東へ
晴天の空に海鳥がゆったり飛び、港には大きな帆船……ガレオン船が数十隻浮かんで、
荷降ろしをしている男達が大声で指示をしあってる。
かなり活気のある港だと僕は思った。
今まで、港のある町に住んでいたが、エルウィン港やサイアス港とはまた違った趣だ。
今、僕達は、ティターン皇国の港町、『ベスパ』に居る。
僕は、乗船した帆船の甲板から港の風景を眺めている。
すると、不意に後ろから声を掛けられる。
「どうです、この港は活気が溢れているでしょう?
戦争も終わり、交易品が続々入ってきていますからね。
これも、一重にリーン殿下のお陰です」
そう言って、ティターン皇国宰相の『セルクト・アイバーン』が近づいてくる。
「アイバーン殿、私だけの功績ではありませよ。
7カ国が協力した結果です。
僕は少し手助けをしたに過ぎません。
それに、『殿下』はお止めください。
今は只の『リーン・アルベール』です」
そう言って、僕は苦笑しながら答える。
「そうでしたな……
でも戦争を終わらせた英雄には変わりありません。
リーン殿……」
そんなやり取りを交わしながら、桟橋を見ると、
豪奢な馬車が近づいてくる。
護衛の騎馬に跨った騎士が二名付き添っている事から、
高位の人物が乗っている事が窺えた。
静かに桟橋に止まった馬車から、
港には不似合いの豪華なドレスを纏った女性が執事に手を貸され、
降りて来て、乗船して来た。
僕の方に微笑みながら近づいてくる。
背後には執事と騎士二名を従えている。
僕の横にいた、セルクト宰相が無言で胸に手を当ててお辞儀をする。
僕も、セルクト宰相と殆ど同じタイミングで、
同じように右手を胸に当て挨拶をしながらお辞儀をする。
「ご機嫌麗しゅうございます。
テミス・ウラヌス殿下」
「あらあら、そんなに畏まらないで下さい。
私とリーン殿下との中ではありませんか?」
ティターン皇国第一皇女『テミス・ウラヌス』がにこやかに話しかけてきた。
僕はそんな親密な中になった覚えは無かったがここは突っ込まないで置く事にした。
「この程の渡航援助ありがとうございます」
そう、今乗っている東の大陸行きの船の費用はティターン皇国持ちだ。
僕を含めた7人と飛竜4頭分だ。
特に飛竜の輸送費は馬鹿にならない。
旅費自体は、カストラート王国から膨大な報奨金を貰っていたので、
払えなくは無かったのだが、
テミス皇女に中央大陸を救った英雄に費用を出させる訳にはいかないと突っぱねられていた。
「いえ、いえ、戦争を終わらせた英雄に対して当然の事です。
どうか、御気になさらずに願います。
……それにしても残念ですわ……
ティターン皇国においで頂いた時はてっきり、我が国に亡命していただけると思いましたのに……」
「お心遣い感謝いたします……
ですが、詳しくはお話できませんが、どうしても東の大陸に赴く用があったのです」
「では、その用が終われば、お戻りになりますの?」
「はい……一応、そのつもりではありますが……」
「良かった、これが今生の別れなんて寂しいですものね。
お帰りの際は、是非、皇都にもお寄りください。
お待ちしておりますわ。
その時は、我が国をご案内させてください」
僕は苦笑しながら立ち寄る事を了承する。
僕らが、話をしていると船室から仲間達が甲板に上がってきた。
皆、テミス皇女に敬礼する。
「あら、あらお付の皆様、ご苦労様です。
リーン殿下の事くれぐれもお願いしますね」
テミス皇女は、僕の仲間達を従者と勘違いしているようだ……
僕は、その発言を訂正してしておく。
「テミス殿下、一つ訂正させてください。
彼らは、僕の従者ではありません。
『仲間』です。
僕とは対等で友人関係ですのでその点、ご理解頂きますようお願いいたします」
「まあ、そうでしたの?
