脱出
2012年12月31日改修
僕は、昨日の暗殺の事を考えていた。
ここ数か月、国王の具合が悪く、臥せっていて、容体は悪くなる一方だという話を、
メイド達から聞いていた。
その王へのお見舞いで、最近、母様も留守勝ちなのも気になるが…
その為、次期国王の第一王子
『確か、エギル王子だったか?』
が近じか王位につくのではと噂されている。
しかし、エギル王子の評判はすこぶるよろしくない。
それに対して、第二王子のアルベール王子の評判はかなり好評価だと聞いている。
こういった場合、大体王位がすんなり決まるとは思えない…
ならば、第一王子派も第二王子派もなんらかの策略を取ってきそうだ…
昨日の暗殺未遂は、そういった策略(陰謀?)の一つと取っていいのではないだろうか…
僕は、父王に疎まれているが、母様は父王に好かれている。
これを利用して…
「陛下は一番愛している、第四王妃の子供を次期国王にと考えている」といった噂を流し、
それに対して、不満を持った…
おそらく、第一王子派あたりに、罪をなすりつける形で、
暗殺する…といったような事があってもおかしくないように思う…。
しかも、僕は、無色で無能力とされているのだから、
王国にとってもいなくても問題無いどころか、かえって都合が良いと判断されるだろう。
ならば、僕としては、何とかここから脱出する手段を考えておかないと、
みすみす殺されてしまいかねない…。
まず、何とか無難にすませられそうな方法としては…
「1、母方の親戚に養子にしてもらう、もしくは、預けてもらう。」
「2、魔法学院に入学させてもらう(全寮制である為)」
後、これはあまり使いたくないが…
「3、事故を装って、死んだ事にする」
3は、かなりリスクがある…
方法としては、城壁の海側を散歩させてもらい、
歩いていて、僕が誤って城壁の外に落ちてしまうというものだ。
これは、僕の能力(Rule space)を使えば、壁や岩に当たることもないし、
おそらく、海の中でも自由に動けるだろう。
ただ、今の僕の能力の発動時間の最長が15分程度だからそれまでに
岸につかないと助からない可能性はあるが…
あと、この方法は、ただ脱出するだけで、その後の生活などは行き当たりばったりだ…
自分の能力などを明かして、リオン先生の実家にでもかくまってもらうのは…
無理かな?
下手したら反逆罪などにされる可能性もあるし…
事故を装うなら…生活などは自力で考えないとか?
まずは、一番無難な、『案1』を母様が陛下の見舞いから帰られたら話してみるべきか…
などと考えていた。
◇◇◇◇◇
だが、その夜、母様は屋敷に帰ってこなかった。
執事の話によると、国王陛下の容体が急変されたとの事だった。
各王子、王妃は緊急に、国王陛下の寝室に集まっているとの話だ。
ちなみに自分は、呼ばれていないとの事だ。
この後に及んでも、自分は毛嫌いされているのかと思うとやるせなくなる。
そんな夜だったので、僕は寝付けないでいた。
すると遠くから、この世界では聞かない『機械音?』の、様な音が聞こえてきた。
その音はどんどん近づいてくる。
何の音か気になったので、窓を開けて音のする方角の空を見た。
だが、この屋敷は、城壁内にあるので、遠くまでは、見通せない。
しかたが無いので、上を見上げると不意に爆音がして飛行機?が通りすぎた!
『飛行機』はこの世界には存在しないことを、周りの人の話から聞いていたので、
「そんなバカな!」
と僕は知らずに叫んでいた。
その飛行機というより爆撃機?は真上を通りすぎると城の上に何かを落とした!
僕は『ヤバい!』と思い、とっさに窓から離れ、身を伏せた。
すると、すさまじい爆音と振動と光が外から数回にわたって襲ってくるのを感じた。
その振動が収まるのを待って、窓の外を確かめる。
すると城は半壊し、炎があたりを覆っていた!
