、圏外のスマホに、財布に、ハンカチに、それからコンビニで買った『東京都の水』と『スパムおにぎり』、それから『13kmのケブラー繊維』だけだ。
 こんなんじゃなにもできないよ。

 おや、向こうからなにか来るぞ。
 肌が緑の巨人?
 そうか、化け物だ!

 どうしよう、なんの取り柄もない会社員が対応できるレベルを超えてるよ。
 こんなことなら空手の通信教育でも受けておくんだった。

 あの化け物、完全に俺のことロックオンしてるよ……
 えっと、えっと、逃げるのは、無理そうだし……
 うーんと……
 そうだ、コンビニで買ったあれがあったな。


「化け物さん、おにぎりをあげるから、俺のことは食べないでください」
「グオー!(ふざけんなテメエ! そんなんで私の腹がおさまるか!)」
「うわあ、許して、許して」


 どうしよう、めっちゃ怒ってる。
 なにを言っているかはわからないけど、それだけはわかる。

 あ、そうだ。
 俺としたことが、うっかりしてた。
 そうだよな、そりゃあ、いきなりスパムおにぎりなんていう、塩からいものを渡されたら、沖縄県民以外はキレるよな……


「化け物さん、そうですよね、ごめんなさい。まずは、お水をどうぞ」
「グオー!(なめてんのかテメェ! そんなもんよりお前を喰わせろや!)」
「うわあ、ごめんなさい、ごめんなさい」


 お水もいらないみたいだ。
 一口だけ飲んでたのがバレちゃったのか?
 そりゃあ、見知らぬ他人が口をつけたものを渡されても、怒るよな。

 というか、さっきから襲ってこないな。
 意外と話のわかる人なのかもしれない。
 見た目でモンスター扱いしてしまったけど、失礼なことをしたかもしれない。

 でも、もうあげられるものがない。
 使用済みハンカチなんてあげたら怒られるのは、目に見えてるし。
 ここが異世界だったら、俺の世界のお金が入った財布なんか、渡したって……

 いや、ここが異世界じゃない可能性もある。
 ビル群の建ち並ぶ都会から、気付いたら山々に囲まれた場所にいたけど、それだけで異世界だと決めつけるのは、早かったかもしれない。
 このモンスターさんだって、ひょっとしたら、普通の不良なのかも。
 俺はカツアゲされているだけかもしれない。

 でも、全身緑で、半裸で、角と牙の生えた不良なんて……
 あ、そうか。
 さては、ここは、原宿だな?
 こんなアヴァンギャルドな服装の人なんて、原宿とニューヨークにしかいないもんな。
 俺は今、原宿の不良にからまれてるんだな。

 すごいな、原宿。
 もっと都会のイメージあったけど、すごい風光明媚なところじゃないか。
 帰りにクレープ屋とか探してみようっと。

 でも、その前に今は、この不良少女? を撃退しないといけないな。
 相手が人間なら、みすみす財布をとられるのも、嫌だし……

 あ、そうだ。
 人間が相手の時に限り、俺には最強の武器があったじゃないか。
 スマホだ。


「あんまりからむと、警察呼びますよ」
「グウ?(なに言ってんだコイツ?)」
「警察ですよ。本気ですからね」
「グオー!(わけわかんねーこと言ってんじゃねー!)」
「うわあ、すいません、すいません。上司の命令なんです」


 怖さのあまりよくわからないことを口走ってしまった。
 ……仕方ない。
 スイカだけ抜いて、財布を渡そう。


「……これ、財布です。だからどうか、殴るのはやめてください」
「グウ?(なんだこれ?)」
「俺の全財産です……スイカはかんべんしてください……ウチに帰れなくなってしまいます」
「グオオ……(なんだかよくわからないけど、とりあえずもらっとくわ)」
「ああっ……やっぱり小銭ぐらいは……」
「グオ?(ああ?)」
「い、いえ、なんでも、なんでもないです……」


 ああ、俺の財布……
 クレジットカードとキャッシュカードを持ち歩かない主義なのが、せめてもの救いか。
 誕生日に自分で買ったブランド物の長財布なのに……


「……グオオ(……なんかよくわかんないから返すわ)」
「えっ、返してくださるんですか……?」
「グウ(食えないものに興味ねーし)」
「な、なんかよくわからないけど、ありがとうございます……」
「グアッ(いいってことよ)」
「で、では俺はこれで」
「グオー!(そんなことよりお前を食う!)」
「うわあ、話し合いを、話し合いをしましょう……暴力はよくないですよ……」


