第45話
「ねえ、結さん。
来世って信じる?」
ミユさんの髪を切った、その日の夜、
彼女におやすみの挨拶をした時だった。
幾分、顔色がよくなったように思えたけれど、
やはり、久々に長時間起きていたのが堪えたのだろう。
ぐったりとベッドのクッションに身体を横たえたまま、
うっすらと、重たそうに瞼を上げて、彼女は言った。
「ミユさん…?」
私は、正直、答えに困った。
すると、
「人は死んだら、それでおしまい。
以前は、死んだ後のことなんて、考えもしなかったの。
でもね、最近、夢に見るのよ・・・
私が死んだ時の場面を・・・」
「み、ミユさんっ」
「ううん。
ごめんなさい。
卑屈になっているのでも、自暴自棄になっているのでもないのよ。
ただね、もし、死期が近いのだとしたら、
やっぱり、それなりに準備をしなければ、と思って・・・」
「や、やめてっ」
私は、たまらなくなって声を上げた。
「結さん・・・」
「命どぅ宝 (ぬちどぅたから)。
沖縄には、そういうことわざがあります。
命こそ宝物であり、この世で最も尊いもの。
ウチナンチューの両親は、皆、子どもにそう教えます。
ミユさんの病気のこと、
私には、計り知れない大変さがあるんだと思う。
でもね、人はいつ死ぬかなんて分からないから。
だったら、最後の最後まで、死ぬことなんて考えないで、
精一杯、生きることだけ考えませんか?」
私は、必死だった。
ミユさんが死ぬなんてこと、考えたくなかった。
そしたら、ミユさんは
「そうね。その通りだわ。
死んだ後のことなんて、誰にも分かるわけないし、
そもそも、そんなこと、考える暇があったら、
もっと、前向きに生きるべきよね。
生きているのに、死んでからのことなんて考えずに…」
と言って、静かに微笑んだ。
その笑顔が、あまりに儚く美しくて、胸に突き刺さる。
何かを間違えたような気が、一瞬、頭を過ぎったけれど
ノックの音が、その一瞬の沈黙をすぐさま破ってくれた。
ノックの主は、もちろん、ベンだった。
「美夕、結。
喜べ!
明日、カイがここに来る。
皆で、ガーデンパーティーしようぜ」
「カイが!?」
殆ど同時に、ミユさんと私は驚きの声を上げた。
「ああ。
久しぶりだなぁ~
美夕、何食べたい?
何か、美夕の食べられそうなもの、俺、用意するよ」
「わあ、素敵!
そうね、ミユさん、何にしよっか??」
ミユさんは、殆ど、口から栄養を取っていなかった。
気分が悪くなるから、というのが理由だったけれど、
それじゃ、元気なんて出るわけないと思っていたところだった。
食べることは、生きることそのものだ。
否応なく上がるテンションは、きっとミユさんも同じに違いなかった。
ミユさんは、嬉しそうに、一度、目を閉じると
「そうね、何がいいかな・・・」
しばらく、考えてから
「おそうめん」
と答えた。
「そうめん!?」
ベンは、予想もしていなかった様子で、聞き返した。
「ええ。
冷たく冷えた、おそうめんがいいわ」
にっこり笑うと、ミユさんは言った。
「そうよね、今年の暑さは尋常じゃないし、
冷えたそうめんなら、食べやすいわね!」
私は、そう同意して
折角の食欲を応援することにした。
ベンは、もちろん、すぐに賛同してくれて、
「そっか。
じゃあ、思いっきり楽しい素麺パーティーにしようぜ」
とニヤッと笑った。
そうして、私たちは、各々、明日のランチパーティーに向けて、
思いを巡らせながら、眠りについた。
まさかの素麺パーティー!?
すみません、彼女の希望です(笑)
儚い彼女。
この先に彼らを待つものは!?(なんて)
すみません、ちょっと仕事で疲れて、
今日はここまで・・・
また続きもよろしくです・・




