エルウィン王国奪還作戦~終盤~
僕達、第三部隊一千人は、一斉に城門目掛けて雪煙を上げて駆け出した。
その様子に気づいた、物見の兵が場内に駆け込もうとするのを僕は、確認すると、
肩から掛けていたサブマシンガンを単発撃ちに切り替え、電磁レールを付与して、走りながら連続して発射し、狙撃する。
数人の物見の兵は、次々に額や胸を打ちぬかれて城壁から落ちる。
サブマシンガンは、以前『ベイト脱出作戦』時に異世界人から奪ったものだ。
今まで、使うタイミングが無かったが、能力をセーブしながら近接戦闘を行うには、
打ってつけの武器と言えた。
僕らは、一機に砦内に駆け込む。
事前の調査から、砦内の構造は、エルウィン王国時代から変わっていないとの報告を受けている。
僕とユーリそして、その他の兵、6人程度で司令官室を目指す。
その他の兵員は、武器弾薬庫、待機所に分かれて進む。
武器弾薬庫の方から、爆発音が響き渡る…
間者と協力して、ダイナマイトでの爆破に成功したようだ。
武器弾薬庫の貯蔵した弾薬にも誘爆したらしく、立て続けに爆発音が数度に渡って響いた。
その後、待機所の方からも爆発音が響くのが聞こえる。
順調に砦の制圧が進んでいるようだ…
僕らの目指す、司令官室は、砦の最上階だけあって、たどり着くのに時間がかかる。
その為、途中、何度も帝国兵との戦闘を行う羽目になっていた。
僕は、サブマシンガンに20cm程度の電磁レールを付与した簡易レールガンで、完全武装の敵兵を次々に倒しながら突き進んでいった。
そして、とうとう、司令官室までたどり着く。
司令官室の前にも敵兵が数人居たが、敵の小銃の攻撃は、僕に能力で止められ、
逆に、僕の簡易レールガンで倒されていた。
僕らは、間を置かず司令官室のドアノブを破壊して部屋の中に押し入る。
部屋の中には、2人の人物がいた、一人は副官らしく、執務机の脇で、拳銃の銃口を僕に向ける。
…もう一人は、僕らに背を向け、窓の外の様子を見ている。
耳の位置から察して、異世界人で間違いない……
副官らしき人物が僕らに向かって叫ぶ。
「何者だ!貴様ら!」
まぁ…今更、何者も何も…分かりそうなものなんだけど…と思ったが、
僕は、サブマシンガンの銃口を向けながら、一応答えることにする…
「僕らは、エルウィン王国開放軍です。
この砦は、制圧しました。
素直に降伏して、投降すれば、命までは奪う気はありません」
副官らしき人物は、顔を真っ赤にして、怒鳴り返す。
「誇り高きウルク帝国軍人が降伏するなどありえん!」
そう叫ぶと有無を言わさず、僕に発砲した。
僕は、左手を翳し、ルールスペースを発動させ、銃弾を難なく止める。
空中で止まる銃弾に相手が驚愕の表情を浮かべた時、
僕は、圧縮した空気の塊をその副官に飛ばした。
副官は、壁にぶつかり、衝撃で壁がへこむ。
……ちょっと強すぎたかも知れないが、まぁ良いか……
副官は、崩れ落ち失神した。
その一連のやり取りを背中で聞いていた司令官と思わしき異世界人がゆっくりと振り返る。
金髪碧眼で180cm程度の長身の白人だ。
そして、僕の顔をジッと見つめて、右手を顎に当て少し考えるそぶりをする…
「…ふむ…君が『リンネ・アルベール』君ですか?
いや、今は、『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』君と御呼びした方がいいですかね?」
僕は、黙って否定も肯定もせず、相手を見据える。
『…さすが…異世界人…異世界人達の黒竜騎士団は、諜報関連が優れているとは聞いていたが…もうばれていたか…』
「…私は、先日、ここの司令官に赴任した『メイソン・フリーマン』です。
見ての通り、異世界人です」
メイソンと名乗った人物は、事も無げに自己紹介した。
僕は、油断無く銃口を向ける。
「リーン君、私は以前から君と話しがしたいと思っていました。
なにせ、君は今まで、まったく表舞台に出てきてくれませんでしたからね…
数ヶ月前にやっと、カストラートで表舞台に出てくれて、情報がようやく入ってくるようになりました…
それまで、君の素性や能力は謎に包まれていましたから。
君の素性について探るのには苦労しましたが、さっき言ったように『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』である事をやっと突き止めましたよ。
まあ、少し遅かったようですがね…
それと、君の能力についてですが、この世界の『魔法』で無い事が分かっています。
この世界の『魔法』とは、この世界に満ちている『エーテル』と呼ばれる元素を変換して事象を起こす事を言いますからね。
君は、まったくこの『エーテル』を使用していない…
いや、使用していないどころか、干渉出来ない…
そう、我々異世界人と同じように…
だが、我々は、干渉出来ないが、干渉も受けない。
つまり、我々には魔法による直接攻撃が利かないわけです。
それは、君も同じでしょう?」
僕は、なんの反応もしない…
その様子にメイソンは肩を竦める
「…そして、君は、今目の前で、見せてくれたように一定範囲内での事象をコントロールしている…
まるで、自分だけの世界を創っているよう…
君はその空間を『ルールスペース(支配空間)』と呼んでいるそうですね?
