フルーツバスケット
昔のことを思い出した
ある日教室に入ったら、机に大きなバツ印
ロッカーの鍵は壊されて
あちこちからクスクスと笑い声がしていた
除け者にされるのには慣れっこだった
僕は何をやっても皆と同じにできないから
足を引っ張るくらいなら除け者の方が簡単だった
笑われるのも、憎まれるよりはマシだ
僕一人が耐えていればそれで済むなら
僕は分からないふりをして情けなく笑い返せばいい
ずっと頑張ってきた
要らないって言われないように
椅子と机が教室にあれば
僕はそこに座って皆に混ざれる
味方が一人もいなくたって
居場所は確かに存在する
一番後ろの窓際の席
僕はここに座ることを許されている
上司から個室に呼び出されての解雇通告
これで何度目だろう
社会人になって知ったこと
学校の居場所は親に買ってもらった場所で
社会にそんな場所は存在しない
皆と同じにできないなら
すぐに椅子と机は撤去される
成績が悪ければそれだけで無くなる居場所
ずっと頑張ってきた
ずっと頑張ってきたけど、僕には無理だった
どれだけ頑張ったって成果が出なければ意味が無い
努力が報われるのはフィクションの世界だけだ
机の中身をダンボールに片付けている間
あちこちから笑い声がしているような気がした
何で生きてるんだろうか
帰り道、アスファルトを眺めながら考える
今まで必死に生きてきたけど
良かったことなんて一つもない
怒られて、哂われて
人生はその繰り返しだ
だけど自分で死ぬ勇気も無い
未来に希望なんて無いけど、死ぬきっかけもなく
家に帰ったらまた履歴書を書いてバイトをしながら就活をして
怒られて、哂われて
また解雇されるんだろうな
唐突にけたたましく響く音
夕陽が更に赤く染まる
体に重い衝撃が走った
さっきまで眺めていたアスファルトで視界が埋まる
喧騒はまるで笑い声だ
ああ、やっぱり痛いのは嫌だなあ
急速にしぼんでいく意識の片隅で
僕は何となく、再び目覚めることのないようにと願った。