バラスチカ攻略戦~その三~
私は、前方に方陣(四角形)毎に隊を組んだウルク帝国軍を見つめていた。
7万の兵がずらりと並んでいる。
少し高いところから見ると人で出来たチェック柄に見える。
一個の方陣は16×16人の256人といった感じだ。
正確にその数字とは限らないようだが…恐らく一方陣で250人前後…280個ほどの方陣が平原を埋め尽くしていた。
今まで、横一線のファランクス陣形を取っていたウルク帝国らしく無い陣形だ。
恐らく、
カストラートでファランクスが簡単に破られたので、攻撃を集中させない為、部隊を細かく分けた結果だと思われた。
対する、私達の連合軍の陣形も同じような方陣を組み合わせたものだ…
こちらも、敵に集中して攻撃されないように、部隊を分けている…
高高度からこの平原を見れば、8km離れた場所にそれぞれチェック柄が広がっているように見えるだろう。
私が敵陣を見つめていると、横合いから声が掛かった。
「リーン指令、攻撃の準備が整いました」
「リオンさん、ご苦労様です」
「…仕掛けますか?」
「…いいえ…『斥候部隊』からバラスチカから爆撃機らしきものが飛び立ったとの報告を受けています」
「…ヤツラ…とうとう虎の子を戦線に導入しましたか…
予想通りではありますが…」
「なので…カストラート軍の『雷光騎士団』の例の兵器を迎撃用に準備中です。
本隊の行動は、爆撃機撃破後とするよう…指示を受けています…」
「…そうですか…上手く行きますかね…」
「大丈夫!だって『あの人』が考えた作戦ですから!」
リオンは胸を張って答えるリーンの格好をしたユーリを見て苦笑した。
そして、意を正して敬礼し、指示を復唱する。
「了解しました!連合軍各隊には、防御隊形でそのまま待機を命じます!」
私は頷き肯定を示した。
◇◇◇◇◇
私は、ウルク帝国軍3騎士団の5割の戦力…7万の軍勢の展開状況を確認していた。
私は『黒竜騎士団』副団長を務めている。
今回の防衛作戦の総指揮官を団長にして参謀長の『ダニエル・ノートン』から命じられていた。
海軍が壊滅状態の現在のウルク帝国軍の陸軍3騎士団の主力が今、ここに集結していた。
私を除く他の2騎士団は私の指揮下に入り、今回最前線に配置してある。
2将軍は、自分達を差し置いて、私が総司令に任命されている事に口には出さないがかなりご不満のようだった。
しかし、この2将軍は先のカストラート戦で大敗しているので、表立って文句を言える立場でなかったのが大きく影響し、今はおとなしく私の指示に従っていた…
不安要素の一つだが、排除する訳にもいかないので仕方が無い…
今私がいる後方司令室は最前線から3km程離れている。
この後方部隊には私の直属部隊として『黒竜騎士団』の機械化部隊1万人を配置している。
ダニエル団長から預かった精鋭部隊だ。
前線がある程度膠着するか、損害が出た場合に導入する予定だ。
先陣を切らせるつもりは無い…
露払いは2将軍の『赤竜騎士団』と『緑竜騎士団』にやらせる予定だ。
そして、現在攻撃陣形がほぼ整っていた。
今は、爆撃機による先制攻撃を待っている状態だ。
既にバラスチカから離脱したとの連絡が入っている。
ここに着くのに後数分といったところだ…
高高度からの爆撃…本来なら確実に敵の要所を爆撃する為、
今回のような雑な爆撃の方法は使用しないのだが、
相手があの『雷の狙撃者』ならば致し方ない…
幸いにも今回の敵の数は多い…目を瞑ってでもあり程度損害を与える事は出来るだろう…
過去、ヤツに落とされた経験がある以上、肉眼で確認できる範囲に爆撃機を飛ばす事は出来ない。
その為、念のため肉眼で確認が困難な雲の多い日に雲の上から爆弾を落とす事になったのだ。
これを行う為、開戦を今日まで待っていた…
今日は今にも雨の降り出しそうな曇天の曇り空だった。
我々が攻撃するのに打ってつけの日と言えた…
不意に天幕に伝令兵が駆け込んでくる。
伝令兵は敬礼し、伝令を伝えた。
「報告します!只今、後方3km地点に友軍機が迫っております!
現在、攻撃の指示を仰いでおります!」
「分かった!そのまま、敵陣への空爆を開始するよう伝えろ!」
「はっ!了解いたしました!」
こうして、ウルク帝国と連合軍の戦いが始まったのだった。
◇◇◇◇◇
私の横で魔法レーダーを展開していたエリザが敵の爆撃機の接近を伝えた。
「…敵機発見…北方向…距離10km…高度1800m…」
私は、立ち上がり、指示を出す。
「『雷光騎士団』に連絡!
