晩餐会~序盤~
僕は、晩餐会の会場に隣接している休憩室で、
うな垂れていた…
僕は、晩餐会が始まる前に会場入りしたのだが、
その途端、ひっきり無しに、僕に挨拶にくる人々に囲まれたのだ、
会場いる人々は、国王こそ居なかったが各国の重臣ばかり…
この国…と言うより僕との繋がりを作ろうと必死な様子が伺われた…
今は戦時下…ウルク帝国を共通の敵としている各国は、
僕の戦力を当てにしているのがひしひしと伝わってくる。
現時点で、ウルク帝国軍を圧倒する力を持っているのがエルウィン王国軍とカストラート王国軍にしかないというのがその要因だ。
エルウィン王国としては、同盟締結の条件として、各国に『レーザー銃』の図面及び仕様書を提供する事と、ダイナマイトの輸出を上げている。
この条件により、エルウィン王国は同盟入り出来たとも言えた。
何せ、国内の統制がまだ整っていなく、国力が疲弊している現状のエリウィン王国としては、
出せる交渉条件はこのくらいだったのだ…
軍事にしても今のエルウィン王国に他国へ派兵する余力は無い。
これから新兵を鍛えるのだから当然だろう。
元々の基盤の解放軍は2000人しか居なかったのだから。
しかし、帝国の『黒竜騎士団』に対抗できるのは、エルウィン王国軍…というより、
僕しかいないと言うのが各国の共通認識だったのだ。
…それで、今回の晩餐会で僕に伝手を作ろうと必死という訳だ…
でも、僕は一人だ、全ての国を僕一人で守ることはとても出来ない…
…今、部隊で訓練中の戦術魔法が完成すれば、通常部隊でも帝国の『黒竜騎士団』に対抗出来るとは思うが…
提供するにしても、まずは現部隊での成果次第と言ったところなので確約はできない状態だ。
それに、公表には王や摂政が反対するのは目に見えている。
するにしても交換条件を出すだろう…
僕がうな垂れながらそんな事を考えていると、長椅子の隣にユーリが座って来て、心配そうに僕に声を掛けた。
「リーン大丈夫?
凄い勢いで人が殺到してたけど…」
僕は疲れた顔を上げて苦笑しながら答えた。
「…は…はは…まぁ仕様が無いよ…現状を考えると気持ちは解るよ…
僕も他国の軍関係者なら、同じように接点を持とうとするだろうからね…
でも、アルベール陛下が入場して来たお陰で、何とか隙を見て会場から抜け出せたよ…
僕への謁見は、秘書官を通してもらう事にしよう…
この場じゃとてもじゃないが捌ききれないよ」
「…そうね…そうして貰えると私も嬉しいかな…」
「ん?今、何か言った?」
「え!?な…何も言ってないわ!き、気のせいじゃない?!」
そんな話をしていると、一人の男性と、その娘と思われる少女が近づいてきた。
男性の方は緑髪緑目で長身の美丈夫。
180cm以上ありそうだ。
また、少女も男性と同じ緑髪緑目で何処と無く男性の顔立ちに近いものを感じる。
背は160cmちょっとと平均身長だ。
ドレスも淡い緑色のドレスで、少女にとても良く似合ってる。
そして、立ち振る舞いがかなり優雅で、顔立ちが整っており、かなりな美人といった感じだ。
なにより、僕が目を引いたのは縦ロールの髪型…
この世界ではドライヤーなど無いので、パーマを掛けるのは、よほど上流階級の人しか見たことが無かった。
男性の方が僕に向かって声を掛けてくる。
「リーン・ウォーター・ペンドラゴン閣下ですね」
僕は立ち上がり誰何を問う
「はい。そうですが…貴方は?」
「これは失礼。申し送れましたが、
私は『ティターン皇国』で宰相をしております『セルクト・アイバーン』と申します。
そしてこちらは我が国の第二皇女で在らせられます『テミス・ウラヌス』皇女殿下です」
すると紹介された『テミス』がドレスの端を摘み、優雅に一礼した。
「お初に目にかかります。
『テミス・ウラヌス』と申します。
お見知りおきくださいますようお願い申し上げます」
ティターン皇国…中央大陸の東の外れの国だ。
