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Reincarnation saga(リーンカーネーション・サーガ)  作者: 八咫烏
◇青年期編~第一章~◇
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報告


 アイルゼン砦を奪われたウルク帝国軍は、撤退を余儀なくされていた。

エルウィン王国の港に停泊していた、海軍も全滅状態である。

カストラート侵攻時に殆どの軍船をこのエルウィン王国の港に集結させて居たのが仇となっていた。


 海軍の建て直しには今後どのくらい時間が掛かるか分からない。

少なくとも、2、3年は開戦を行える状態になら無いだろう。


陸地の詰め所に居た兵も軒並み倒され、200名程度が降伏し、投降していた。


 アイルゼン砦からの援軍は、街中で解放軍第一部隊の奇襲に会い、詰め所への救援に間に合わなかった。

そして、帰るべき砦は、占拠された状態だった為、泣く泣く、エルウィン王国からの脱出を余儀なくされたのであった。


 そして、アイルゼン砦が陥落し、

首都『エルウィン』がウルク帝国から開放された『報』が伝わるやいなや、各地に駐留していた、ウルク帝国の貴族や軍は、こぞって、帝国へ撤退した。

…解放軍の次の矛先が向く前に……

それは、凄まじい速さの撤退だった。


『エルウィン』開放を知った民衆が暴徒と化し、

各領の貴族の屋敷に押しかけた時には金目のものは何もなかったのだから、

その退去の早さはそうとうだった事を窺わせる。


こうして、リーン率いる解放軍は、『エルウィン王国』奪還に成功したのであった。


◇◇◇◇◇


 時は少し遡る、アイルゼン砦の攻防戦の翌日…

リーン・ウォーター・ペンドラゴンは、エルウィン王国の王城だった、

ペンドラゴン城跡地の中庭に一人赴いていた…

手には、白いユリの花束を持っている。


昨日、負傷した左手はかなり痛むが、歩けないほどではない。

僕の体に魔法が効けば、ユーリの魔法で直せるのだが、

僕には魔法が効かないので自然治癒を待つしかない。

左手は、碌に握ることが出来ないので、暫く不自由しそうだ…

幸いにして、骨や神経は傷ついていないらしい…

余談だがこれは光魔法で確認して貰ったのだが…


僕は崩れた城門を潜り、周りを見渡す…

前世のテーマパークにあった城のように美しかった城壁と塔は、

今は、見る影も無かった。


 城壁は、崩れ、幾つもあった塔は一つも無く、只の石の瓦礫と化している。

美しく整備されていた中庭は今は雪に埋もれ、何もない…

雪が溶けても瓦礫と雑草ぐらいしかないだろう…


僕は、そんな人の寄り付かない中庭の雪を踏締めながら進んだ。

そして、崩れ落ちた大きな廃屋の前で足を止る。


 ここは、幼少の頃、母と過ごした『メアリ邸』の跡地だ。

今は只の瓦礫の山と化していて、以前の面影は、見る影もなかった。

僕は、そっと花束をその瓦礫の前に置いた。


「母様…今、帰りました。

10年も帰れなくてすみませんでした…」


 母の墓は、別の王族専用の墓地に在るらしい。

僕はその場所を知らない…

聞けば教えてもらえるだろうが、僕の母との思い出は、この場所しか無い…

母に報告するならばこの場所だと思っていた。


「母様…あなたが亡くなってから色々ありました…

本当に、色々在り過ぎて何から話したら良いか分からないぐらいです。

でも、昨日やっと、首都を取り戻す事ができました…

まず、そのご報告をしておきたくて…

……

あれから、色々在りましたが、まず報告しておかないといけないのは、

かけがえの無い友人が出来た事です。

『ユーリ』、『ティファ』、『キース』、『エリザ』…ほんとうに掛け替えの無い仲間ができたんですよ

……

特に義妹の『ユーリ』は、助けられてばかりです…」


 僕は、止め処も無い話を話した…

夕方に訪れていた為、いつの間にかかなり日が落ちて来ていた。

…リオンには、この場所に出かける事を言って来ているが、そろそろ戻らなければ、みんな心配するだろう…


 ふと、誰かの気配を後方に感じ、振り返る。

そこには、心配そうにこちらを伺う中間達…

『ユーリ』、『ティファ』、『キース』、『エリザ』の姿があった。


『ユーリ』が遠慮がちに僕に声掛ける。


「リーン…リオンさんに聞いたら、ここに行ったって聞いて…

帰りが遅かったから…邪魔しちゃ悪いと思ったんだけど…」


「いや…構わないよ。

母様に、ちょっと報告をね…

流石に10年もほったらかしだったからさ…」


そう言うと、みんなは神妙な顔で僕をみる。


「…ああ、気にしなくて平気だよ。

ちょっと昔を思い出していただけだから…

今の僕は一人じゃないしね。

みんなには感謝してるよ。

特に、今度の戦は、みんなには関係ないのに、協力して貰ってほんと…感謝してるんだ」


「何、水臭い事言ってんだ!

俺たちゃ親友だろ!

友達を助けるのに理由なんか必要ないぜ!

なあ!みんな!」


キースの言葉にみんなが頷いて答える。


「ありがとう…僕はいい友達を持ったよ」


僕は、微笑んで、答えた。


「リーンさん

これから、アイルゼン砦で戦勝会だそうですよ!

行きましょう!」


と、ティファが笑顔で僕を促した。


「ああ!行こう」


僕らは、連れ立って、歩きだす。

ふと、僕はこの季節には珍しい暖かい風を感じ廃屋に振り返る…

其処には一陣の風が吹き抜け、花束を揺らしていた…

一瞬母の面影が見えたようだったが…

もしかしたら…母様が笑いかけてくれたと思ったのは気のせいじゃなかったのかもしれない…


ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

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