バラスチカ攻略戦~その七~
俺達は今、
ウルク帝国軍の参謀長を名乗る異世界人とその配下の兵達に囲まれている……
場所は、帝国の工業都市バラスチカの倉庫郡の一角の路地。
両脇は倉庫の壁、前や後ろ、倉庫の屋根の上にも敵兵がいる。
皆、同じ黒装束で口元も黒い布で覆っていた。
帝国軍の通常兵装とは明らかに違っている。
恐らく、先ほど倒した隠密部隊の男と同じ所属だろう。
そして全ての兵は突撃銃…リーンが言うところのボルトアクションの小銃を俺達に向けて構えていた。
この小銃は、拳銃と違い連射は利かないが、その射程と精度はかなりなものだ。
リーンの話だと、猟師などが使うとの話だが……その情報は何処から仕入れたのか不明だ。
ちなみに、帝国兵の突撃部隊はこの小銃の先端に短剣をつけて、銃剣としても使用している。
囲んでいる人数は、ティファが感知した所、異世界人も含めて13人、前後左右に3人づつだ。
俺はティファに小声で耳打ちする。
「ティファなんで気が付かなかった」
「あんた達の戦闘を気にしてたのもあるけど……
どうも、全員認識阻害の魔法と……
後、信じられないけど、正面の異世界人から、魔法感知阻害の強力な魔法力を感じるわ」
「……異世界人は魔法が使えないんじゃないのか?」
「思い出してよ!
帝国の調査船の異世界人は古代竜のエーテルクオーツを使って魔法を使っていたじゃない」
「じゃ、アイツも……」
そんな俺達のひそひそ話しを位置切るように敵の参謀長が俺達に声をかけた。
「……相談は済んだかな?
では、大人しく武装解除してもらおうか」
「……嫌だと言ったら?」
「君達に選択肢は無いよ。
ここで死ぬか、従うかだ」
今は、作戦中……しかも時間制限ありだ……俺達の予定していた爆弾の設置場所は後一箇所。
後一箇所は、予備で仕掛ける場所なので、爆弾を仕掛けられなくても作戦に大きく影響しないだろう。
そして、作戦自体の開始時刻は後40分ほどだ。
ここは、下手に抵抗して、他の潜入班を探されるより、
時間稼ぎも兼ねて、敵に捕まるのも仕方ないだろう……
何より、この状況を打破できると思えない。
俺は、一旦捕まって、脱出の機会を窺うべきだと俺は判断した。
「……分かった」
俺はそう言うと手に持っていた剣を近くに放り投げた。
俺に続いて、他の二人も剣やレーザー銃を放り投げる。
「……全てだ。
さっきの妙な玉や爆発物も全て出せ」
俺達は渋々爆弾やベルト周りのナイフ、俺の遠隔魔法石の残りなどを投げ出す。
敵は感知魔法の使い手の集団だ、俺達は隠すのは無理だと判断した。
「……これで全部だぜ……」
参謀長に敵兵の一人が耳打ちする。
恐らく、感知魔法で、魔法具などの報告をしているのだろう。
「そのようだな……」
参謀長は、そういうと徐に右手を上げた。
すると、忽ち俺達の体が重くなり、立っていられなくなる。
「ぐっ……ぐぅ……」
「きゃ……あぁぁあ……」
「うぅ……重たい……」
俺達は三人共腹ばいになってしまう。
参謀長の右腕には極大の『ひし形の黒い宝石』が埋め込まれた腕輪をしていた。
「……そ、それは…『黒竜の腕輪』か?!」
「その通りだ、先の戦闘で危うく失う所だったが、何とか回収したものだ。
それと……古代竜のエーテルクォーツはこれだけでは無い」
そう言うと、今度は左手を上げて見せた。
そこには……腕輪があり、腕輪には極大のひし形の『緑色の宝石』が嵌め込まれていた。
「緑のエーテルクォーツ……風の古代竜、緑竜のものか?!」
「その通り……」
二つもの古代竜のエーテルクォーツ……どれほどの威力があるのか俺には想像も出来
ない……
だが……魔法を使うには魔法力……魔力を貯蔵する必要があるとの話だ。
俺達は普通にこの世界の魔力を使って魔法を起こせるが、異世界人はそれが出来ない。
その為、魔法石に一旦、魔力を貯蔵する必要があるはず……
だが、ヤツの周りにそれらしいものは見当たらなかった。
「……さて、それではお前達の計画を話してもらうぞ」
参謀長はそう言うと、参謀長の前で俺達に銃を向けていた兵に指示をだす。
二人の兵が俺達に近づいてくるが、俺達は身動き出来ない……
そして、二人の兵が俺達に手を掛けようとした時、辺りに轟音が鳴り響いた!