まさに、
「地獄絵図…だ……」
と呟いた時、ドアが勢いよく開き、
「リーン殿下ご無事ですか?!」
「リーン王子様ご無事ですか!」
「王子殿下ご無事ですか!」
と執事とメイドと警備の従士がそれぞれ叫びながら入ってきた。
僕は、思わず叫んでいた。
「僕は大丈夫です!
しかし、城が大変な事になっています!
早く、母様たちを助けに行かないと!」
と叫んだ。
執事達は、顔を見合わせどうすべきか思い悩んでいる。
すると、不意にまた、飛行機のエンジン音が聞こえてきた!
さっきの飛行機は通り過ぎたばかりだから、戻ってくるのが早すぎる!
他にも何機かいるのか?!
僕は、みんなに叫んだ!
「まずい!
また、攻撃が来ます!
みんな伏せて!」
複数機が来るのなら、この離宮も安心ではないと思い、
とっさに僕は自分の能力(Rule space)を最大限、発動させた。
すると、自分を中心にした半径5メートルの球体の範囲に白い光が広がる。
なんとか、ここの部屋はカバーできたようだ。
支配空間内(Rule space)は音が遮断されて静かだった。
僕は恐る恐る周りを確認した。
僕以外のみんなは床に伏せている。
ルールスペースの空間内の窓とそれに付随する壁を覗いて全て吹き飛んでいた!
屋敷が直撃を受けたらしい…。
まさに間一髪!
すると、最初の3機(1機だと思っていたが3機だったらしい)が旋回して、
戻ってくるのが見えた。
こちらの竜騎士らしい飛竜が雷の魔法や炎の魔法で攻撃しているのが見えるが、
相手が鉄製の飛行機だからか、効果は確認できない。
恐らく、機体自体にも強化の魔法がかかっているのだろう…。
僕は、とっさに、近くの従士に駆け寄った。
近衛騎士団には珍しい黒髪、黒目の女の従士だった。
暗殺者対策で、黒魔法が使える従士を派遣したらしい。
そんなことをふと思ったが、今は確認している時間もおしい。
僕はその従士に、向って叫んでいた。
「ダガーをあるだけ貸して!
直ぐに!」
従士の女性は驚いて顔を挙げたが、
即座に体にたすき掛けに巻きつけていたベルトからダガーナイフを5本ほど引き抜き
「殿下、どうぞお使いください!」
と言って渡してくれた。
僕は、こちらに再度向かってくる飛行機を見つめた。
僕は心の中で呟いた。
『僕の考えが正しければできるはずだ!
僕の能力内でならば物理現象は自由自在なはず!』
敵機を凝視すると、空間内の光の屈折率が変わり、望遠鏡で覗いているように
近くに敵機を確認することができた。
視覚の光の反射加減を調節し、望遠で物体を確認出来るようにしたのだ。
僕は、手に持ったダガーから二列の平行した電位差のある電気的ラインをイメージする。
すると火花が散ってプラズマが走り、2本のラインを形成した。
僕は、そのラインに乗せるようにしてダガーを投げた!
「ガガーン」といったすさまじい衝撃音が鳴り響いた!
見ると敵機の、向って右側のプロペラエンジン部分が吹き飛んだのが確認できた!
『やった!『レールガン(Railway gun)』(超電磁砲)だ。』
さっきの音は、ダガーが音速を超えた為に起こった衝撃波の音だ。
聞いた話だと恐らく初速で3km/s(マッハ9)は出ているらしい。
音速は、秒速340m(340m/s)だ。
拳銃では230 ~ 680m/s、ライフル銃でも750 ~ 1,800m/s程度、だからまさに桁違いの速さだ。
その為、貫通力は通常の弾丸の比ではない!
僕は、つづけざまに残り4本とも他の2機に2本づつ投げた!
