表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Reincarnation saga(リーンカーネーション・サーガ)  作者: 八咫烏
◇青年期編~第三章~◇
52/66

バラスチカ攻略戦~その一~

 『クー・シー公国』…この国は中央大陸、中央南部に位置している草原地帯だ。

代々、三人の公爵で一つの国を統治していた。


 何故この様な統治の仕方かと言うと、前王家を打倒したのがこの三公爵だったからだ。

内乱を防ぐ為、3公爵による合議制を取っているのだ。


 この『クー・シー公国』に8カ国同盟の連合軍が集結しようとしていた。

エルウィン王国での8カ国での会議で、合意した、

ウルク帝国の拠点『バラスチカ』を攻略するためだ。

この国が8カ国の連盟国の中で『バラスチカ』に一番近い。


『石油都市バラスチカ』は帝国の要『黒竜騎士団』の本拠地となっている。

今、ここを落とせば、ウルク帝国の国外侵攻は不可能となると言っていい…


国境近くの野営地では、今、全軍が集結しようとしていた…


『クー・シー公国』の公爵の一人、『ザハル・クーレル公爵』が、

全軍を見渡せる舞台に立つ。


舞台には、各国の将軍が後ろに控えていた…


「勇敢なる8カ国の選ばれし勇者諸君よ!

いよいよ、我々に苦渋を舐めさせて来たウルク帝国へ報復する時が来た!」


8万の軍勢が雄叫びを上げる。


「この戦の総指揮を取るのは、皆も良く知っている、

『雷神』ことエルウィン王国『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』将軍だ!」


軍勢から再び歓声が上がる。


「リーン将軍は、皆も知っての通り、幾度もウルク帝国軍を退けて来た!

此度も我々に勝利を齎してくれることだろう!」


この言葉に呼応して、三度軍勢に歓声が響き渡った。

その大歓声の中、公爵が、後ろに声を掛ける…


 後ろから歩み出てきたのは、白髪に見目麗しい美貌の美丈夫。

白の軍服にマントを羽織っている。

軍服には金の刺繍が施されていて、一目で、噂の『雷神リーン』と分かった。


歓声が更にヒートアップする…


リーンは、右手を上げて、その歓声を止める。

8万の軍勢が水を打ったように静まり返った…

その中を男性とは思えない、高く澄んだ声が響いた。


「勇敢なる8カ国の精鋭諸君よ!

私が、リーン・ウォーター・ペンドラゴンだ!

私はここに全身全霊を掛けて、この戦に挑み、必ずや皆に勝利を齎す事をここに誓おう!」


この言葉に大歓声が巻き起こる。


「「「雷神!万歳!」」」

「「「8カ国同盟万歳!」」」

「「「リーン将軍万歳」」」


その大歓声は、大地を割れんばかりに埋め尽くしていた…


◇◇◇◇◇


 舞台から、戻り、自分の天幕に引き上げてきた私は、椅子に座るなり、

椅子の前に置いてある机に突っ伏した…

その態度に呆れながら、エリザが声をかける。


「…お疲れ…流石に8万人の前での演説じゃ疲れたでしょ?…」


私は、顔だけエリザに向けて愚痴を言う…

「ほんとよぅーなんで私がこんな所で、演説しなきゃいけないのよー」


その抗議にエリザが怪訝な顔をして嗜める。

「…ユーリ…女言葉に戻ってるよ…今は私達だけだから平気だけど気をつけなきゃ……」


そう…ユーリ・アルベールは、リーンの影武者として、ここに来ている。

帝国軍の目をこちらに向けさせる為だ。

リーンにそっくりな私は、影武者に打ってつけだった。

白髪の鬘と、灰色のコンタクトをつければ、もう見分けがつかない…


私は、リーンの部隊への同行をせがんだが、了承されなかった…

それどころか、こんな大役をやらされる羽目になっていた…

私は、懐から取り出した短剣を見つめて、リーンとの別れ際の会話を思い出す…


――――

―――

――


「ユーリ…無理を言ってすまないが、これは、ユーリにしか頼めない仕事なんだ。

他の影武者では、直ぐバレる恐れがある…けどユーリなら上手く騙せるはずだ!

今回の作戦は、僕の所在を掴ませる訳にはいかないんだ!

お願いだ、ユーリ!」


リーンは、ふかぶかと頭を下げる。

ユーリ・アルベールは溜息をついて、返事を返すしかなかった…


「解ったわリーン…

この仕事、引き受けるわ…

でも、約束して!

必ず帰るって!

例え、作戦が上手く行かなくても、無事で戻って来て!」


「ああ、必ずユーリの所に戻る!