その音が止むと辺りからバタバタと人が倒れるような音が複数聞こえる。
目の前の二人の兵も俺の前で、うつ伏せに倒れてきた。
見ると胸の辺りに風穴が空いている。
どうやら、ここに居た、敵兵が全て倒されたようだ。
そして、目の前の参謀長は、顰めた顔で、俺達の上空を睨んでいた。
俺は苦しい体制から何とか首を回して、上を見る。
そして、俺は目を見張った。
俺と同じ深緑の戦闘服を着たリーン・ウォーター・ペンドラゴンが光学迷彩を解きな
がらゆっくり降りてくる光景を!
◇◇◇◇◇
リーンが降りてくると、俺の体が軽くなった。
どうやらリーンのルール・スペースの範囲内に入った為、敵の魔法が無効化されたようだ。
俺は圧力から脱する事が出来、肺の圧迫もとかれたので、大きく深呼吸する。
他の二人も同じ様な状態だ。
そして、俺はリーンを見る。
リーンは、左右両手に拳銃を携えていた。
恐らく、さっきの轟音は拳銃に電磁レールを付与したレールガンを敵兵に打ち込んだ
音だと推測できる。
そして、先ずティファが声を出す。
「リーンさん!来てくれたんですね!」
リーンは敵の参謀長を睨みながら、振り返らず、声だけで答える。
「ああ……ティファ……キース……みんな無事かい?」
「ああ、大丈夫だ!すまんなリーン。
だが、どうしてお前がここに居るんだ?」
「司令官が前線に出ると、みんなに不安がられるから黙っていたんだが、
僕は単独でそこの異世界人の参謀長を探していたんだ……
居るはずの参謀長室に居なかったんで、少し焦ったけどね……」
「……そうか……で、探している間に俺達に出くわしたと?」
「……まぁ、そんなところだ」
そして、一通り、俺達の安否を確認すると、リーンは敵の参謀長に声を掛けた。
「ウルク帝国軍参謀長のダニエル・ノートン将軍とお見受けするが?!」
「ふっ……如何にも……そうだが、貴公があの『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』か……」
「そうです……貴方には聞きたい事があります……
同行してもらいましょうか……」
「……同行する気は無いな……」
「じゃあ、力ずくで従ってもらいます」
「そう上手く行くかな?!」
そう、参謀長が言うか言わないかの間にアスファルトが割れ、地面が盛り上がり、
大きな影が僕達と敵の間にあっという間に立ちふさがった。
僕は咄嗟に仲間の三人をルール・スペース内に包み、50m程一気に後退する。
そして、ティファがその大きな影を見て、驚愕の声を上げる。
「黄竜!!!『地の古代竜』!!」
僕は、その姿に驚く……
そう、ソイツは巨大な頭に小さな前足。
後ろ足は見るからに太く強靭そうそうで、
長く太い尾っぽで重心をとっている。
口には鋭い牙が大量にズラッとに並び、二本足の前傾姿勢で立ち上がったその姿は……
正にCG映画や博物館で見た『T・レックス』……ティラノサウルスだった……
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