再度、激しい音が鳴り響く。
敵機は、燃料にも引火したらしく、海に落ちていくのが確認できた。
後続の3機が接近する気配(音)は聞こえてこない。
恐らく、先鋒の隊が撃ち落されるのを見て、こちらに向かうのを止めたのだろう…。
この世界での人間の耳はかなり遠く(2、3キロ)まで集中すれば聞こえるので、
それ(2、3キロ)以上離れていると思われた。
僕は、それを確認し、ゆっくりと自分の空間で支えている床と一部の壁を地面に降ろす。
それを執事達は、ビックリした顔で周囲を見ては、僕を見ていた。
僕は、床を地面に降ろしおえ、能力を切ると壁が派手な音を立てて倒れこむ。
僕は、それを無視して、直ぐに駈け出そうとした…。
だが、その前に、従士の女性が両手を広げ立ちはだかった。
「ちょっと!
じゃまをしないでよ!」
と、つい叫んでしまっていた。
女性は片膝をついて、跪くと
「リーン王子殿下、お気持ちはわかりますが、ここは、我らにお任せくださいませんでしょうか。」
と従士言ってきた。
僕は、その女性従士を見たあと、周りを確認した。
屋敷は完全に爆風で吹き飛んでいて、所々に警備をしていた人たちが倒れているのが確認できた。
そして、城を見てみると、いくつかあった塔はすべてくずれ落ちて瓦礫の山と化し、所々炎が上がっ
ていた。
すると、不意に空から滝のような雨が降ってきた!
誰かが風と水の複合魔法を使っているらしい。
海の方に竜巻が見えた。
どうやら、海水を巻き上げて、雨を降らしているようだ。
この状況では、母様が居たであろう王室がどこだか確認できない…
僕は途方にくれ、その女性従士を再度見、
「あなたは、母様の居場所がこの状況でもわかりますか?」
と茫然とした顔で聞いていた。
するとその女性従士は、
「私の黒魔法は探査に優れています。
瓦礫の下や隠れた敵を探すのが私の任務でもありますので、
どうか、私にお任せ願えませんでしょうか。」
と言ってきた。
僕は、少し考え、答える…
「分かりました、ですが瓦礫の撤去などは無理ですよね?
僕の能力ならば撤去は容易にできます。
ですので、僕も同行させてください。」
すると、従士の女性は他の執事やメイドに目配せし、
「了解いたしました。
ですが、私の言うことには従っていただきますがよろしいですか?」
僕は、どうしても同行したかったので、了承し、頷いた。
すると、女性が背筋を伸ばし起立する。
「リーン王子殿下、遅ればせながらご挨拶がまだでした。
私は、近衛騎士団リオン遊撃隊所属の『マリアンヌ・デュファ』と申します。
微力ですが、精いっぱいお役に立つよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
と敬礼し、言ってきた。
「リーンです。
こちらこそよろしくお願いします。
後、少し時間をください、用意しますので。」
僕は、すぐ様、右手を頭上に広げ、再び空間を展開し、金属が集まるようイメージする…。
すると見る見るうちに半径5メートル内から金属が集まってきた。
(従士や執事達の体からは持ってこないように意識する)
あっという間に、フォークやら剣やらナイフなどが集まって一塊になった。
僕は、適当にナイフを2、30本つかんで、近くに落ちていた皮ひもでくくって小脇に抱えた。
それと大振りのダガーナイフを一本腰のベルトに差した。
これで、弾丸替わりのナイフと、接近戦用の武器が確保できた。
すると、さっきまでの雨がやんでいた。
火もあらかた消火されたようだ。
僕は、女性従士に向って言い放つ…
「じゃ行きましょう
しっかり、つかまってください。」
言いながら…従士の女性の手をつかんだ。
そして、執事達に振り返ると、執事にむかって
「アレクシアさん達は怪我をした人たちの救助と手当をお願いします」
と言ってから能力を発動し、
自分の周り(従士:マリアンヌ)を含んだ範囲に空間を展開し、
『上方向に重力落下を意識してから城側に向って重力の落下方向を変化させた』
(体の周り物質を制御するより空間内の法則を変異させた方が消耗が少ないと感じたからだ…)
すると、あっと言う間に、僕たちは50センチ浮いた後、城の方向(横方向)に『落ちて』いった。
自由落下なので、上手く抵抗がつくよう両手を広げる。
横をみるとマリアンヌの顔が引きつり僕の小さな手を両手でつかんで凝視し、
「で、で、殿下!
