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第27話

穏やかな生活が終わりを告げる。

その日は、もう、すぐそこまで来ていた。


「カイ、いいのか?・・・これで・・・」


「いいも、悪いも・・・

 所詮、俺の人生なんて、こんなモノなんだろう。

 自分の思い通りになんて、なるわけも無いんだよ・・・」


「カイ・・・すまない・・・」


「なぜ謝る?

 ベンのせいじゃない」


「いや・・・俺の力不足だ・・・」


それは、全く違う。

少なくとも、ベンには何の咎もない。

それどころか、ベンこそが、犠牲者だ。

一体、何だって俺の人生に関わる必要があったんだ?

ベンには、もっと自由に生きる権利があったはずなんだ。

そして、この緩やかに繋がれた鎖から、逃げ出すだけの知恵も力量も

彼には備わっていた。

なのに、彼はそれを良しとしなかった。

俺と一緒に、この監獄にいる人生を選んだ・・・いや、選ぼうとしている。

俺は全てを分かった上で、みすみす見逃そうというのか・・・


「なあ、ベン。

 今なら、まだ間に合う。


 お前だけでも、自由に・・・」


「まだ言うのか!?やめろっ」


ベンは、顔をゆがめて怒った。

今にも泣き出しそうだ・・・


「俺が、そんなことをすると本気で思っているのか??

 まだ、俺の決意を疑うのか!?

 何度言えば・・・」


「ごめん。ベン。

 悪かった」


俺は素直に謝った。

ベンの誠意を疑う余地なんて、毛の先ほども無かった。

けれど、だからこそ、これほどまでに得難い友人を犠牲にすることなど

許してはいけないはずだった。


「カイ。

 俺を思ってくれているのなら、一つだけ、分かってくれ。


 俺は、誰のためでもない。

 自分自身のために、カイのそばにいる。

 だから、もう、俺がそばにいない人生を想像してくれるな。


 一蓮托生。

 俺の運命は、あの日から決まっているんだ。

 そして、それを俺は気に入っている」


「ベン・・・」


「カイ。

 俺たちは、不幸になるために生きているんじゃない。

 俺も、カイも幸せになるために、生まれてきたんだよ。


 そして二人は出会った。運命を共有するために。


 いいか?どちらか一方だけじゃない。

 二人ともに、幸せになるんだ。

 今、改めて誓ってくれ。

必ず、幸せになると」


「ベン。


 分かったよ。誓おう。

 二人で幸せな人生を見つけるって」


「幸せ」という言葉がチープに聞こえる時代に、

俺たちは、幼少期から合い言葉のように「幸せ」という言葉を使った。

「幸せ」とは何か。

そんなことまで、教えられてきた俺たちに、

どんな幸せの形があるのか、未確定だった。


けれど、そう。

せめて、この数年、あの異世界から、離れて過ごしたお陰で、

幸せになるってことが、不幸ではないってことだけは分かる。

そして、きっと、人それぞれに幸せの形があるってことも。

だから、あえて、約束しよう。

俺たちの、俺たちだけの、幸せの形を二人で見つけるってことを・・・




「ユイー!

 そろそろ、台風がやって来そうだ。

 悪いんだけど洗濯物、取り入れちゃってくれるか?」


マナブは、空の様子を伺うように窓の外を覗きながら、

ちょうど、手が空いて、床を掃こうとしていた私に言った。


「あ、りょうーかい!」


確かに、窓の外は真っ暗になってきていた。

慌てて屋上に駆け上る。

午前中に使った数十枚のタオルをとりあえず片っ端から回収した。


洗濯カゴに山盛りになったタオルを

とりあえず、休憩室に使っている六畳の部屋に取り入れて、

そこでたたむことにした。


いつもだったら、全く気にもしないテレビを

つけてみようかと思ったのは、全くの偶然だった。


今日は、朝からニュースで夕方の台風をさんざん予告していたため、

お客さんも午後からほとんどいなくなっていた。


今いるお客さんが終われば、

閑散時間帯となることが予想されたのもあって、

私は、夕方のニュースを見ながら洗濯物をゆっくり畳んでもいいかな、

という気分になっていたのだった。


リモコンでスイッチをオンにすると、

普天間基地の移設の話しが取り上げられていた。


辺野古への基地移設へ反対する人たちの群れが

そこには映しだされていた。


日本はアメリカのいいなりだ。

それは敗戦した戦後からの運命みたいなものかもしれないけれど、

アメリカに服従しながらも、それを逆手に自分たちの生業を見つけて儲けてきた人たち、

したたかに生きる日本人の姿も確かにある。


けれど、なぜ沖縄だけが、これだけの負荷を担わされなければならないのか。

太平洋戦争時の悪夢を、私は子どもの頃から学んできた。

本土の日本人と沖縄の島に暮らす日本人の生命は

重さが違うのだと思ったこともある。


うまく言えないけれど、基地を移設するといいながら、

沖縄に押し付けることで解決しようとする姿勢は、

やはり沖縄人として納得がいかなかった。


基地での収入で潤っているのだろうと、

私たちをそんな目でみる人たちは、

じゃあ、自分のところで基地を引き受けて経済的に潤えばいいじゃないかと思う。

それは嫌だといいながら、同じ日本人である私たちに我慢を強いる気持ちが分からない。

そもそも、なんで日本にこんなに米軍基地がなければいけないのか?


そんなことを思いながら、10枚ほどタオルを畳んだ時だった。


画面を見るともなく、見ていた私の目に

ある男性が映った。


画面いっぱいに映されたのは首相だった。

イケメン首相とか何とか、確かに首相になった当時には

女性人気が高いと騒がれていたけれど、

私が目を止めたのは、首相の姿ではなかった。


その後ろに、小さく映った男性が、

カイに見えたのだ。


私が東京で見慣れたシャツとジーンズ姿ではなく、

スーツ姿で、同じくスーツ姿の男性に混ざっていたけれど、

カイがいたような気がした。


私は、もう一度、彼の姿が見られるのではないかと

画面を注視したけれど、すぐにニュースは次の話題へと変わっていた。


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