『レーザー砲』用意!迎撃体勢を取れ!」
近くに控えていた通信兵が、各部隊への連絡用魔法石で指令を伝える。
『レーザー砲』…今まで使用していた個人使用の『レーザー銃』を大型化したものだ。
カートリッジには魔法石を10個ほど使用し、威力も10倍、照射時間も5秒となっていた。
ただ大きさは、全長5m、幅4m、高さ3m程となっていた。
形は、現代の『高射砲』に似ている。
使用者に関しても魔力圧縮制御に5名、砲撃手1名、レーダー手1名、砲身冷却要員2名、防御要員2名の計11名を必要としていた。
そして、今作戦に導入出来たのは5機のみ…レーザー砲の核となる収束筒の製造が特殊だった為だ。
流石に高エネルギーに耐えうる収束筒の製造が困難を極めたのだ。
1機の収束筒の製造に1ヶ月を要していた。
続いて私は、『誘導雷撃部隊』に指示を出す。
「『誘導雷撃部隊』に連絡!
爆撃機撃退後、攻撃を開始する!
何時でも雷撃可能なように準備に入れ!」
『誘導雷撃部隊』…1小隊が風属性魔法師10名、水属性魔法師5名、光属性魔法師1名、
計16名からなる部隊だ。
現在この小隊は50部隊存在している。
総勢800名だ。
この部隊は、雷を発生させ、その雷を所定の場所に誘導して落とす部隊だ。
雷というか電子は、その性質上、抵抗の少ない場所を選んで進む。
これを利用し、風魔法と水魔法で、上昇気流を作り出し、
雲を発生させた上に雲中に細かい氷の粒子を作り、霰を作り、
摩擦させ、静電気を蓄積し、帯電させ、人為的に放電現象を起こす。
そして、真空の道を作る事で、落雷の場所を誘導するのだ。
…真空にすれば抵抗がほとんどなくなり、電気はそこを選んで進んで行くというわけだ。
この連携をさせるのにはかなり個々の魔法に精通していて制御力が高くなければ出来なかった。
この部隊は正に魔法師の精鋭部隊と言えた。
各国家からかき集め、何とか50部隊を揃えるのがやっとであった。
ちなみに今日の曇り空は、『誘導雷撃部隊』が作り出したものだ。
不意に北の空からエンジン音が聞こえる…
だが、その姿は雲の上らしく確認出来ない…
私は、エリザに目を向ける。
エリザは、頷き、答えた。
「敵機は3機…三角形の編隊を組んで、こちらに接近中…
各、『レーザー砲』の索敵係りのレーダー担当も捕らえている…
砲手にも方向を指差しで指示している…
方向さえ正確なら、手前から敵方向に向けて照射すれば、打ち落とせるはず…」
私はその答えに頷き指示をだす。
「『雷光騎士団』レーザー砲撃開始!
一番砲台は左翼敵機を!
二番、三番砲台は中央を!
四番、五番砲台は右翼を
敵機の100m手前から敵方向に向けて照射せよ!」
通信兵が即座に『雷光騎士団』に連絡し、
間髪居れずにレーザー砲の太いレーザー光が5本雲を切り裂いた。
その光景はまるで光の柱が五本そそり立ち、雲を切り裂くようだった。
かなり壮大な光景だ。
雲の切れ間からレーザーに切り裂かれた機体が垣間見えた。
私の確認出来たのは左翼の機体だ。
左翼は砲台が一門しか割り振れなかったので注視していたのだ。
レーザーは、確実に機体の真ん中を貫き、機体を真っ二つにしていた。
爆発しながら機体だった残骸が敵とこちらの部隊の間の平原に落ちるて行くのが確認できた。
不意にエリザが叫んだ。
普段大声を上げない彼女にしたらかなり珍しい。
「中央敵機健在!
レーザー砲撃は直撃したはず!
でも、効いて無い!
他二機は撃破を確認!」
私は、焦った!
「レーザー砲部隊!その他全部隊!に通達!
上方に対物理応魔法障壁展開!
レーザー砲は一旦、地魔法で『石壁ドーム型防御』の上、地下に退避!」
『石壁ドーム型防御』とは、地魔法で石作りのドームを作り出すものだ。
石のカマクラといった感じだ。
それを行った上で、地魔法で隊員とドームごと地中に埋めることで、簡易防空壕とする事が出来た。
これも前もってリーンから授けられた戦法だ。
爆撃機を撃破出来なかった場合の対処方法として…
暫くして、上空から不気味な飛来音が「ヒューヒュー…」と聞こえてきた。
そして、炸裂音と閃光が所々で聞こえてくる…
迎撃し損ねた、爆撃機からの爆撃だ…
その爆発が収まったのを確認して、私は被害を知らせるよう通信係に命じた。
「レーザー砲部隊損害無し!
右翼連合前線部隊に負傷者数名!死者いません!
作戦続行可能との連絡です!」
私は胸を撫で下ろした…
何とか、被害は最小限に食い止める事が出来たようだ。
爆撃した敵機は通り過ぎた後、大きく旋回して、バラスチカに帰還するらしい事をエリザが告げた。
再出撃には時間が掛かるだろう…
今回レーザー砲が効かなかった機体は、リーンが言っていた、異世界製の爆撃機と思われる…
間者からの連絡だと最後の一機との話だ。
あの機体だけ気をつけていれば、爆撃機による損害は防げるだろう…
私は、気持ちを切り替え、反撃命令をだす。
「『誘導雷撃部隊』!攻撃準備!目標、敵後方支援部隊!
砲撃部隊と支援物資運搬部隊を集中して攻撃!
レーザー砲部隊も地上に再浮上!
砲身冷却後、敵本隊に照準合わせ!」
いよいよ連合軍の攻勢が開始されるのだった。
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