まさに、そのままズバリの表現です。
君が支配出来る空間という訳ですね。
だが、我々異世界人も君ほどでは無いが、この他者から干渉を受けない空間は存在しています。
君の様に事象をコントロールできませんが、君からの干渉も受けない事も報告を受けています」
僕は、その『報告』という言葉に驚く…
今まで戦った異世界人は、全て死亡しているはず…報告のしようが無い…
「…驚いているようですね?
報告に関しては、ベイトで君と戦った兵が音声テープを残していましてね。
軍曹との会話が残っていました」
僕は思い返す…
確かにあの時、接近戦になって、僕の能力が利かなかった…
「…そして、我々は、その干渉を受けない武器を持っている…」
メイソンは、おもむろに腰から拳銃を引き抜き、僕に銃口を向ける。
僕は、驚きながら、忠告する。
「…銃は僕にはききませんよ」
「…さて?どうですか?」
メイソンは、そう言うと引き金を引いた。
乾いた「パンッ」といった発砲音が響く。
僕は、ルールスペースを発動し、左手を翳す。
一瞬後、僕は、手のひらに激痛を感じ、左手を押さえ膝をつく。
左手のひらを見ると、銃弾が貫通し、血が流れて出だしていた。
僕は、横に転がり、部屋の端に備え付けられていた応接セットのソファーの背もたれの影に隠れ、
ユーリと同行してきた兵たちに指示をだした。
「みんな下がって!部屋の外で待機だ!」
それを無視して、ユーリが、僕の側に転がりこんでくる。
メイソンは、そんなユーリに向かって発砲したが、運良く、弾は外れて、床にあたった。
その他の兵は、部屋の外で、剣を抜いて身構え、隠れながら部屋の中の様子を伺っている。
僕は、無茶をして飛び込んできたユーリに注意した。
「ユーリ!何て無茶を!何故外で待ってないんだ!」
ユーリは、僕の顔を見ず、自分の持っていたハンカチを歯で切り裂いて、簡易の包帯を作って、
僕の左手に巻いていく…
「私には…リーンを置いて隠れるなんてできない!」
と、ユーリは、悔しそうに歯噛みながら呟いた。
僕は、ため息をついて、メイソンに声を掛ける。
「メイソンさん!なるほど、僕に攻撃できるのは分かりましたがどんな手品を使ったんです?」
メイソンは、予断無く僕の方に銃口を向けながら話し出す。
「…何…この銃の弾丸が『異世界製』だというだけですよ。
どうも異世界から持ち込んだ物は、こちらの世界の干渉を受けないらしいのです。
この効果のお陰で、我々は、この世界の住人と戦って勝てたんですよ…
まあ、今となっては貴重品です。
今の銃には、この世界で作製した銃弾を使用していますからね…
この弾丸をベイトでの君との直接対決時に軍曹達が持っていたら…
今のこの状況は変わっていた可能性がありますね」
『…そうか…異世界から持ち込んだ物質もこの世界の理であるエーテルの影響を受けないのか。
そして、僕のルールスペースの支配も受けない…』
「でも、その拳銃一丁では、戦況は覆せませんよ!
僕に攻撃出来ても、僕の攻撃を防げますか?」
「…やってみますか?」
メイソンは自信があるのか挑発的な返答をする。
僕は、一気にソファーの陰から転がり出ながら、
簡易電磁レールを付与したサブマシンガンを連射した。
弾丸は、メイソンに届く瞬間、斜めに弾かれる!
メイソンは、左腕に付けた腕輪を翳していた。
腕輪の中央にあるひし形の黒い宝石が、黒く光り、魔方陣が左右に半透明に展開していた。
宝石の大きさは…縦15cm、横10cmはある。
『あれは!エーテルクオーツ!
