出会い
2012年12月31日改修
エルウィン王国が突如、
北の「ウルク帝国」に侵略戦争をしかけられてから7年…
エルウィン王国は、戦争が始まったその日に王城『ペンドラゴン城』に奇襲を受け、
エリック国王と第四王妃メアリを亡くし、
3カ月後には、臨時国王となった第一王子『エギル』が戦死。
直ぐに代理国王となった第二王子『アルベール』も5年の間、奮戦をしていたが、
臨時王城だった『アイルゼン砦』を落とされ、生死不明となっていた。
国内に残っていた第三王子と第一~三王妃も、帝国に囚われ、幽閉されている。
第四王子の行方は南のカストラート王国に亡命したと噂されているが定かではなかった…。
そして、エルウィン王国は消滅し、ウルク帝国の属州となり『ウルク帝国第7区』となっていた。
◇◇◇◇◇
ここは、カストラート王国の港町『サイアス港』、
王都『カストラート』から数十キロ離れた港町。
今、カストラート王国は、『ウルク帝国』と同盟を結ぶ事でどうにか、侵略の手から逃れていた。
同盟と言っても名ばかりで、兵と物資の提供を強要される属国となっていた…。
私は、今…必死に路地裏を走っていた。
後ろからはイカツイ黒の甲冑を着た兵士が追ってくる。
先ほど、港でぶつかった時に、言いがかりをつけられ、連行されそうになったので、
逃げているところだ。
路地裏の道は入り組んでいて、上手くいけば、まけると思っていたが…
中々まくことができず、とうとう道は行き止まりなってしまっていた。
息をきらして、振り返ると、3人の兵士が、ゆっくり近づき、
私の上から下までをねめつけるように見。
いやらしく口元を歪ませてニヤリと笑う。
私は今年10歳になる。
10歳といってもこの世界では、13歳で成人扱いで、10歳ともなると、
体つきも通常の若者と変わらない。
胸もまあまあ、ある方で、魔法学校でもまあまあ美人の部類に入ると自覚している。
髪は緑色で腰まである、目も緑色なので風系魔法が得意ではあるが、
兵士に効くほどではないだろう。
そんな私を兵士の一人が言葉を発する…
「おい、おい、随分手間をかけさせてくれたな?
これは、詰所に連行して、お仕置きしないといけないな?」
とニヤニヤしながら言ってきた。
私は、少し怖気づきながらも言い返した。
「そっちが、わざとぶつかってきたんでしょ!
大体、あんな広くもない通りで、横に広がって歩く方がどうかしているんじゃない?」
兵士はそんな反論も気にした風もなく、後ろの二人に顔をむけ、両手を挙げて肩をすくめてみせる。
「おいおい?
随分な言いがかりだな?
俺たちは、親切で同盟国の港を「巡回警備」してやっているんだぜ?」
私は思わず言い返した。
「同盟国の港を巡回警備なんて聞いたこと無い!
そんなの越権行為じゃない!」
すると兵士はおおげさな仕草で、驚いて見せ。
「お!難しい言葉を知っているね。お嬢ちゃん!
よかったら、お兄さん達にもその謁見行為とやらを教えてくれよ!」
と言って、振り返り、三人でゲラゲラ笑い出す。
私が怒りで真っ赤になっていると、ふいに後ろから澄んだ声が聞こえてきた。
「面白そうな遊びをしているね?
よかったら僕も混ぜてくれないかな?」
と友達にでも声をかけるような気軽さの声が路地裏に響いた。
私が目を見張り、兵士達が驚いて振り返るとそこには『美少女』がたっていた。
背は私と同じぐらいの165cmぐらいか?
髪は薄緑色で背中の中ほどまである。
その髪を三つ編みでひとまとめにしていた。
目は灰色、顔やスラッとしたむき出しの手足は、抜けるように真っ白で、
半袖、短パンにチョッキを羽織っていた…。
(ここら辺は暑いのでこの格好の若者は結構いる)
何より、顔立ちが愛らしかった。
目鼻立ちははっきりしていているが幼さを感じさせる風貌で、美人というより、
可愛い系だが、そこはかと気品を漂わせる雰囲気をかもし出していた。
兵士達は思わず息を呑んだ。
少しの間、呆けていたが、突然はっと気が付いたように
「お!おお!
これはまたえらく美人な御嬢さんだな?!
何、何、俺たちと遊びたいの?」
と驚きながら一番その少女に近かった兵士が嬉しそうに、
その『美少女』に近づいていく。
『少女』はニコッリ笑い。
「うん、そーだよ。
お兄さん達遊んでくれるの?」
「遊ぶ、遊ぶ!
