ルール・スペース(Rule space)
2012年12月30日改修
ここに来てから?半年がたった。
僕は今、3、4歳児ぐらいの大きさまで成長している。
やはり、この世界の人間の成長は自分の知っている世界の人間の成長よりかなり早いようだ。
言葉もだんだん理解し、片言なら喋れるようになってきていた。
どうも、文法的には、英語に似ているようだ。
文字もどことなくアルファベットに似ている。
読み方はかなり違うようだが…
母親と思われた人は、やはり、「母」であった。
名前は「メアリ」、性は「ウォーター・ペンドラゴン」
予想通り、王妃のようだ。
自分も国王の息子で四番目の王子…
名前は、「リーン・ウォーター・ペンドラゴン」。
腹違いの兄が3人いることがわかった。
未だに見たことが無いのが不思議だが…
腹違いの兄弟とはそんなものかとも思った。
後、それにもまして、父王の「エリック・ウォーター・ペンドラゴンⅤ世」に全然会わない…
いくら四番目の息子だからって全然会いに来ないのは不自然に感じていた。
そして、メイドが二人『アメリア』と『シア』、執事が一人『アレクシア』さん。
後、剣の先生だという青年「リオン先生」がいる事がわかった。
今日は、その「リオン先生」から初めて、剣を習う為、手に小さな木刀を持っている。
この世界では、騎士や魔法師を目指す子供は、
5歳で「ペイジ」という見習いとして「魔法学院」に入り、
13歳で卒業後は、「エクスワイア」という従騎士として騎士に使えるか、
さらに上の学校である「魔法剣術学院」か「魔法師学院」に進んで、
従士とならずに騎士爵や爵位を目指すらしい。
王家の者は従士とならず「魔法剣術学院」に進むのが常識らしい。
それにしても、生後半年の子供に剣を習わせるのはあまりに早すぎだと、
母や執事達は、「リオン先生」に抗議していた。
本来なら早くても3歳、遅ければ5歳の「魔法学院」に入学してからということらしい。
これは、僕は後から知ったのだが、「リオン先生」は僕に早く身を守るすべを身に着けてもらいたか
ったらしい。
子供相手にするにはかなり厳しい指導だと感じた。
ここでの剣術は、自分が知っている剣道とはかなり違っていた。
剣だけでなく、蹴りや掌底や組技まである、本当になんでもありの実戦重視の剣術だった。
リオン先生の生家は、魔法剣術に長けているとのことだ。
魔法剣術も基本の剣術が出来てこその『魔法剣術』とのことで、みっちり、しごかれた。
だが、僕は、その稽古の中で、元の世界では感じなかった体の軽さを実感していた。
まさにネコのように空中で体が回転し、地を獣のように駆けることが出来た。
この素早さは、この世界の人間なら当たり前なのかとも思ったが、案外そうでもないらしい。
僕は極めて敏捷性があるとの事だった。
「リオン先生」は、他にも仕事があるらしく、
剣の稽古はいつも午前中で、昼すぎからは、母とメイドから勉強を教えてもらっていた。
勉強は読み書きと、算数だった。
読み書きは普通の子供と変わらないようだったが、算数は、さすがに元が高校生。
しかもこの間まで猛勉強していたとの事もあって、かなり物足りなく、
『魔法学院』で習う数学や魔法式を教えてもらった。
これには、母やメイドはかなり驚き、天才だと大喜びした。
自分としてはなんだかズルをしているような感覚だったのでかなり気が引けたが…
その中で、魔法に関して、自分は魔法が使えない『無色』である事を知らされる。
この事を話す時、母はかなり迷っていたようだった。
自分としては、元々魔法なんて無い世界から来ているので、
『生きる分には魔法は、必要ないのでは?』と思っていたくらいので、
「母様…気にしないで、魔法なんかなくたって生きていけるよ!」
と本気で答えていた。
しかし、それだと気になるのは、あの集中すると発動する『白いオーラ』だ。
この事について、それと無く母に聞いてみた。
母が言うには『魔法を発動する時に、オーラの色が濃くなったり、広がったりする現象がある』
との事だった。
ということは、なんらかの魔法が発動していると、考えられると自分は思った。
できればもっと詳しい人に聞きたいと思ったが、
「『リオン先生』は魔法も使うけど…事象とか原理とかそんなには詳しくなさそうだし」
他にもっと詳しそうな人物は、この屋敷の中にはいなさそうだった。
◇◇◇◇◇
そんな日々が3年ほど過ぎ…
僕の体格は6、7歳児ぐらいの大きさになっていた。
見た目は、少年ではなく、少女にしか見えない…
しかもとびきりの美少女!