じゃ何処かに、魔力を供給する魔法石があるのか?』
「…うむ…何とか、魔法障壁で、反らせることができましたね…
その程度の弾丸の重量と電磁レールの長さでは、大した威力ではないようですね。
恐らく、音速にも達していないのでは?
それと、君の能力を部屋全体に張っても無駄ですよ?
このエーテルクオーツは、『黒竜』のものです。
『黒竜』は『白竜』と対を成す存在で、自分の空間を作り出せる…
これで、君と私は同等と言うわけです」
『僕のレールガンもばれているのか?
それに、能力が同等…』
僕は、サブマシンガンを構え、ジリジリと横に移動しながら、考える。
「君は、自分の能力で電磁レールを発生させ、弾丸に超加速をかけているようですね…
いわゆる『レールガン』というヤツです。
その概念は、この世界では聞いた事がありません…
それに、レウンで見せた『レーザー銃』もこの世界では考えるものもいないでしょう?
君はその知識を何処で得たのでしょうかね?
しかも、私の世界でも『レールガン』や『レーザー銃』なんて、概念はあっても実現できていないのに?」
『やはり…そうか…この人達はおそらく…第二次世界大戦時の人達だ』
僕は、ベイトで奪った銃をメンテンンスした際、その予測をしていた…
サブマシンガンに『Thompson Submachine Gun M1』と刻印され、『1942』と年号が記載されていたのだ。
第二次世界大戦は、1939年~1945年までのはずだ。
ならば、『1942』年製の銃は大戦中の銃となる。
僕のいた、2012年から少なくとも67年前だ…
『レールガン』や『レーザー』兵器の概念はあっても、実用化は程遠かったはず…
ちなみに拳銃の方は『M1911』通称『コルト・ガバメント』、45口径で、装弾数は7発。
メイソンの使用している銃も『コルト・ガバメント』だ。
僕に一発、ユーリに対しても一発、発砲しているので、後5発…予備が無ければの話だが…
「まあ、私としては、君と交渉する為、対等である事を示したかっただけです。
できれば、対等な形で話合いたい。
場合によっては、この砦は君達に進呈しましょう」
「進呈されなくても、もうこの砦は制圧ずみだ」
「ふむ…君は私の攻撃がこの銃だけだと思っていませんか?
私のこの『黒竜の腕輪』は、古代竜である黒竜の魔法が使用可能です。
その破壊力は、こんな砦など塵に返すのは造作もない。
まあ、君だけは、その能力を使えば、免れるだろうが、他の一般兵はそうはいかないでしょう?」
「そんな事をすれば、お前の部下達も只ではすまないはず!」
「まあ、そこは考え方の相違ですね…ここを差し上げるくらいなら兵ごと破壊した方がいい…
と、我らの参謀長なら言うでしょうね」
僕は、メイソンを睨みつけ、話に応じた。
「…わかった、話だけは聞こう…」
部屋の外の兵達が、ざわめく。
「うむ…やっと話せるか……
私の提案は、『同盟を組まないか』というものです」
僕は、絶句する…
「同盟と言っても、ウルク帝国とではありません…
『黒竜騎士団』とです」
「『黒竜騎士団』はウルク帝国の一部隊じゃないのか?」
「…今はまだそうです…ですがその内そうではなくなります」
「あなた方は、この世界をどうしたいんだ?
『世界征服』したいんじゃ無いのか?」
「…少し違いますね…『世界統一』ですよ」
「『世界統一』?」
「そう、この世界の国家を統一して、国境を無くそうというものです。
そうすれば『領土問題』による戦争は無くなる」
「それは、ウルク帝国による『世界征服』と同義じゃないのか?」
「ウルク帝国ほど、支配的じゃありません、
どちらかというと民主的だといえますよ。
支配層による管理という面では、一緒ですが、その選出は、能力主義です。
今の帝国のように無能なものが上に立つ事は無いし、貴族制度は廃止します…」
「それじゃ能力が無いものはどうなるんだ?」
「能力に合った仕事をしてもらいますよ。
合理的でしょ?」
「『選民政治』という訳か…」
「『選民政治』…難しい言葉を知っていますね?
さすが王子殿下、博学ですな」
「だが、『選民政治』なら帝国に支配されるのと変わらない!」
「ダメですかね?
民衆というのは愚かな人々の集まりです…優れた者が導くのは世の摂理なんですが…
分かっていただけませんか…
あなたならば良い『選民』になれると思ったんですが…」
「残念ながら、僕は選民になる気はないよ」
「…仕方ありません、交渉決裂ですか」
そう言うと、メイソンは、執務椅子に掛けてあった布を取り除く。
顕わになった椅子は、魔法石で出来たクリスタル製の椅子だった。
メイソンは、椅子に座って僕に話しかける
「…では、この砦には消えてもらいましょう!
