バラスチカ攻略戦~その十一~
工業都市バラスチカの中央付近の司令部脇の倉庫にそれはあった。
プルトニウム型原子爆弾……
長崎に落とされた原子爆弾とほぼ同型の爆弾だろう。
只、ここにある原子爆弾は、何処かで爆破実験を行う為に、
時限式となっているようだったが、先ほどのダニエルの口ぶりからすると、
プルトニウム型原子爆弾の改良型という事なので、
その威力は長崎に落とされたものと同等かそれ以上と思われる。
で、あるならば、この都市が大量の可燃物を保管している事も相まって、
爆発力だけでも相当な被害が予想される。
それにもまして、爆発後の放射能が厄介すぎる。
確か、30年ぐらいは、放射能汚染が残ると聞いた事があるが……
兎も角、コイツをこのままにはして置けない。
僕は意を決して、ルールスペースを発動する。
今日は50分ぐらい連続で使用している……
最近は1時間は発動を持続出来てきているが、そろそろ、限界が近い……
今の発動で倦怠感が半端では無くなっている……
『くっ……もう少し持ってくれよ……』
僕が、爆弾に何かしようとしているのを、ティファが咎める。
「リーンさん!早く避難しないと!!」
ここには、今、ティファ、キース、ベアトリス、ロドリゲスがまだ残っていた。
「皆!僕に構うな!!
早く、ここから退避するんだ!!」
そして、外の黄竜にも大声で伝える。
「ザッハーク!ここから退避する部隊の退路を確保してくれ!
邪魔な壁や建物の排除してくれ!!
地竜なら可能なはずだ!!」
「……よかろう……協力すると約束したからな……」
「それと、すまないが、殿を頼む!
爆発間際には、部隊とバラスチカの間に壁を作ってくれ!」
「解った……引き受けよう……」
僕は、そう叫んだ後、ベアトリスに向き直る。
「ベアトリス!
君が指揮を取って、全部隊を退避させるんだ!」
「で……ですが殿下!」
「これは、命令だ!
僕はこれからこの爆弾を出来るだけ地中に埋めてから脱出する!」
その言葉を聞いたティファが叫ぶ。
「無茶です!
いくらリーンさんでも、時間がもうないんでしょ?!
バラスチカを全て破壊するような爆弾なんでしょ?!
今すぐ逃げないと……いえ……今からだともう間に合わないかも……」
「僕なら大丈夫!!
キース!!ティファを頼む!!
ベアトリス、ロドリゲス!後を頼む!!
それと、この爆弾は見えない毒を発生させる、
もし、僕が帰らない事があった場合、バラスチカを30年は封鎖するんだ!
行け!!!!」
キースは頷き、ベアトリス、ロドリゲスは敬礼する。
三人は僕はどうやら僕の覚悟を汲んでくれたようだ。
ティファはまだ何か言おうとしたが、キースに手を引かれて引きづられる様に倉庫を出て行った。
その後に黄竜が駆け出す振動が響く……
僕は、爆弾の下のセメントを粒子に変える
そして、ルールスペースで作った円の外輪部分からその粒子を吐き出し、
爆弾を地中へと沈み込ませる。
同時に吐き出しに回転を掛けて、竜巻状にして、吐き出す勢いを上げた。
はたから見たら、倉庫内に竜巻がおきているように見えただろう。
その竜巻は、倉庫の壁や屋根を吹き飛ばした。
◇◇◇◇◇
虚ろな目で竜巻が起こる光景を私は見ていた……
「ふっはっはっはっはっ………どう足掻こうが無駄だ……
幾らキサマの能力が優れていようとな……」
そう呟いた後、私は拳銃を取り出す。
「……最後に良いこと聞いた……ヤツが転生者ならば、
私も死後、元の世界に転生する可能性がある訳だ……
これで、帰れる……懐かしいあの世界に……」
私は、安堵の表情で拳銃をこめかみに当てて、引き金を引くのだった。
後には乾いた銃声が響いたが、竜巻の風音でその銃声は誰も聞くことは無かった……
◇◇◇◇◇
私はキースに手を引かれて南門に向けて駆けていた。
何度もリーンのいる倉庫を振る向く……
暫くして、その倉庫から竜巻が発生し、天まで届くのが見えた。
多分、リーンさんが爆弾を処理する為に何かしているのだろう。
そんな私の様子をキースは振る向かずに前を見て走る。
そして、呟いた……
「……ティファ、心配すんなって……リーンは今まで色んな死線を乗り越えてきてるんだ。
それは、俺達が良く知っている事だろ?