お兄さん達と良いことをしよう。」
と言って、手を伸ばそうとする。
私は思わず声を上げようとしたが、怖さで声が出てこなかった。
すると、兵士の手は、少女の眼前まで伸ばしたところで、急に停止し、動かなくなる。
私は思わず目をつぶった。
だが、しばらくしてもいっこうに叫び声などは聞こえてこなかった…。
すると、いきなり肩をつかまれたので、思わず叫び声をあげてつかまれた手を振り払った。
恐る恐る目を開けるとそこには、先ほどの少女が、不思議そうにこちらを見ていた。
どうやら先ほど振り払った手はこの少女のものだったらしい。
すると少女は何もなかったかのうな気軽な声で話かけてきた。
「大丈夫だった?
変な事は…まだ・・されてなかったよね?」
と聞いてきた。
私は声が出ず、コクコクと頷くのが精いっぱいだった。
すると少女はニコリと微笑み、私の手を握ると歩きだそうとした。
私は、されるがまま後をついて歩きだしたが、
足元に転がっている兵士達を見て思わず軽く飛び上がって手を離してしまった。
少女が小首をかしげてこちらにふりかえる。
「もう、その人たちは気絶しているから安心だよ?」
と不思議そうに言ってきた。
私は思わず動揺して。
「ど…ど…どうやってやっつけたの?
全然音とかしなかったのに…」
すると少女は何事も無かったかのように
「ああ!
ちょっとした魔法だよ♪
魔法の内容は企業秘密ってことでよろしく♪」
と楽しそうにニッコリ微笑みながら親指を立てて言ってきた。
私が絶句していると、どこからか女の子の素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「あーーー!
リンネ!
また、やったわね!
あれほど目立つような事はしちゃいけないっていっているのに!」
と叫んで、目の前の少女とまったく同じ顔の少女が駆け込んできた。
こちらの少女は、髪と目は目の前の少女と違って水色で、髪は束ねていなかった。
服は白のワンピースに目の前の少女とお揃いのチョッキを羽織っていた。
「ふ・・双子の姉妹?」
と私は思わず指さしながら呟いていた。
「あ!ユーリ。
これは…その…そう!
人助けで!しかたなく……
でも、あいつらには、何をされたかわからなかったと思うから大丈夫だよ!」
と少女は駆け付けた『水色の髪の少女』に焦りながら弁解した。
「ユーリ」と言われた少女は頬を含まらせて「リンネ」と言われた少女を睨み。
「わざわざ、騒動に首を突っ込んで!
もし、それで捕まったり、誰かに怪しまれたらどうするのよ!」
と『リンネ』と言われていた少女を指差しながら、迫ってきていた。
『リンネ』と言われていた少女は両手を前に出して、「ユーリ」と言われていた少女に
「まあ、まあ、まあ…」
としどろもどろに落ち着かせようと必死だ。
私は、しばしその光景に圧倒されていたが、はっと今の状況に気づき。
恐る恐る口を出す。
「あのーーー
お取込み中すみませんが…
取りあえずこの場をはなれません?
この人たち、いつ気が付くかわからないし…」
と控えめに提案した。
すると、「リンネ」と言われていた少女が、
「そう!そう!
ちょっと酸欠にしただけだから直ぐ目を覚ます
かもしれないよ?
取りあえず移動しよう!」
と焦りながら言った。
『ユーリ』と言われていた少女は、仕方なさそうに
「はぁ」とタメ息をつくと、
「しょうがないわね!
取りあえず安全な場所まで移動しましょ!」
と来た道を振り替り、
「こっちよ!
ついてきて!」
と私たちに言ってきた。
「リンネ」と言われていた少女は私の手をつかむとその後に続いた。
◇◇◇◇◇
私たちは港町のカフェに取り敢えず入り、
奥の方の四人がけのテーブルに腰を下ろした。
そして私は、並んで座った少女に向かって、立ち上がり、
『リンネ』と言われていた少女に向かって、頭を下げた。
「さっきは助けてくれてありがとう!
本当いうと、あそこで、あなたが助けてくれなかったら
今頃どうなっていたかわからなかったわ!
感謝してます!」
と言った。
『リンネ』と言われていた少女は、
「まあまあ!
そんなかしこまらなくていいよ!
当然の事をした、までだよ!
可愛い女の子が困っていたら助けないわけにはいかないからね。」
とニッコリ微笑んで答えた。
するとそれを見ていた『ユーリ』と言われていた少女は、
ジト目で、『リンネ』と言われていた少女に、
「リンネったら鼻の下伸ばして!
かっこわるーい!」
とむくれている。
『リンネ』と言われていた少女はそれを聞いて苦笑していた。
私は少し圧倒されながら
「あ…あの自己紹介まだでしたよね…
私は、ティファ・エヴァンスです。
今年10歳でサイアス魔法学校の7年生です。」
となんとか、喋った。
すると「リンネ」と言われていた少女は、
「そうなんだ!
じゃあ僕らと同い歳だね。
僕は「リンネ・アルベール」。
こっちは妹の『ユーリ・アルベール』だよ。
アイサスには、昨日、親の都合で引っ越ししたばかりなんだ。」
私は、『アルベール』いう苗字にもしやと思って、聞き返していた。
「あの…もしかして、今度、ここの領主になる…
アルベール侯爵のお子様ですか?」
と聞いていた。
リンネは驚いた表情で、
「良く知っているね!