こ、これは、いったいなんですかーー!!」
と叫んでいる。
僕は、叫んで言い返す。
「今は、説明している時間がないから後で話すよー!
しっかり、手を握っていてください!」
城まで約700メートル、直前で僕は、徐々に重力方向を正常に戻すのと同時に
自分たちの体に(物体にしか能力は作用できないので体に接触している空気中の分子に)
ブレーキをかけ、地面に着地した。
マリアンヌは、腰が砕けたように、その場にへたりこむ。
『まあ、いきなりバンジージャンプまがいの事を経験させたから仕方がないが・・』
僕は、そんな彼女に悪いと思いながら…
「マリアンヌさん!
ちょっと驚かせてしまいましたが、急いでいたのですみません!
取りあえず、探索魔法をお願いします!」
と焦りながら、叫んだ。
マリアンヌは、少し呆けていたが、ハッとして、こちらを振り向き、
頷くと何やら目を閉じ呪文を唱え始めた。
僕からは、彼女の黒いオーラが濃さを増していくのが確認できた。
すると彼女は目を見開き城の瓦礫の山を凝視した。
彼女の目(通常は黒色)は虹色に輝いている。
どうやら人のオーラや気配が探知できるようだ。
しばらく、あたりの瓦礫を見た後、彼女は、
不意に瓦礫の上の方の四角い箱の形をした石作りの塊を指さした。
僕もよく見てみると、そこだけ不自然に崩れずに正方形を保っている。
他は崩れているのに、そこだけ、(まるで四角い部屋が)壊れずに残っているように見えた。
僕たちは急いで瓦礫の山をよじ登って近づく。
その塊に手を触れると、魔法力のような力を感じた。
おそらく、中から誰かが壁というか部屋全体に強化魔法をかけていると推測できた。
すると、魔法力の変化が感じられた。
何だが、爆発するような振動?
僕は、とっさにマリアンヌにしがみつついて、能力を発動した。
「マリアンヌさん伏せて!」
その直後、その塊が弾けた。
どうやら塊の中の誰かが、壁を吹き飛ばしたらしい。
あたりにもうもうと煙が立ち込める。
煙の向こうから怒鳴り声?というか言い合っている声が聞こえてきた。
落ち着いた声が宥めるのが聞こえる…
「兄上、もう少し、穏便に魔法をかけて頂けないものですか?」
すると、大仰な感じの声が返事をした。
「アルベール!なにを悠長な事をいっている、どこぞの敵が攻撃していたのだぞ!
こんなところにいつまでもいられるか!
直ぐに軍を招集して反撃せねばならん!」
とどなり返している。
僕は、そっとその様子をうかがった。
その直後、アルベールと名指しされた人物が僕らを方を振り向き
「そこにいるのは誰だ!」
と叫んだ!
僕はとっさに身を屈めたが、マリアンヌが即座に直立し、
「近衛騎士団リオン遊撃隊所属の『マリアンヌ・デュファ』であります!
未確認の敵の攻撃で、陛下や王子殿下のご様子が心配されましたので、
取るものも取りあえず参上いたしました。」
と即座に応答した。
その返答を聞いた他の若い男性が不意に声を上げる。
「マリアンヌか!