俺達がアイツを信じなくて、誰が信じるっていうんだ」
その呟きとも取れる言葉に横を走るロドリゲスも賛同する。
「そうだぜ!
ティファの譲ちゃん!
大将は無敵だ!
必ず帰ってくる!」
その言葉に先頭を走るベアトリスも続く。
「もちろんです!
殿下に出来ない事などありません!!」
私は、皆の言葉に少し苦笑しながら安堵する。
「そうですね!リーンさんなら……必ず帰ってきますよね!」
そんなやり取りの中、巨大な影が私達を跨いで追い越した。
黄竜が私達を追い越したのだ。
そして、伏せながら横滑りになって、止まる。
目の前には、伏せた黄竜の姿があった。
「……主等の足では逃げ切れん。
我の背中に乗れ!」
私達は顔を見合わせ頷き、黄竜の背中に飛び乗る。
ベアトリクスが代表して、黄竜に礼を言う。
「お世話になります!」
「…構わん!
行くぞ!!」
黄竜はそう言って走り出す。
その速度は、人が走るより相当早い。
恐らく時速100kmぐらい出ていただろう。
私達は、私とベアトリクスで風の付与を与えながら走っていたのだが、
その速度を軽く凌駕している。
私達は、振動で振り落とされないように必死にしがみつく。
黄竜の乗り心地は最悪だった。
何せ二速歩行な上に地面との高低差は7、8mはある。
その為、上下の揺れが半端では無かった。
私達はあっと言う間に南門まで辿り付く。
退避していた味方の兵達が突然の黄竜の出現に臨戦態勢を取るが、
ベアトリクスが声を風魔法で拡声させて黄竜が味方である事を告げると、
何とか落ち着き、退避を再開した……
この時点で、リーンが撤退を指示してから10分以上経過している。
流石に、日ごろ鍛え上げている部隊だけあり、何とかバラスチカの城壁外までは撤退できそうだった。
これは、今回の任務に光魔法属性の兵と風属性の兵を混合したのが功をそうしていた。
風魔法の付与は主に、隠密の消音に使用していたが、
この撤退では、速度倍加の付与を掛ける事が出来ていたからだ。
これにより、撤退速度を相当速める事が出来ていた。
私達は、黄竜に乗ったまま、指示を出し、
殿で、南門を潜る。
この門を利用する兵は私達でどうやら最後らしい……
私達が、門から5km程進んだ所で、
残り時間3分を切った……
そこで、黄竜は突然立ち止まり、私達に注意を促す。
「もう、時間だ。
ここで、防壁を作る」
そう言うと黄竜は聞き取れない呪文じみた言葉を唱える。
忽ち、厚さ3m高さ10mはある土壁がバラスチカ側に3kmほど一気に反り立った。
その壁で、バラスチカの様子が一切分からなくなる。
更に黄竜は念のためと、私達を下ろし、自分の体の下に伏せさせた。
私達が、急いで黄竜の下に潜り込んで伏せたと同時に凄まじい轟音と地響きが巻き起こる。
とても立ってはいられない状態だ。
その証拠に先行して退避している兵達は皆伏せている。
私は、黄竜の下から空を覗き見た……
其処には、覆いかぶさるように巨大な茸雲を現れていた……