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第11話

「ふーん・・・

 タバコ、ねぇ・・・」


夕暮れの公園に戻ってベンチに座り、

百合子の家での出来事を、粗方、ベンに聞いてもらった。


「そいつも、そいつだけど、

 親父も親父だな。


 まあ、そういうヤツって、残念ながら

うんざりするほど世の中にはいるけどさ」


金髪の前髪をすくい上げ、ベンは遠い目をして言った。

誰かを思い出しているように見える彼を、私は見つめた。


「学歴、肩書き、エトセトラ。

 そういう、分かりやすい分類で人間を評価したがるヤツはバカだ。

 つまり、自分の目で相手の人間性を判断できないってことだろ。


 で、こっちとしては、そういうバカとどう付き合うか、

 ってことになるわけだけど・・・」


どうやら、今のところ、私は「こっち」側の、

つまりは「バカ」ではないグループに入れてもらったようだった。


「そいつ、お前にとって、本当に友達なの?」


真っ直ぐに私を見て、そういった。

その瞳があまりに真っ直ぐ過ぎて、私は戸惑いを隠せなかった。


だから「え!?ええ・・・友達・・・だと思う」と答えた。


「だったら、すべきことは一つだろ。

 これからそいつん、行って、

お前の気持ちをちゃんと伝えようぜ」


「は!?」


「友達ってのは、お互いを信頼してできるもんなんだよ。

 今のまんまじゃ、おかしいだろ?

 お前の気持ち、そいつには伝わってねぇよ。きっと。

 んで、お前も、そいつのこと、信頼できねえまんま、

 ぎくしゃくしていっちまう」


「そ、そうかもしれないけれど・・・」


「友達なんだろ?

 だったら、お前の気持ち、相手だって知りたいはずじゃねぇの?」


「・・・」


「そう思えないなら、友達じゃねぇよ。

 そんな関係、やめちまえよ」


ベンの言葉は厳しい。いつものことだったけれど・・・

黙ったままの私に、業を煮やしたのか、ベンは語気を荒げはじめた。


「お前さ、いつも受け身じゃ、物事は何も解決しねえんだよ。

 こういう時にこそ、しっかり向き合うことが必要なんだ。

 そうすれば相手のことがもっと分かる。

 そいつの人間性が露呈するもんだろ


 友達だっていうならさ、ちゃんと正面からぶつかれよ。

 そんで、これからも、友達としてつきあえる相手かどうか見極めろよ。

 逃げんじゃねぇよ」


「に、逃げてなんかないわ!」


私は、思わず、つられて怒ったような声を出してしまった。


「だったら何なんだよ?」


睨み付けるような視線で、ベンは私にたたみかけた。


「百合子は、今日、具合が悪いって言って私を頼って来たの。

 でも、それが嘘だったって、私にばれてしまって、

 きっと、気まずい思いをしているわ。


 そんな時に、私が彼女の家に行って、私の気持ちを伝えることは、

 彼女を苦しませるだけ。

 追い詰めてしまうことになりかねないでしょ?」


私は、精一杯、自分の気持ちをベンに伝えた。

でも、ベンは、そんな私にますます、語気を強めて


「お前が言えないなら、俺が言ってやる。

 そいつのところへ連れて行けよ。

 お前が傷ついて、こうやって途方に暮れていたってこと、

 俺が伝えてやるよっ」


と言い放った。


「やめて、ベン!!

 もう、いいの。


 分かったから。

 ベンの言っていること、正しいって分かってるから。


 だけど、今日は、ひとまず家に帰りましょ。

 私も頭を冷やしたいし。


 彼女が本当の友達なら、きっとこのままでは終わらない。

 でも、興奮している時っていい結果が生まれないことも多いでしょ?

 時間を置くことも必要よね?

 だから、ね?

 今日は、家に帰りましょ」


懇願するような私に、納得いかない様子で、

憮然とした態度だったけれど、ベンはとりあえず矛先を納めてくれた。


「ありがとう。ベン。

 ベンにここで会えて、よかった。

 私のこと、こうやって心配してくれて、

 本当に感謝しているの」


ベンは黙って立ち上がり、「帰るぞ」と呟くように言うと、

スタスタと歩き始めた。


私は、彼に置いて行かれないように、慌ててその後をついて走った。



帰り道、電車の中でも、道を歩いていても、ベンはずっと黙っていた。

私は、その気まずさが怖くて、何かを話しかけるけれど、

ベンは相手にしてくれなかった。


何かを間違えてしまったような、

そんな罪悪感のような感情がわき上がってきたけれど、

ベンの気持ちが収まるまで私にできることは無かった。


でも、私のことで、これだけ怒ってくれる彼は、

やっぱり友達なんじゃないだろうか。


そう思うと、少しだけ、嬉しい気持ちもあった。


彼は、派手な外見やぶっきらぼうな態度とは裏腹に、

誠実で、正義感が強い気がした。

そして、今日、偶然出会った場所が図書館というのも、

彼が、まじめな人間だということを示しているみたいに思った。


以前、食事の時に一度だけだったけれど、

区役所の仕事について文句を言っているのを聞いたことがあった。

詳しくは忘れてしまったけれど、その時の彼の言い分は、もっともで正しいと思った。

そう、会話の端々に、知性というか教養の高さみたいなものを感じた。

うまく言えないけど・・・


「今日のメシ、作れよ」


家から一番近くにあるスーパーの前で、

ベンは突然、言った。


「え?」


「俺、ゴーヤーチャンプルー、食いてぇ。

 あと、スパム握りも。


 お前、作れよ」


「うんっ。いいよ。

 じゃ、お買い物していこ。

 付き合ってくれる?」


「ああ。

 仕方ねぇな・・・」


こちらを振り返りもせず、ベンは店の中に入って行った。

私は、スキップするようにして、その後を追った。


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