お前一人か?」
よく見ると、リオン先生だ。
リオン先生は、母様の護衛も兼ねて、今日は、母様と共に陛下の寝室に出向いていたはずだ。
ということは、ここは、陛下の寝室で、今、怒鳴り合っていたのが、第一王子と第二王子か?!
母様は?どこに?!
無事なのか?
よく見ると、寝台の脇に、一人の女性と、男性が寝かされている!
寝台には陛下らしい男性が、寝台の脇には、白衣を着た初老の男性と、まだ若い女性!
母様だ!
僕は、母様を確認すると、がばっと起き上がり、駈け出していた。
マリアンヌが、手を掴もうとするが、それをすり抜ける…
「王子おまちください!」
と呼び止めるのも構わずに走り出す。
母様の横で膝をつき、顔を覗きこむ。
顔はかなり青ざめて、血の気がない。
腹部に手当の後が見られる。
どうやら出血しているらしい。
僕は、リオン先生を見て、
「リオン先生!
母様は怪我をしているのですか?!
ここが陛下の寝室なら、医者も一緒にいますよね?!」
リオンは、静かに首を横に振った。
そうしてこう続けた。
「医者は、その隣に寝ている男性です。
すでに息はありません。
最初の攻撃で、背中に爆風を受けて…
メアリ様も陛下を庇い、爆風で飛んできた破片が腹部に刺さり…
手当てはしましたが…これ以上、手の施しようが無い状態です。」
すると、母様がうっすらと目を明け、僕に笑いかけた。
僕は、思わず手を握り叫んでいた。
「母様!
しっかり!
こんな事で居なくならないで!」
この世界に来て、無二の愛情を向けてくれた母…。
『無色』ということでかなり形見が狭かったことだろう…。
でも、やっと、魔法とは違うが、人に認められそうな能力がある事がわかり、
恩返しできると思ったのに……
こんな形で分かれてしまうなんて…あまりに母が不憫だ。
前の世界では、僕は母との関係は良くなかっただけに、悔しい思いでいっぱいになっていた…。
いつの間にか、止めどなく涙が溢れてきていた。
すると母様は、僕の頬に手を当て、
「リーン泣かないで…男の子でしょ。」
とかすれた声で言ってきた。
「リーン、これから言うことをよく聞いてね…。
私は、どうやらあなたの成長を見届ける事ができそうにないわ…。」
僕は、思わず叫んでいた。
「そんなことない!
まだ諦めるのは早いよ!
きっと、他の医者がすぐに駆けつけるから、それまでがんばって!」
だが、母様は手を挙げて、僕の言葉をさえぎり
「リーン…自分の事は自分で良くわかっています。
ですから、気をしっかり持って、聞きなさい。
…前々から、私の母。
あなたの御婆様に、あなたの事を養子に迎えてもらえないか打診していました。
正式なお返事はまだ、いただいておりませんが、この国がこの様な戦争状態になるのなら、
きっと、引き受けていただけると思います。
ここに、親書があります。
これを持って、御婆様の『エヴァ・カストラート』を訪ねなさい。
カストラート王国は、この国から南にある平原に居をかまえる王国です…
麦の収穫時期にはそれはもう一面が黄金色になるとても美しいところですよ…
私の故郷でもあります…
できれば、もう一度、あそこにあなたと一緒に行きたかった…」
僕は、黙って、母様の手を強くにぎり返し頷く。
「母様、大丈夫、きっと一緒に行けるよ。
だから、頑張って!」
すると母様は首を横に振り、胸元から短剣をだし、差し出した。
「これは、婚姻の時、陛下から守り刀としていただいたものです。
私にはもう必要ないものです。
これからは、これがあなたを守ってくれるでしょう。」
と僕の手にペンドラゴン家の紋章(水龍)入りの豪華な短剣を握らせた。
「どうか、あなたの未来が幸せで溢れていますように……」
と言った途端、母様の手から力がいっきに抜けたのを感じた!
僕は、泣きながら叫んでいた。
「母様!
