エルウィン王国奪還作戦~中盤~
私は、緊張した面持ちで、第一部隊の仕掛けた爆弾の爆発を待っていた。
私と、エリザは、第二部隊の海軍の詰め所攻めに参加している。
詰め所は港から程近い場所に尖らせた3メートルほどの丸太を城壁代わりに2000坪ほどの場所を囲ったものだった。
その簡易の砦には幾つもの木で出来た宿舎が見受けられる。
ここを攻める第二部隊は、800名の主に風魔法が得意なものが参加している。
隊長は『リオン・ウィード・ヴォルター』。
彼は、以前から反乱軍の副長を務めているだけあって、兵達からの信頼も厚い。
私と、エリザは、リオン隊長の両脇に弓を持って、控えている。
リオンが小声で話しかけてきた。
「二人とも、大丈夫かい?
本格的な戦闘は初めてだろう?」
「はい、大丈夫です」
「…問題ありません…」
「そうか、さすがリーン殿下のご友人だ。
さぞかし、殿下の無茶につき合わされたんだろうね…」
と、リオンは考え深げに頷いている。
私とエリザは苦笑しながらそれに答えた。
「…まぁ…普通の人より貴重な体験は出来ました…」
「では、その体験を生かして、今回も頑張ってもらおうか」
リオンは、にこやかに私達に笑いかけてくれた。
私達の潜んでいる場所は、雪の降り積もった林の中だ。
海軍詰め所からは、500m程離れている。
カムフラージュ用の白と灰色の迷彩マントを被って、海軍詰め所の様子を伺っている。
雪のせいもあって、林の中の私達の姿は、向こうからは確認出来ないだろう。
今夜は、雪の反射のお陰で視界は普段の夜に比べて良好だと言えた。
あたりは「シン…」という擬音が聞こえるのではないかと言うほど静かだ。
すると、突然、港の方から連続した爆発音が響き渡った!
第一部隊の攻撃が始まったのだ。
リオンは、スックと立ち上がり、なだらかな丘になっている現在地から前方にある
『海軍詰め所』を見据えて、第二部隊に号令をかけた。
「全軍点火!」
その号令で、部隊の全員が、矢に括り付けられた『ダイナマイト』の導火線に火を付ける。
この第二部隊は、全員弓兵だ。
私達も急いで、ダイナマイトに点火する。
続いて、リオンは、号令を発した。
「打てーーー!」
私達は、一斉に海軍詰め所に矢を放つ。
狙いは、『兵糧倉庫』、『武器弾薬庫』、『指揮官の寝室』の三箇所。
特に、『兵糧倉庫』、『武器弾薬庫』へは集中して矢を放つ事になっている。
矢は風魔法の付与もあり、軽々と木の城壁を飛び越え、詰め所内へと着弾する。
そして、一間置いて、連鎖した爆発音が響き渡った。
間を置かず、林の奥に隠れていた、10騎程の飛竜部隊が飛び立ち、
詰め所の上空から詰め所内に『火炎瓶』を次々に落とす。
ちなみに火炎瓶の中身は、ガソリンだ。
ワザワザ、帝国軍の備蓄倉庫から盗んで流用している。
ガソリンが引火した火は、水で消す事が困難だ。
下手に水で消そうと水をかけると火が飛び散って被害が広がる。
実際、帝国兵は、水をかけたり、水魔法で消火しようとして、延焼を拡大させていた。
そして、消火が上手く出来ない事を悟ると、帝国兵達は、
火炎瓶を投下し続ける上空の飛竜に弓や銃で撃墜を試みる。
が、敵がかなり上空にいる為、飛竜部隊に被害を与える事が出来ずにいた。
そして、炎に巻かれて、堪らず、詰め所の敷地から飛び出した兵が、門外を出たとたん、
今度は『光』に打ち抜かれる。
…そう、第一部隊が、町の家々の屋根の上から、レーザー銃で狙撃しているだ。
第一部隊は、港の軍艦への爆弾を設置し終えると、
すぐさま、詰め所を狙撃できる位置へ移動して、光学迷彩で潜んでいた。
これにより、詰め所の八千人は、詰め所内で、炎の中、応戦するか、
逃げ出しても、狙撃されてしまうという最悪の事態に陥っていた。
◇◇◇◇◇
港の軍艦及び、詰め所が奇襲を受けて、『アイルゼン砦』では、 派兵の準備に追われていた。
派兵する人数は、『アイルゼン砦』の兵力の半分…1500人を派遣する予定だ。
この騒然とする中、第七区の軍指令として赴任した、
私は、
解放軍の奇襲を不審に感じていた…
『どうも手際が良すぎる…
今までの解放軍の動きと明らかに違う。
そして、被害が尋常じゃない…
これは、『例の情報』に信憑性がましたな…』
私は、ここに赴任する前に齎された情報を思い出す。
そう…『リンネ・アルベール』はエルウィン王国第四王子『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』
であり、今、レウンにいる『リンネ・アルベール』は偽者だという情報だ。
で、あるならば、今攻撃を仕掛けているのは、その『リンネ・アルベール』…
『雷の狙撃者』である可能性が高い…
ヤツであるならば、この後手に回っている状況は非常にまずい…
海軍の戦力を削るだけとは思えない…
この状況で、ここの防備を割くのは危険だ…
だが…このまま、海軍を見捨てては、後で、他の将軍から何を言われるか堪ったものではない…
結局、私は、兵力の半分を派遣する事で鎮圧を試みることにしたのだ。
『いざとなれば…これを使って対抗するしかないか…』
私は、大きな黒い宝石の付いた腕輪を眺めて呟くのだった。
◇◇◇◇◇
僕らは、『アイルゼン砦』から港に向けて援軍が出陣する状況を息を潜めて、確認していた。
予想通り、砦の兵の約半分が援軍として出陣したようだ…
僕らは、敵兵が街中に入り、見えなくなるまで、ジッと身を潜めた。
これで今回の作戦の準備が整った。
今回、第一部隊が軍船をダイナマイトの爆弾で沈め、同時に海軍詰め所を第二部隊でダイナマイトと、
火炎瓶で奇襲する。
これにより混乱するであろう海軍に援軍を送るべく、『アイルゼン砦』から、兵が大量に派遣され、
『アイルゼン砦』は手薄になる。
ここに、解放軍の本隊で攻撃を仕掛け、『アイルゼン砦』を奪還するのだ。
僕は、砦の城壁を見据える…
合図の光が二回、三回と瞬いた。
間者による、城門の確保が出来た合図だ!
砦の城門が開き、跳ね橋が下がってくるのが確認できる!
…お膳立ては整った!
僕は、ユーリに振り向き頷く。
ユーリも頷き返し、本隊の上に乗っていた氷の屋根と、雪を一機に取り払った。
僕は、立ち上がり、声をはって号令をかけた。
「全軍!突撃!目標『アイルゼン砦』!」
「「「ウォーーーーーー」」」
一千人の鬨の声が雪原に響き渡る。
いよいよ、アイルゼン砦攻防戦が始まる……
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