あなたは、逃れられるかも知れませんが、他の兵はどうですかね?」
そう言うと、魔法石の椅子は浮かび上がり椅子の周りが黒い闇に包まれる。
それは、大きい黒い球体と化していた。
暫くその球体は浮遊した後、壁を突き破って上空高く舞い上がった。
部屋の中は瓦礫が散乱し、もうもうと煙が立ち込める。
僕は、咄嗟にユーリに覆いかぶさり、ルールスペースを発動し、瓦礫からユーリを守った。
上空を見ると、黒い球体の上に更に巨大な球体が出現しようとしていた。
古代竜黒竜の魔法属性は『闇』だ。
『闇』属性魔法は、探知、感情、光の遮断、分解、重力。
特に『重力』は、高位の魔法使いで無いと使えないと聞いていた…
もちろん、黒竜ならば使えて当然だろう。
で、あるならばあの黒い球体は超重力の塊…
『この砦を押し潰すつもりか?
そして…メイソンを囲む黒い球体は、恐らく結界だろう…
球状の硬い結界にレールガンを打ち込んでも、軌道を反らされるか…
どうする?』
僕は、その時、腰に下げた片手剣に触れて思い立つ…
『あれなら…切れるか?』
僕は、十数メートル上空のメイソンを見る。
直径…3メートルといった感じの球体だ。
僕は、ユーリに向き直り、お願いした。
「ユーリ!君の水魔法で、あの球体の高さまで、押し上げてもらえないか?!」
ユーリは驚きながらも返事を返す。
「リーン、何か策があるのね?!大丈夫、あそこまでなら水を発生させて押し上げられるわ!」
「じゃ、お願いするよ!
只、浮かび上がるだけじゃ、ヤツの攻撃に対応できないだろうから!」
ユーリは、頷き、意識を集中する。
そして、先ず僕の足下に円形の氷の板を発生させた。
どうやらこの板ごと、持ち上げるようだ。
「水の精霊よ!我の呼びかけに応じ天を貫く柱となれ!
【ウォーター・ポール】」
ユーリの掛け声に応じ、水柱が現れ、僕を氷の板ごと押し上げる。
ぐんぐんと伸びる水柱は、メイソンに迫った。
メイソンは、それに驚き、拳銃を発砲する。
僕は、それに対して叫ぶ。
「そんなもの!当たらなければ、どうと言う事は無い!」
僕は、銃弾から逃れるため、着弾前に、足元に圧縮空気を発生させ、開放し、
加速して飛び上がる事で銃弾を回避する。
目測を誤った弾は、僕のいた氷の板に当たっていた。
僕は、更に圧縮空気を後方に作って開放し、メイソンの球体に迫り、
腰の剣を引き抜く。
腰の剣は僕の能力で作った『タングステン』製の刃で出来ている…
『タングステン』…銀灰色の非常に硬く重い金属で、クロム族元素に属する金属。
靱性が高く、熱に対する耐磨耗性があるので切削に優れた合金だ。
その刃が、眩い光を放ち、耳障りな「ブーン」といった振動音を響かせた。
僕は、その音を確認しながら、メイソンを黒い結界ごと居合いの要領で切り裂いた!
メイソンの体は、黒い結界ごと、わき腹から肩に掛けて切り裂かれていた…
メイソンは、僕を驚愕の表情で凝視し呟く。
「ば…馬鹿な…この結界がそんな意図も容易く切り裂ける訳が…」
僕は、重力操作で浮遊しながら、メイソンに言葉を返す。
「『高周波ブレード』だ、強力な物理攻撃ならば、魔法結界も切り裂けるのは実証済みだよ…」
『高周波ブレード』…刀身が超高速で振動し、その振動によって物体を切削<切り削る>する。
メイソンは、目を見開いた驚愕の表情のまま、一緒に切り裂かれた魔法石製のイスと共に地表に落ちていった。
僕は、眼下を確認する。
下の砦の制圧も終わろうとしていた…
僕は、司令官室に静かに降り立つ。
ユーリが笑顔で駆け寄り抱擁する。
「リーン…これで、エルウィン王国を取り戻せるね!」
僕は、頷き、そっとユーリ離し、砦のあちこちから見守っていた、兵たちに向って、剣を掲げ、指示を出す。
「エルウィン王国の旗を掲げよ!我々の勝利だ!」
「「「ウォオーーーーー」」」
「「「リーン王子万歳!」」」
「「「エルウィン王国万歳!」」」
兵達の勝鬨が、雪原に響きわたった。
ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。
今後の執筆の参考にさせて頂きたいと思います。
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