約束するよ!」


そして、リーンは懐から布に包まれた短剣を取り出す…

そして、巻いてある布を取り外し、私に差し出した。

その短剣には私も見覚えがある…

リーンのお母様…メアリ叔母様から貰った唯一の形見の王家の紋章が入った短剣だ。


「ユーリに…これを持っていてもらいたい…

戦場で無くしちゃ大変だからね…」


「で…でもその短剣はお母様の形見じゃ…」


「だから、ユーリに持っていてもらいたいんだよ。

僕の帰る場所はユーリの居る場所だから…」


私は、おずおずと、差し出された短剣を両手で受け取り、胸に抱いた…


「…わかった…大切に預かっておくわ…」


「ああ…よろしく頼むよ…」


そして、私達は見つめ合い、

どちらからともなく近づき、抱きしめ合い…

キスをした…


――――

―――

――


そんなことを『ぽや~』と上の空で思い出していると、

エリザが私を覗き込んでいるのに気づいた。


「な…なに?!エリザ?!」


「…ユーリ…よだれが垂れてたよ…」


私は、驚き、焦って、口元をぬぐう。


「…冗談です…」


私は真っ赤になって口をパクパクさせて言葉が出てこない…


「…呆けるのは、戦が終わってからにしてくださいね……」


私は、エリザに釘を刺され、顔を背けながら、言い返した。


「!そ、そんなこと!わかってるわ!!」


◇◇◇◇◇


 『石油都市バラスチカ』…ここは帝国の要『黒竜騎士団』の本拠地だ。

ウルク帝国内では比較的南に位置し、帝国の最南端に近い。


この地域は、草原地帯で元々は遊牧民が暮らす地域だった…

只、この地域には元々燃える池が点在していた…

この『燃える池』こそ、原油が自然に地表に噴出して出来た、原油の池であった。


『黒竜騎士団』はこの原油を確認すると、直ぐに原油採掘施設を作り、

それに合わせて軍事施設を大々的に作り、工業と軍事を併せ持つ軍事拠点としていた。


 この都市はこの世界にあって、他の都市とまったく違った風景を作り出している。

住居は、コンクリート製、道はアスファルトで整備され、街灯は魔法石では無く、

電気による街灯を使用し、信号機まであり、トラックが行き来していた…

ただ…この都市の周りには高さ6m程の城壁が連なっていたので、何処かの城塞都市にも見えていた。


 リーンは、この風景を10kmほど離れた丘陵地帯の丘の上から体を地面に伏せ、

光を屈折させて、擬似的な望遠鏡を作る事で確認していた。

因みに、この擬似望遠鏡は、レールガンを打つときには常に使用している…


「…まるで、何処かの工業地帯のようだ…」

常に火を出し、パイプラインが縦横無尽に入っている石油採掘施設がその感想を言わせていた…


隣で、ティファが怪訝そうに僕を見つめる。

「工業地帯って?何んですか?」


「工業地帯って言うのは…鍛冶場の大きな場所?かな?

物を作る施設が集中している都市の事を言うんだよ」


「なるほど…鉱山都市みたいなものですか?」


「…そうだね。鉱山都市でやってる事を平地でやってる感じだと思うよ…」


この世界の工業はもっぱら、城や鉱山に隣接した鍛冶場が主だ。

生産量もそれ程多くない…

今見ている工業都市とは比べるのも馬鹿らしい程、差があると思われた。


だが、ウルク帝国でもここまでの工業都市はこの『バラスチカ』だけだ。

『黒竜騎士団』が技術流出を恐れ、ここ以外での新兵器の生産、開発を制限しているからだ。


「それより、ティファ、『魔力レーダー』の方はどう?」


「……、今の所、あの都市から出る大きな物や人は感知できません」


『魔力レーダー』…僕は、風属性魔法が伝達能力に優れている事の原理を割り出していた。


それは、魔法石による通信が風属性魔法を使用していた事をピントとした発想だった。


風属性魔法は、大気中に何らかの電波的な振動を発信して、

大気中のエーテルを振動させて通信していると考えられた。


ならば、この電波的な発信、受信時の感知能力は、そのまま電波として使用できないか…

そう、『レーダー』として使用出来るので無いかと考えた。


レーダーは、電波を対象物に向けて発射し、その反射波を測定することにより、

対象物までの距離や方向を明らかにする装置だ。


そこで、ティファとエリザに微量の風魔法を発信し感知できるか試して貰った所、

可能な事が分かった。


感知適正は、ティファの方か優れているようだったが、

訓練すれば、風属性の魔法が使用できる者ならば、誰でも可能らしい…

魔力使用量も少なくてすむので、頻繁に利用できそうだった。


ティファの感知能力だと半径10kmまで感知が可能だった。


 敵にまだ動きが見られない事を確認した僕らは、丘陵をくだり、

『雷鳳騎士団』の野営地に戻る。


キースが僕らを迎え、状況を聞いてきた。

「リーンどうだ?敵に動きはあるか?」


「…いや、まだ目だった動きは無いよ。

『クー・シー公国』に連合軍が終結しつつある情報は行っているはずなんだけど…」


「まさか、ここの部隊は動かさない気じゃないだろうな?」


「…それは考えにくい…『クー・シー公国』から帝国内で一番近い拠点がここなんだから、

連合軍の狙いもここだと向うも思ってるはずだ。

それにここは生産施設を抱えている…

市街戦は避けたいはず…

必ず都市から出て迎撃するはずだ…」


「じゃ、計画に変更は無しか?」


「ああ、敵の出方を待つ!」


今回の作戦は、8カ国の連盟国の軍をこの『バラスチカ』に一番近い、

国の国境に集結させ、『バラスチカ』に攻撃を仕掛けると思わせ、

『黒竜騎士団』を『バラスチカ』から誘き出し、

斥候隊の『雷鳳騎士団』で『バラスチカ』を落とす事が目的だ。


今、『雷鳳騎士団』2000名は丘陵地帯のくぼ地に待機し、

部隊上部に光学迷彩の魔法を張る事で隠れていた。


ティファが不安そうに僕を見つめる。

「上手くいきますかね?…」


「ああ…必ず上手く行く…いや、行かせてみせる!」


僕は、力強く答え、空を見上げる。


空は夕闇が差し迫り、星が幾つか瞬き始めていた…


明後日には、連合軍の集結が完了する頃だ…そろそろ帝国軍が動き出すに違いない…


僕は、帝国軍の動きに合わせた作戦に思案を巡らすのだった…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