明ける空
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錯覚した。
勘違いをした。
そうかも知れない。
いつだって、振り回されていた。
目が覚めた時、叫び出したい衝動にかられて一気に不安が押し寄せた。
理由は解らないが、きっと寂しかったのだと思う。
妙な焦りを抱えたまま頭を動かし、あたりを見回す。
ああ、そうだ。
昨日俺は、木崎の家に泊まったのだった。
和室に敷かれた二組の布団は、隙間が無いようにピッタリと合わされている。
隣に眠る木崎は、背中を丸めてゆっくりと呼吸をしていた。
Tシャツとスウェットから青白い手足が伸びている。
時折蠢く指先の爪は、神経質そうに短く切り揃えられていた。
枕元に置かれた時計を見ると、朝の4時を指している。今日は土曜で、学校も無い。
もう一度布団に顎を埋めて瞼を閉じた。
昨日、帰ろうとした俺を引き留めたのは木崎だった。
どうしてなのかは解らない。
解らないが、解ろうともしていないのも事実だった。
もう、理解し合う事を諦めているのかも知れない。
では何故俺は、彼と居るのだろう。
何故俺は、彼の気を引く女どもに嫉妬しているのだろう。
木崎の家なんかに泊まらなければ良かった。
今まで誰が、どんな奴が、ここで彼と過ごしたのか。
そんな事ばかりが頭を掠めて仕方が無い。
どうしようも無いのに。
彼には、俺だけでは足りないのだ。
愛されたがりの人間は、両手に余る程の愛情を求めては満たされず、それではまだまだ足りないと。
憎らしい。
けれど嫌いにはなれない。
そういう木崎だから、求められれば誰にでも応えるのだろう。
もう充分だと言ってくれれば。
俺の分だけ欲しがってくれれば。
嫌いになれれば。
そうなればもうこんな虚しい思いをせずに済むのに。
次第に外が明るくなってくる。
見つめる木崎の寝顔。
不意にぱちりと彼の瞼が開き、真っ直ぐに視線が絡んだ。
「二見」
それに驚いて自分の口元が歪むのが解る。
「二見、夢にお前が出てきたよ」
「……へえ」
「美人な女と結婚式をして、俺は二人を祝福するんだ」
「そう」
「………気に入らない夢だった。…本当に、気に入らない夢だった」
鼻先で彼は笑い、ゆっくりと上体を起こした。
「起きるのか」
「夢の続きを見たくない」
そう呟き、大きな欠伸をして面倒臭そうに頭を振った。
不意に、彼と最後に口付けたのはいつだったろうかと考える。
俺の知らない所で誰かに触れる指先や口唇が嫌になったのだ。
木崎と付き合ってから初めて知った事がある。
俺はどうやら嫉妬深いらしい。
「木崎」
「なに」
「俺は多分、結婚したりしないよ」
「どうして?」
白々しい。
彼は首を傾げて笑った。
「さあ、どうしてかな」
それは俺にも、解らないよ。