 財布は返ってきたけど、事態はなんにも解決していなかった。
 どうしよう。
 もう、俺の所持品であげられるものなんて、ケブラー繊維しかない……

 でも、こんなものもらったって嬉しくないよなあ。
 コンビニでレジ横に置いてあったから、つい買っちゃったけど。
 冷静に考えたら、使いどころないし……

 でも、一応渡してみるか。
 財布を返すような変わったカツアゲだから、俺とは違う価値基準を持ってるんだろうし。


「あ、あの、これを……」
「グウ?(なんだこれ……こんな大荷物、どこに持ってたんだ?)」
「け、ケブラー繊維です。13kmあります」
「グオオ……(いやだから、こんな大荷物、どっから出したんだよ)」
「えっと、すごい物ではありますよ。どうぞ、確認をしてください」
「グウ……グオッ!?(まあそう言うなら一応見てみるけどさあ……ん? なんだコレ!? 私の腕力でひっぱっても、ちぎれるどころか伸びもしないだと!?)」
「ケブラー繊維は絶対になにがあっても切れないです……すごい丈夫な繊維ですよ……」
「グウ(すさまじい繊維だ。触った手のひらが切れてしまった)」
「ああ、血が……青い血が……ケブラー繊維は触れたものをなんでも切るんですよ……」
「グオオ……(じゃあ、どうやって収納していたんだ……)」
「俺、血は駄目なんです……ちょっと失礼」
「グ、グオー!(な、なにをする!)」
「あわわ……なにもしません……なにもしません……ちょっと止血するだけですから……『東京都の水』で血を洗って、ハンカチを、こう……」
「……グウ(……なんだ、治療か)」
「これでよし、と……。ケブラー繊維でついた傷は、切れ味が鋭いのですぐにふさがりますから……あと、傷口をケブラー繊維で縛れば、治癒効果もありますよ」
「グムゥ(触れただけで切れるもので縛ったら、普通、ズタズタになると思うが)」
「……はい、これでよし、と。ケブラー繊維は使い手の意思を汲んでその効果を自在に変えるんです。切れろと思ったら切れますし、癒やせと思ったら癒えます。……っていうふうに商品説明に書いてありました」
「どういうことなの……」
「どういうことなのと言われましても、俺は専門家ではないので……ハッ!? あなたの言葉がわかる!?」
「私の言葉がわかるのか」
「さっきまでうなり声か吠え声かとしか思えなかったあなたの言葉がわかる……まさか、これもケブラー繊維の力……?」
「いや、どういうことなの」
「ケブラー繊維の力です」
「……いや、だから」
「すごいですよね、ケブラー繊維」
「…………まあ、そうだな」
「じゃ、じゃあ、俺はこれで……ケブラー繊維、大事にしてくださいね」
「……待て。こんな不気味なもの、もらいたくない。なんなの、なんでも切るって言ったり傷の治療に効果あったり、あげくの果てに言葉まで通じるようになるとか……怖いわ」
「で、でも……金銭に興味を示さないあなたに渡せるものは、もう、これぐらいしか……」
「いいよもう。こんなん渡されても恐ろしいし。お前が持っとけよ。その代わり、一緒に来いよ。こんな怖いもの持ったお前を野放しにするのも怖いし……」
「え、でも、そんなこと言って、俺を喰うつもりでしょう……?」
「もういいよ。治療もしてもらったし……じゃあ、アレだ、ほら、最初に私に差し出したアレで我慢してやるから」
「そ、そうですか……? じゃあ、スパムおにぎりです。どうぞ」
「どうも」


 おにぎりを受け渡す。
 そうして俺は、彼女とともに彼女の集落に行くことになった。

 こののち、色々あって、ここが原宿じゃないと気付いたり、他民族と戦ったり学校に通ったりすることになる。
 色々なピンチにも陥ったが、ケブラー繊維の力でどうにかなった。

 さらに色々あって、最初に出会ったオークのオー子さんと結婚することにもなった。
 絶対に切れないケブラー繊維の結んだ縁だ。俺たちの愛は永遠だろう。

 俺たちはこれからも生きていく。
 ケブラー繊維で結ばれた、この絆の中で――

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