かなり、母に似ている。
これは…我ながらどうしたものか?
…以前の世界での外見からかなりかけ離れてしまった。
猫耳で白髪と言うこともあるが…
鏡を見るたびにビックリするのが我ながらどうしたものか悩ましい…
髪の長さもこの国の王族は成人とみなされる7歳までは伸ばすとの話なので、
今は背中の中ほどまで伸びて、毛先を揃えている。
じゃまなので、三つ編みにしてひとまとめにしてはいるが、
これはこれでかなり可愛い感じになってしまっていた。
男ものの服装はしているが…
それはそれで活発な少女のような印象しか与えない…
そんなある蒸し暑い夜だった。
僕は、生後半年ぐらいから自室をあてがわれてそこで寝起きしていた。
深夜…不意に窓の方から人の気配がした。
自室はこの屋敷の二階で、今日は蒸し暑かったので、窓を開けて寝ていた。
その気配に窓の方を確認したが、何もいない…
どうしても気になったので、意識を集中して『視て』みる。
集中すると、部屋に虹色の空間が広がっているのが確認できた。
その中に真っ黒い人影のようなものが視えた!
人影はゆっくり近づいてくる。
手には何か黒い刃物のようなものが視えた!
リオン先生からは感じなかった殺気のようなものを感じて、僕はベットから跳ね起き、身構えた。
その様子を黒い影はあっけにとられた様子で見ていたが…
黒い影は自分の存在が『視えている』と気づき…一機に間を詰めてきた。
僕は、逃げる方向を遮られ、身構えるのが精いっぱいだ。
子供にしては、いくら素早い方だといっても、訓練された暗殺のプロには到底かなうはずもない。
魔法を付加されたとみられる短剣の黒い刃が眼前に迫った!
だが、刃は、僕には届くことは無かった。
僕の眼前で短剣の『黒い刃』は弾けて消えた!
黒い影も静止している。
目を見張ると僕が無意識につくりだした、『白いオーラの空間』の中に…
黒い影の右腕から肩にかけた部分が完全に『停止』していた…。
白いオーラの中の腕は、真っ黒な衣装で、黒い手袋をはめているのが確認でる。
それに比べて、白いオーラの外の体は黒くぼやけて、もがいているように視える。
その黒い影は手を引き戻そうと力を入れているようだったがビクともしない。
僕は、咄嗟に黒い影の右手親指を両手でつかみ、
ねじるように自分の全体重をかけてひねって投げ飛ばした。
黒い影が勢いよく壁まで吹き飛び、壁に当たった。
盛大な音が屋敷中に響きわたる…。
すると、その音を聞いて、人が駆け上がってくる音が聞こえた。
「殿下!殿下!ご無事ですか!」
その声を聴く前に黒い影は、右腕を抑えながら、窓から姿を消していた。
ドアが荒く開け放たれ、母と執事とメイドが入ってくる。
僕は生まれて初めて(前世も含めて)の生死をかけた戦いが終わって
力が抜けていくのを感じていた。
◇◇◇◇◇
翌日の早朝『リオン先生』が事件の顛末を聞くと直ぐ、
つき従っていた従士に今後、この離宮を交代で警備するよう命じていた。
僕は、リオン先生には…
不審者に気づいて、とっさに相手の親指をつかんで投げ飛ばしたことだけを伝えた。
なぜか、自分の『白いオーラ』については話をする気になれなかった。
リオン先生は稽古には厳しいが、基本的には優しく、いい人だ。
しかし、時折、厳しい目で、自分を睨んでいる事がある…
何か、僕や母に隠し事をしているのではないかとつい…勘ぐってしまっていた。
その日の昼過ぎ、昼食の後の午後の勉強を始める前、
僕は、昨日の夜の自分の『白いオーラ』をどうしても検証したくて、
裏庭の人に見えにくい小さな林の中に赴いていた。
昨日の暗殺者と思われる賊を止めた現象を今一度確認したかった。
僕は目を細め、気を集中する。
すると『白いオーラ』が自分の周り半径5メートルぐらいに広がった…
これは、日々寝る前に練習していて、徐々にオーラの範囲を広げることに成功していたからだ…
ちなみに昨日は咄嗟だったので、
『白いオーラ」は、半径1メートルにも満たない大きさ(80cmぐらい)までしか広がっていない。
自分は、魔法が使えないとは言われてはいたが、このオーラがどうしても気になっていて、
僕は日々練習していた…
いつも部屋の中で行っていたので、外で発動するのは初めてだった。
ふっと周りを見渡すと、蝶が飛んでいた。
蝶は緑色の幾何学模様だったが、
自分の作りだした『白いオーラ』の中に入ると…「白色」になって飛んでいた!
