エルウィン王国奪還作戦~序盤~
決戦の日…いよいよ日が暮れる…
第一部隊が作戦行動を起こす時間が近づいてきた…
第一部隊の『ベアトリス』、『ロドリゲス』、『キース』達の斥候部隊が行動を始める。
『リオン』、『ティファ』、『エリザ』も第二部隊の配置で待機している筈だ。
今回、友人達を直属から、他の隊に回したのには、訳があった。
キースは第一部隊に志願したからだが、
『ティファ』と『エリザ』が第二部隊に配属になったのは僕からの指示だ。
それは、僕が指揮する第三部隊が突入部隊となるからだ。
『ティファ』と『エリザ』はどう考えても遠距離支援型だ。
ならば、今回、遠距離での攻撃がメインの第二部隊がもっとも適していると考えたからだった。
そして、僕と『ユーリ』は、第三部隊として、茂みに隠れ、
旧エルウィン王国で臨時王城として使用していた、
『アイルゼン砦』を降り積もった雪の影から見据えていた。
『ユーリ』が、何故第三部隊なのかは、
僕が、彼女の強大な魔力を当てにしたことと、彼女が願として同行すると言って聞かなかったからだ。
まあ、『ユーリ』は、古代竜の『カリーニ』から、
エーテルクオーツの首飾りを通して、
魔力を供給されているおかげで、使える魔法にかなり期待でるというところが大きい。
そして、第三部隊は、敵との直接対決がもっとも高い。
その為、強力な戦力が必要と思えたのも同行を許可した理由と言えた。
現在、『アイルゼン砦』は、以前に比べてかなり、城壁が追加強化され、
城壁も外側に一枚追加され、今や最難関の要塞と化していた。
そして、一番、目を見張ったのは、アスファルトで出来た、長い道が隣接して出来ていた事だ。
街道とは、反対側の以前は森だった場所が、伐採、整地され、アスファルトが敷かれ、
白いラインが引かれていた…
明らかに『滑走路』だ…
今は、泊まっている飛行機は無いようだが、
今後、他の国を攻める際の中継地点となるだろう事は容易に予想できる。
まあ、今回の作戦で、砦を奪還出来れば、帝国に利用させる気は無いが…
僕らは、その滑走路脇の茂みに雪を被って、身を潜めている。
ユーリが、雪と地面の間に薄くて硬い氷の膜を張って、
持ち上げた空間内に第三部隊の一千人が犇めき合っていた。
約1kmにも渡る簡易防空壕のような状態だ。
この規模の魔法を一人で作って崩れないように維持しているのは、流石と言える。
寒さが、身にしみるが、これは我慢するしかないが…
そんな中、ユーリが僕を見つめ、小声で囁く。
「リン…じゃなかった、リーンの事は私が守るから!
リーンは、自分の思うように戦って!」
と、言って、手を握る。
僕は頷き、それに答えるように手を握り返し、決意を込めて言い放つ。
「ありがとう、ユーリ。
ここが、正念場だからね…悔いが残らないように全力で戦わせてもらうよ」
そして、日が沈み、しばらくして、港の方から立て続けに爆発音が響き渡った!
いよいよ、『エルウィン王国奪還作戦』が始まったのだ。
◇◇◇◇◇
時間は少し遡る、俺は、
エルウィン王国奪還作戦の斥候部隊に参加していた。
この斥候部隊は、光魔法の使用者限定の部隊で、200名ほどいる。
100名を1部隊としており、それぞれの部隊長を『ベアトリス・バトン』と『ロドリゲス・ゼファ』
が勤めていた。
俺は、ロドリゲス隊長の副長として、ここに参加している。
年齢的には、分不相応だが、実力的には、申し分無いと隊長からはお墨付きを貰っている。
レーザー銃や光学迷彩などは、リーンに直接、概念を教わって、半年以上鍛えているから、
2週間程度しか鍛えていない兵には負けていない自信がある。
そして、今回のこの斥候部隊の任務は『停泊中の敵軍艦をダイナマイトで破壊する事』が任務だ。
それには、闇夜に紛れ、尚且つ、光学迷彩を使用して、敵軍艦に小船で近づき、
ダイナマイトの時限爆弾を仕掛けるというものだ。
敵艦は、50隻の大艦隊だ。
海兵も一万人いるが、今は、殆どが上陸して、海軍詰め所で待機している。
今、敵艦にいる人員は、間者からの情報だと、2千人との事だ。
残りはの海兵の8千人は、詰め所で待機中だ。
俺達は、この敵艦一隻に対して、爆弾を最低2箇所には設置する段取りだ。
設置場所は、船尾の舵部分と、船の中央部分だ。
出来れば、蒸気船の機関部にも仕掛けたいが、時間的に無理だと判断されていた。
小船は、40隻、1隻5名が乗っている。
1隻が1.25隻…まあ、設置が早いと思われる数隻が余分に周って、設置していく手はずになっている。
この設置を2時間で行わなければならない。
爆弾の導火線の端に付けてある魔方陣が書かれた『紙片』に、
『発火の魔法』を施すからだ。
『発火の魔法』は、火属性の魔法使用者でなくても簡単に取得できる魔法だ。
これを一斉に『紙片』に掛ける。
『紙片』は魔法発動を2時間遅らせる魔法陣が書かれている。
一斉にこの魔法を掛ける事で、きっちり、今から2時間後に、ダイナマイトの導火線に火が付くわけだ。
だが、作業は2時間以内に終わらせなければ、爆発に巻き込まれてしまう…
全部仕掛けるのがベストだが、時間に間に合わなければ、海に捨てるようには厳命されていた。
ちなみに、ダイナマイトの爆弾は、3本を一つに纏めたものだ。
『ベアトリス隊長』が静かに、右手を下ろす。
発火の魔法を掛ける合図だ!
俺達は、渡されているダイナマイトの導火線の紙片に発火の魔法を一斉に掛けた。
そして、『ベアトリス隊長』が、腕を回す。
作戦開始の合図だ。
それを確認した、小船が次々に担当の軍艦に向かって、
静かに急いで、オールを漕いで、近づけていく。
もちろん、小船を光学迷彩で隠す事を忘れない。
5人が5方向上左右前後に迷彩を展開し、すっぽり小船の姿を隠す。
俺達は、小船を軍艦に近づけ、松脂を接着剤代わりにして、
次々にダイナマイトの爆弾を仕掛けていった。
時々、船の甲板や、桟橋から見回りの兵が船体や港の様子を確認しているが、
曇り空で、殆ど明かりがなく、港や船に備え付けてある篝火だけが頼りな為、
船の下の方までは確認できない。
こうして俺達、斥候部隊は、危なげなく敵の警戒網をすり抜け、
爆弾を設置する事に成功していた。
そして、俺達は、第二部隊の援護をすべく、海軍の詰め所へと向かった。
陸に上がり、移動し始めた頃、爆弾が爆発し、湾内の軍艦があっという間に火達磨になっていく。
俺は思わず、前を走るロドリゲスに小声で声を掛けた。
「ロドリゲス隊長!
やりましたよ!」
ロドリゲスは振り返り、『ニカッ』と笑い親指を立てる。
「ああ!帝国の奴らの悔しがる姿が目に浮かぶぜ!」
そんなやり取りに先行していた『ベアトリス』が注意する。
「二人とも作戦行動中だ!
私語は慎め!」
俺達は、思わず一瞬肩を竦めて、即座に返答する。
「「了解しました」」
俺達は、姿を消して、次の標的に向かって音も立てずに走り出すのだった。
作戦は始まったばかり…
雌雄を決するのはこれからなのだ。
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