これは、失礼しました。」
そう言って、テミス皇女は、僕の仲間達に頭を下げた。
それを見た仲間達がその謝罪に慌てた。
代表する形で、ベアトリスが、話し出す。
「テミス皇女殿下、
謝罪には及びません。
元々、我らはリーン様の部下でしたし、
今回の旅には無理を言って、同行しております。
リーン様は、同等とだと仰っていますが、我々としては、従者のつもりです」
その発言にロドリゲスは頷いているが、
他のユーリ、キース、ティファ、エリザは微妙な顔をしていた。
キース達は友人として同行しているつもりだからだろう。
ベアトリスの発言に気を良くしたのかテミス皇女がにこやかな笑顔を向けた。
「そうですか。
ですが、リーン殿下がご友人と仰っておりますのも確か。
友人として、リーン殿下をよろしくお願いしますね」
そんなやり取りをしていると、出航準備が整った合図の鐘が鳴り響く。
「そろそろ、出航のようです。
ティターン皇国には特別な便宜と援助を頂きありがとうございます。
このご恩は必ず何時かお返しする事をお約束します」
「先ほども言いましたが、お気になさらず。
ですが、どうしてもと言うのであれば……
そうですね、私と婚約していただけます?」
僕は、ギョっとして、顔を上げて、テミス皇女を凝視してしまう。
僕の背中に後ろに控えていた、ユーリとティファから冷たい視線を感じたのは気のせいではないだろう。
僕が、言葉に詰まり、冷や汗をかいていると、テミス皇女がコロコロと笑い出した。
「あら、やだ、冗談ですわ。
本気になさいました?」
「皇女殿下もお人が悪い」
僕は苦笑いを浮かべながら何とか答えたのだった。
僕は、テミス皇女とセルクト宰相にお礼と別れを告げる。
僕らの乗る帆船は、風を受け、帆を張った。
ゆっくりと桟橋を離れて行く。
いよいよ、東の大陸へ帆船は進んで行く。
港を出て、外洋に出ると、中央大陸の陸地が段々霞んでくる。
僕はその景色を万感の思いを込めて、船尾から見つめていた……
思えば、波乱の日々だった……
唯一、学校での思い出が心を和ませる。
そんな思いに耽っていると、いつの間にかユーリが僕の横に立っていた。
そして、静かに話し始める。
「……結構、今までいろんな事があったね……
何だか、逃げるみたいに国を出てきちゃったけど……
リーンさえいれば、私は何処だって同じだから……
これからもよろしくね」
ユーリはそう言うと僕の右腕に左腕を絡ませ、笑顔を向ける。
「ユーリには、昔から世話になりっぱなしですまないけど、
これからもよろしく」
僕は、笑顔を返す。
そして、見つめ合い、自然とお互いの顔が近づこうとした時、
背後から「あぁーーー」という叫び声が聞こえてきた。
振り向くと、ティファが指を指しながら足早に近寄ってくる。
「ちょっと!
ユーリ!
抜け駆けは酷くない?」
そう言って、僕の空いている左腕の両手を絡ませて体を摺り寄せる。
「そんな事ないわよ!
ティファこそ、往生際が悪くない?
ちょっとは遠慮しなさいよ!」
ユーリも負けじと僕の右腕に両手を絡ませる。
「いーだ!
私はまだ諦めてませんからね!
この旅でリーンさんともっと親密になるんですから!」
僕は、間に挟まれて辟易としながら、何とか二人を宥めようとする。
「ふ、二人とも落ち着いて……」
「「リーン(さん)は黙ってて!!」」
僕は、「ハイ」と言って大人しく頷くしかなかった……
そんな僕らのやり取りをキースとエリザが見つめている。
「……キース良いの?
あなた、ティファの事が……」
「……?
良いんだよ。
俺は、リーンもティファも好きだからな。
どうゆう結果になっても、ティファには悔いが残らないように行動してもらいたい」
「……あんたも大概、お人よしよね……」
「そういうエリザはどうなんだよ?」
「……私はみんなといるのが楽しいの……」
そんなやり取りをする僕らを乗せて、帆船は、
晴天の海原をゆっくりと進む。
まだ見ぬ東の大陸へ向けて……
僕はやっと、血なま臭い政争と戦争を抜け出し、
新たな冒険へと進むのだった。
《《 終 》》
作者の八咫烏です。
本作を最後までお読み頂きありがとうございます。
本作は、自分の練習作として投稿させて頂いておりました。
読み辛かったり、解りずらい文書が多かった事をお詫びいたします。
今回で、一旦、終了とさせて頂きますので、ご了承ください。
一旦、全文を精査し、リメイク版として、書き直したいと思います。
今までありがとうございました。
また、ご意見、ご感想など頂ければ、リメイク版に反映させたいと思います。
よろしくお願いいたします。
2014年2月18日追記:
八咫烏です。
この程、私の作品「Reincarnation saga」が第2回エリュシオンライトノベルコンテストの一次選考を通過いたしました。
総応募数2,200作品より約200作品に選ばれたとの事です。
これも一重にご愛読頂いた皆様のお陰と思っています。
ありがとうございます。
二次選考も通過するかわかりませんが、進展がありましたら、書かせて頂きます。
今後ともよろしくお願いいまします。