エルウィン王国が西の外れにあるので、この国に来るには大陸を横断しないといけない。
飛竜を使っても2週間以上かかる。
そんな遠路を皇女が来るなど、通常考えられなかった。
戴冠式を交付してから3週間…結構な強行軍になったはずだ。
「これは、遠路遥々、良くいらして下さいました。
私は、エルウィン王国『雷鳳騎士団』団長『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』です」
僕は、慌てて一礼する。
すると『テミス』はユーリの方を見たので、
次いで、隣のユーリを紹介する。
「こちらの女性は、カストラート王国宰相のご息女で『ユーリ・アルベール』です。
現在、彼女は、私の騎士団に所属しております」
ユーリもテミスに負けじと優雅に一礼を返した。
「ユーリ・アルベールです。
皇女殿下にお会いできて光栄です」
テミスは、ユーリの挨拶を受け、
「こちらこそ、よろしくお願いします。ユーリ様」
と軽く返礼した後、僕に向き直り、言葉を交わす。
「リーン閣下、お初にお目にかかれて光栄です。
リーン閣下のお噂はかねがねお聞きしておりました」
「噂ですか?
どんな噂です?」
「はい。とても優秀でお強く、美しいと…」
「…美しいですか…」
僕は苦笑する。
「それにしてもリーン閣下とユーリ様は良く似ておいでですが…
ご血縁者でいらっしゃるのですか?」
「はい、私とユーリの母は姉妹ですので私どもは従兄妹になります」
「そうですか。
お二人ともお美しく、そっくりなのでビックリしてしまいました」
「ははは…そうですね…そっくりだとは、良く言われます…
それと、閣下はよして下さい。
リーンと御呼び頂いて結構です」
「そうですか…
では、私の事もテミスと御呼び下さい」
「解りました、テミス様」
「はい、よろしくお願いします。
リーン様」
僕らは和やかに雑談を交わす。
流石にどこぞの官僚では無く、皇女殿下だ、邪険にする訳にもいかない。
暫くすると、晩餐会の会場の方から楽団による演奏が聞こえてきた。
今回の晩餐会は、人数が300名と多かったこともあり、立食形式で、舞踏会も兼ねていた。
会場の中央では、既に気の早い何人かがダンスに興じている。
僕らもその喧騒に自然と会場に目を向ける…
すると、テミスが優雅にドレスの端を摘み、一礼した。
「リーン様、是非私と一曲、踊っていただけませんか?」
僕は少し驚き、どうした者かと一瞬たじろぐ。
…そして、背中に冷たい殺気を感じて、横目で背後を確認すると、
ユーリが僕を睨みつけていた…
確か…舞踏会で最初に踊る相手は、その人にとって大切な人であると聞いた事がある…
「テミス様…お誘い頂いて恐縮ですが、
本日は、ダンスの先約がございます…」
流石に断られるとは思っていなかったのだろう、テミスは怪訝な顔をする。
「…失礼ですが…どなたとお約束なのですか?」
「申し訳ございません。
本日は、このユーリをエスコートする約束をしております」
僕は、ユーリに向き直り、手を取る。
「ユーリ様は、リーン様の騎士団に所属されていると伺ったので、護衛かと思っておりましたが…」
「いいえ、本日、ユーリは来賓者として参加しております」
「そうですか…それは大変失礼いたしました。
同伴者がいるのに、同伴者から了承を得ずお誘いしてしまうなど、
マナー違反でした。
申し訳ございません」
そう言うとテミスは、ユーリに一礼した。
ユーリは慌ててそれに返す。
「いいえ、テミス殿下、こちらこそ申し訳ございません」
テミスは、ニッコリ微笑み更に言葉を繋げる。
「では、改めましてユーリ様。
一曲目はお譲りいたしますが、二曲目は私に譲って頂いてもよろしいでしょう?」
「え…ええ、勿論です」
…ユーリは顔を引きつりながら了承した…と言うか了承させられた感じだったが…
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よろしくお願いいたします。