まだ、何も恩返ししてないよ!
こんなんで死んじゃうなんてあんまりだ!
母様がどんな悪い事をしたっていうんだよ!」
僕は、母の胸元に顔を埋めて泣いていた……
しばらく、まわりの人達は、僕の様子を黙って見ていたが、
第二王子のアルベールが口を開いた。
「リーン、初めまして、私は上から二番目の兄『アルベール』だ。
メアリ様の最期のお言葉は、聞かせてもらった。
メアリ様の言うとおり、これからこの国は戦争状態にはいるだろう。
お前の様な子供たちは、安全な場所に避難させなければならない。
幸い…と言うべきか、メアリ様のご配慮でお前の事は、カストラートに連絡済みのようだ。
今は、カストラートへの避難がもっとも良いと思う。
身の振り方はそれから考えても遅くはないだろう?」
と優しく言ってきた。
そして、リオンに向き直り、
「リオンよ!
これから、近衛も含めた隊の招集をかけるが、お前の部隊はリーンをカストラートの
エヴァ様の所まで送り届けるよう命ずる。
近衛騎士団の団長には、私から話を通しておく。」
リオンは、胸に拳を当てた敬礼をし、
「了解いたしました。
これよりリオン遊撃隊は、リーン王子を護衛し、カストラート王国に向かいます。」
◇◇◇◇◇
僕は、うつむいたままどう返事をしたらいいか迷っていた。
その時、アルベールの後の方に違和感を、感じた!
目を凝らすと黒い影が視えた!
僕は思わず
「危ない!
伏せて!」
と叫び、近くに置いていたナイフをつかんで投げていた。
レールガンのレールをイメージしている時間がなかったので、自分の投てきの腕プラス重力制御だ。
ナイフは、正確に影に吸い込まれ、
「ウ!…」
という呻き声が聞こえた。
すると、その他にも影が十数体現れた。
今度は、自分以外の人たちも気づいたようで、
エギル王子が
「何者だ!」
と叫んでいた。
影達は、だんだん実体化していき、姿を現した。
影達はみんな黒装束で頭には黒のターバンを巻いて、口元も覆っていた。
その中で、目だけがギラリと見えていた。
その姿は、中東あたりの暗殺者をイメージさせた。
『敵地で、姿を晒すなんてなんて大胆というかよほど自信がある連中だな?』
と僕は思った。
その中のナイフを右肩に受けた黒装束が、
「まさか…こんな子供に我らの術が見破られるとは…
まさかとは思うが我らの『爆撃機』を落としたのも貴様の仕業か?」
と、ぞっとするような冷淡な声で言ってきた。
「なんだその『爆撃機』とは?!」
という、エギル王子を無視して、じっと、僕を睨む。
僕は心の中で呟いた。
確かに『爆撃機』と言った!
この世界には『飛行機』さえ存在しないのに…
まさか…僕みたいに違う世界から転生した人がいるのか?!
すると、その黒装束は懐から『拳銃』を取り出し、僕に向けた!
僕は心の中で叫んでいた。
『け・・拳銃!
でも自動拳銃ではなく回転式のリボルバーだ』
などと思った瞬間、僕は誰かに抱きかかえられて、風の様に横に移動していた。
首を捩じらせて抱えた人物を確認すると、リオン先生だった。
リオン先生は、僕を抱える直前にダガーを投げていた。
ダガーは狙い違わず、拳銃を構えた黒装束の胸元に当たるはずだったが、
相手は、すかさず、体を捩じってよけていた。
だが、ダガーは相手を通り過ぎた後、後方で弧を描き、
まるでブーメランのように帰ってきて、相手の背中に突き刺さった。
…風の魔法で投げたダガーの方向を変化させたようだ。
それを見ていたアルベールが叫んだ。
「リオン!
第三、第四王子と王妃達を連れてここから離れよ!