そーなんだ『エイナス・アルベール』は僕らの父だよ。」
「そうだったんですか!
私の家は、商家で、「エイナス」様には御ひいきにしていただいております。」
と改めてお辞儀をした。
そして、少し迷った後、疑問に思っていたことを口に出す。
「あの…
あまりに、お顔立ちがそっくりなんで気になっていたんですが、
お二人は、双子の…姉妹?なんですか?」
と思い切って聞いた。
すると
『ユーリ』が突如吹き出し。
『リンネ』がガックリ肩を落とした。
答えは、『ユーリ』から帰ってきた。
「兄妹なのは間違いじゃないわ!
んーーーと、双子(ってことでいいか?)かな。
そ・れ・と♪
リンネはこう見えても『男の子』よ♪」
私は、思わず口に手を当てて、
「リ…リンネさん!
失礼な事を言ってしまってすみませんでした!」
と頭を下げる。
リンネは少し疲れた表情で、
「あぁ…いいから…いいから…
こーいうのは慣れているんだ…。」
と力なく返事をした。
リンネ達の話だと、学校もこっちには、貴族の学校が無いので、
私と同じ「サイアス魔法学校」に転校してくるとの事だった。
私たちは学校での再会を約束し、分かれた。
◇◇◇◇◇
私は引っ越してきたばかりの屋敷への人気の無い帰り道、
リンネに向かって話始めた…
「もう!
リンネったら!
無茶ばっかりして!
心配するこっちの身にもなってほしいわ!
どこで、あなたが『エルウィン王国の第四王子のリーン・ウォーター・ペンドラゴン』って
バレるか、分からないんだから!
髪を染めている程度じゃ、メアリ叔母様にそっくりなその顔はごまかせないわ!」
と自分が『リンネ』にそっくりな、容姿であることを棚に上げて小言をいった。
そう、リンネは『エルウィン王国の第四王子、リーン・ウォーター・ペンドラゴン』だ。
エルウィン王国は、今はウルク帝国第7区となってしまっていた。
私は、リーンの母親の『メアリ・ウォーター・ペンドラゴン』の妹の
「ミリア・アルベール」の娘で、リーンとは従兄妹にあたる。
7年前、エルウィン王国が突如、北の『ウルク帝国』に侵略攻撃を受けた時、
リーンは祖母の『エヴァ・カストラート』を頼って、ここカストラート王国にやってきた。
祖母は、最初にリーンを見たときかなり驚いた。
それもそうだろう、娘の『メアリ』の幼少の頃に瓜二つで、従兄妹の私『ユーリ・アルベール』
にそっくりだったのだから…
祖母はリーンの亡命は、現在の戦況から見て、危険と感じ、自分の二番目の娘の嫁ぎ先、
『アルベール侯爵家』に身分を偽って預ける事にしたのだ。
幸い、リーンは従兄妹の私に瓜二つだったので、
私と双子(生まれた月は、リーンの方が早かったが)というこで、偽名を『リンネ』とし、預けた。
ちなみに偽名は、リーン本人が付けたとの事だ。
私は、聞いたことの無い名前だったので、何か意味がある名前なのか聞いた時がある。
その問いにとリーンは、
「生まれ代わりって意味があるんだよ…。
祖国を追われ、新天地で新しい名前でやり直すには相応しい名前だろ?」
と言っていた。
そんなリーンに初めて合った時は、私もリーン自身もかなり驚かされた。
まるで鏡を見ているようだったからだ。
お互い恐る恐る手を出して、指が触れ合った時に、
ビックリして、手をひっこめたのをよく覚えている。
私の小言にリンネは少しウンザリした感じで言い返した。
「ユーリ…
そうは言うけど、あの状況は見過ごせなかったよ!
あの『ウルク兵』達は自分達がなんで気絶したなんて分からないようにしたから
きっと、大丈夫だよ!」
私は、その反論に少しムッとして、きつく言い返す。
「そうは言っても顔は見られているんだから!
気をつけてよね!」
「分かったよ!
今度からは、顔も見せずに気絶させることにするよ!」
と少し投げやりにリンネは答えていた。
私は、再度言い返した…
「ほんと!
そうしてくれると助かるわ。」
私は、リンネ(リーン)の能力をよく知っていた。
確かにリンネの『Rule space』は無敵に思えるが、使用限界時間と距離には限りがあるし、
使用しすぎると、気絶するように倒れてしまう。
能力が切れた時、敵に見つかったら、致命傷だ。
「ほんと!
私が注意してみてないと!
無鉄砲なところがあって心配ばっかりかけるんだから!」
私は、一人、心の中でつぶやいた。
作者の八咫烏です。
リーンカーネーション・サーガ第二章の最初となります。
ここから、新しい展開となります。
ご意見・ご要望を頂ければ幸いです。