また…足元をよく見ると先ほどは青色の花が足元に咲いていたがこれも「白色」になっていた!
母から聞いた話を思い出す。
「世界の生き物は多かれ少なかれ魔法の影響を受けていて、
影響を受けている生き物は影響を受けた魔法属性の色を出しているのよ」と…
であるならば、この色が消えた現象は、『魔法力を消し去っている』ということか!
昨日の刺客は、この『白いオーラ』の中に入った為、魔法力が込められた短剣は消滅し、
魔法をかけた体が止まったのか?
でもそれだと、今、そこを飛んでいる蝶の説明がつかないか…
魔法力を失っていても、生き物としての活動は変わらないように見える…
僕はおもむろに、足元を見た。
そこには小石があった。
もしかして、生きていない無機物の場合、この白いオーラの中でなら、
僕の意志が作用するのではと考えた。
そこで、足元の小石に「動け」と念じた途端、小石は「フシュン」と音を立てて、横にすっ飛んだ!
こ…これは…魔法というか…超能力!念動力!のようだ!
つづいて、さっきの小石の近くにあった小石にも今度は、「浮け!」と念じてみた。
すると小石は自分の目の前まで浮いた!
これはすごい!
今まで、気が付かなかったのが勿体無いと瞬間的に感じた。
次に足元の花を持ち上げようと思い念じてみた。
しかし花はびくともしなかった。
あれほど、小石だと簡単に動いたのにどうして…
僕は、もしかしてと思い、今度は、花の周りの土ごと浮かぶイメージをした。
すると今度は、半円に切り取られた形で、土は花ごと持ち上がり、眼前まで浮いた!
「これは…無機物は動かす事が出来て、生き物は動かす事が出来ないということか…
そういえば、昨日の刺客は黒ずくめで黒手袋をしていた…
ということは、刺客を止めたのではなく『刺客の着ていた服』を止めたということか?
そして、魔法力を失っていた短剣は僕がとっさに念じた『来るな、消えろ!』といった思いで
弾けて消えたのか?
もし、相手が素手なら少なくとも指は動いただろうな…
また、相手が全身黒ずくめの長そででなかったら、短剣は消し飛ばせても、
半径80cm程度の範囲の空間では、動きを止められなかったかもしれない…」
と、一人言を言ってみて、背筋が寒くなるのを感じた。
そう考えると、親指の関節を決めているとはいえ、
あの体格差を壁まで投げ飛ばせたのもこの力によるものか?と考えた。
この検証を通して、僕は、この『白いオーラ』内に魔法力は持ち込めず、
無機物ならば自在に操れることが分かった。
「支配空間(Rule space)」…
そこまで考えた時、突然、疲労感が襲ってきた。
自分がこの空間を維持できるのは今の所、せいぜい15分程度だったのだ。
それを過ぎると、立っていられないほどの疲労感を感じてしまう。
「これは、訓練しないといけないな…」
と一人呟き、この事は、しばらく黙っていようと心に決めた。