ここは、兄と私達(摂政と側近数名)が引き受けた!」
と言ってきた。
「分かりました。
さ!王妃様方!私の後に続いてください!
マリアンヌ!そこにいるな!」
「はい!隊長!」
「私が先導するからお前はしんがりを務めよ!」
「了解です!」
リオンを含めた一団が黒い霧に包まれる。
マリアンヌが、叫ぶ。
「皆様!
敵に探知されにくい魔法を掛けました!
周りの方々も認識しづらくなりますので、手をつないで、離れないようにして
ください!」
僕らは、瓦礫の山をリオンの魔法で一気に降り、城壁に近衛師団詰所に向かってかけだした。
城跡の瓦礫の山では剣同士がぶつかりあう音と魔法の大音響が聞こえてくる。
第一、第二王子や側近は、かなりな手練れだと聞いていたから大丈夫だとは思うが…
どうも、先ほどの爆撃機や拳銃といった、
この世界には無かったものが出てきているのが気がかりだった。
近衛騎士団詰所にたどりつくと、そこは野戦病院と化していた。
所々からうめき声が聞こえてくる。
リオンが、声を張り上げる…
「大隊長!
大隊長はいませんか!」
すぐさま、奥の方から大柄な濃い緑色の髪の男性が返事をした。
…ここには、常に近衛騎士団の大隊長四名の内、一名が必ず詰めているのだ。
「リオンか!
無事だったか!
陛下の寝室に同行していたはずだが、陛下や王子達はどうした!」
「それですが、今、敵の奇襲を受けて、王子達が応戦中です!
私は、王妃様達を避難させる為に、離脱しました!
ただちに、援軍を送ってください!」
「解った!
おい!ヴァレリ!お前の小隊とここから、集められるだけ集めてただちに援護に迎え!」
と近くにいたリオンの友人で小隊長のヴァレリに命令した。
「了解しました!
おい!ここで動けるものは、私に従って王子達を援護だ!」
と手を挙げてヴァレリは、叫んだ。
「ザ!」
と音を立てて、数十人が立ち上がり、ヴェレリに続いて、駆け足で移動しはじめた。
後には、大隊長とけが人と、看護師や医師だけが残っている。
大隊長は、リオンに近づくと、
「今さっき、伝令で国境付近に北の『ウルク帝国』の大軍が現れて、
我が方の国境警備隊と戦闘状態に入ったとの連絡を受けた。
近衛騎士団の飛竜隊は、未確認飛行物体と交戦後、消息不明だ。
恐らく、生きてはいまい…
残りの近衛騎士団は、城の警戒待機だが、他の騎士団は、
地震騎士団の『ベルク砦』に招集がかかっている。」
僕たちはその言葉に驚いた。
そして、大隊長は、王妃達に向きなおり、
「王妃様方には、ここから一番近く安全と思われる我が風雷騎士団の『アイルゼン砦』
へ避難されますようお願いいたします。
私も王子たちの援護に参加後、騎士団の編成に『アイルゼン砦』向います。
リオン!
王妃様達の護衛と案内を任せるぞ!」
と、言うと詰所から出ていこうとする。
リオンは、あわててその後ろ姿に声をかけ呼びとめる。
「大隊長!
私も王子達の援護に参加したいのですが!」
「馬鹿者!
今、人出が足りない中、できるだけの増援をしたばかりだ!
王妃様達の護衛が一人もいない状態にはできない!
お前の隊は王妃様達を護衛して、『アイルゼン砦』に迎え!」
と怒鳴りながら命令した。
リオンは、苦渋の表情を浮かべたが、思い直し、敬礼する。
「了解しました。
リオン遊撃隊は、王妃様方を護衛し、『アイルゼン砦』に向かいます。」
大隊長はそれを確認し、頷くと、王妃達に会釈をし、足早に城の方へ駈け出した。
リオンは、王妃達に振り返ると、
「皆様、これから『アイルゼン砦』までご案内しますが、
我が隊の他の隊員が招集可能か確認してから向かいます。
今しばらくお待ちください。」
と言い、マリアンヌに顔を向けると、
「マリアンヌ!
