シャワー室へ。魔王学校 1年目(4月27日。7時ごろ)
帰りは、天使のマキを連れていたこともあり、ゆっくりと帰った。
「あら、早かったじゃない。
おかえり、薫」
薫がアイの部屋に戻った時のアイの第一声だった。
「ただいま。
天使はちゃんと連れて帰ったし、貴族の城は全壊させてきたよ」
と、薫はアイにこたえた。
「貴族の城の中の者達はどうしたの?」
「できるだけ殺さないように配慮して壊してきた」
「元魔王の一族の顔に泥をぬったんだから、皆殺しにしたっていいのに。
甘いわね。
で、奴隷も無事ね。
傷とかはつけられてないでしょうね?」
と、アイはマキの方を見て言った。
マキは、
「はい。
大丈夫です」
と、答えたのであった。言葉に力がなく、弱々しい声だ。
マキは震えていて、顔は青ざめているいるように見える。
薫がマキを助けた時にマキは、奴隷から解放され、別の生活が送れるかもしれないと、少しは期待をしたかもしれない。
だが、また魔王城に連れ戻され、奴隷のままだ。
期待が絶望に変わる。
希望を抱いた分、絶望も大きい。
マキの頭の中には今まで魔王城であったつらい記憶が駆け巡っている……。
アイが、
「そう」
と言った。
『カツン』
アイが音をたて、マキに一歩近づく。
マキは昨日の夜、アイから理不尽にはたかれたばかりだ。
マキは、アイが近づいてきたことによって恐怖がさらに増す。また理不尽に暴力を受けるかもしれないからだ。
そして、マキは立っていることができず床に座りこんでしまった。
マキは震えながら下を向いてうずくまっている。
アイは、続けて話す。マキが、恐怖で震えているのを楽しんでいるようだ。
「あら、私が話しかけてあげているのに、座り込んじゃうなんて教育が必要ね……。
どうしようかしら……」
アイはさらにマキに近づき髪を少し持ち上げる。
「っぅ……。
うっうっ……」
マキから声にならない声が聞こえてくる。
薫は、アイの行動がやりすぎだと思って、マキの髪を持っているアイの手をつかんだ。
「それ以上、やる必要はないだろう」
と薫は、アイの目を見て言った。
それに対して、アイはマキを見ながら、
「離して。
これはまだ魔王城の奴隷よ。
それに、この奴隷は礼儀がなってないわ。
ちゃんと教育しなきゃ」
と言った。
アイとしては、マキはまだ魔王城の奴隷で、薫のとこに奴隷の所有権が移っていないと言いたいのだろう。
「もういいじゃないか。
マキは帰ってきて疲れているのだろうから休ませてやろう。
それに、アイが出した条件を俺がのむから。
マキをいじめないって約束だったろう?」
「わかったわよ。
今日のところは、これで終わりにしてあげる。
あと、奴隷。
私の部屋を汚いままでうろつかれると困るから、早くシャワーを浴びてきてちょうだい」
アイはそう言って、別の部屋に早足で行ってしまった。
薫がマキを見ると、マキはパーティでお酒をかけられたままのように見えた。
だが、マキは、恐怖と何が起きているのかわからないので頭の中が混乱し、動けないでいるようだった。
それなので薫は、マキの肩を優しく触り、シャワー室へ案内したのだった。