他の隊員は無事なのか?
招集できそうか?」
「無傷なのは、私だけのようでした。
戦闘に参加可能かどうかは確かめられませんでしたが…
確認にメアリ宮に向いますか?」
と逆に聞いてきた。
リオンは、少し考え、一人ごとを言っていた。
「『アイルゼン砦』は近いと言っても女子供の足なら1時間はかかる。
馬…はこの人数では無理だから…馬車が必要だ…」
リオンは、再度マリアンヌに向き直り、
「隊の連絡の取れそうな人材は無事だったか?」
…連絡の取れそうな隊員とは「風魔法」が使えるものを指していた。
マリアンヌは、少し考え、そして…
「隊のものではありませんが、執事の『アレクシア』殿なら連絡が取れると思います。」
と返答した。
リオンは頷き、目を閉じ、呪文を口ずさむ、そして応答するよう心の中で念じた。
『アレクシア殿、聞こえますか?
ご無事ですか?』
しばらくして
『リオン殿ですか!?
メアリ様は?陛下は?リーン王子はご無事ですか?』
と返信があった。
リオンは、少し言葉に詰まり…
『メアリ様は陛下を庇いお亡くなりになった…
陛下も戦闘のショックもあり、崩御された。
リーン王子はご無事だ。』
と返事をし、続けざまに、
『アレクシア殿、すまないが、気落ちしている暇は今は無いんだ!
まだ、敵の攻撃は継続中だ!
今も他の王子達は戦闘中だ!
他の王妃様達はその場から遠ざけることが出来たが、『アイルゼン砦』にお連れしなくては
ならない!
そこにいる我が隊の隊員で動けるものはいるか?!』
執事のアレクシアは
『3名ほどなら…なんとかそちらに合流できそうです。
その他は、死者が4名、重症者8名です…』
と返答した。
『アレクシア殿、すまないが、その3名に今すぐ、近衛騎士団詰所に向かうよう言ってくれ。
後のけが人は、申し訳ないが、アレクシア殿達で、ここまで運ぶか、
運べないようならその場で待機させてくれ。
こちらも重症者が大勢いて、そちらまで手が回らない。
申し訳ないがよろしく頼む。』
『分かりました。
隊員の方々にはそのように伝えます。
それと、一つ、お願いしてもよろしいでしょうか?』
『なんですか?』
『王子に一言……
王子に気をしっかりお持ちになってくださいと…
我々執事一同は、メアリ様同様、何時でもあなたにお仕えいたします。
とお伝えいただけませんか。』
『分かった。
必ず伝えよう。
それでは、こちらの連絡も頼む』
といって、リオンは通信魔法を切った。
「皆様!
これから、我が隊の残りの者が合流次第『アイルゼン砦』に向かいます!
しばし、ここでお待ちください!」
と王妃達に声をかける。
僕らは、リオン隊の残り3名が合流すると、
詰所に有った馬車に乗り込み、移動を始めた…。
移動する馬車から顔を出し、城を見ると、以前あったシンデレラ城のような塔はまったくなく、
城壁のみになって、所々煙が立ち上っていた。
もしかしたらこの城を見るのはこれが最後かもしれない…
と僕は思った。
ここからでは、王子達の無事は解らないが、自分達を逃がしてくれた事に感謝した。
正直言って、僕は拳銃を向けられた時にはもう能力の発動限界の倦怠感に襲われていた。
たとえ、僕が戦ったとしても、とても勝ち目は無かっただろう…
もし、ここに帰ってくることがあったら、兄達の助けになろうと心の中で誓っていた。
作者の八咫烏です。
「リーンカーネーション・サーガ」
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次回、第二章をお楽しみください。