奪還準備
ダイナマイト…そう『ノーベル賞』の創設者、
可の『アルフレッド・ノーベル』の発明品だ。
ダイナマイトはニトログリセリンを主剤とする爆薬の総称だ。
それは、
ニトログリセリンを『珪藻土』〈珪藻の殻の化石〉や『オガクズ』にしみ込ませたものである。
ニトログリセリンはグリセリンを硝酸と硫酸の混酸で硝酸エステル化することで、精製が可能だ。
グリセリンは、石鹸の廃液を精製する事で出来。
硝酸は、硫酸と硝石との混合物を蒸留する事で出来。
硫酸は、緑礬あるいは胆礬〈硫酸銅〉を乾留して作ることが出来る。
ちなみに乾留とは、不揮発性の固体有機物を空気を断ったまま強熱して熱分解すると同時に、
その分解生成物を揮発性有機化合物〈常温で揮発する化合物〉と不揮発性物質に分けることを言う。
流石に一々、精製や蒸留や乾留の設備を整えたり、器具を用意するのは、時間がかかるので、
僕は、原料だけ用意してもらった後、
ルールスペースを使って、成分を分類する事で、『ニトログリセリン』の精製に成功していた。
僕は、小屋を借り、この精製を行い、オガクズに10%の割合で、
『ニトログリセリン』をしみ込ませて、ダイナマイトの中身を作り出した。
前世では、6%以上のニトロゲルを含有する物をダイナマイトとしているので、この割合は高めと言える。
…まぁ、爆発力が足らないのは困りものなので、念のための処置だ。
その後の、紙筒への包装や導火線の取り付けは、砲撃などを行っている、他の兵に頼んだ。
念のため、水魔法が使用出来る兵を選んで、作業を行わせた。
湿度の管理をしながら作業を行ってもらう為だ、
この冬の季節は、エルウィン王国でも一番乾燥する時期だからだ、
静電気で爆発されたら堪ったものではない。
そして、僕は、そのダイナマイト原料が到着する前に、解放軍の部隊編成も行った。
斥候部隊は、『ベアトリス』と『ロドリゲス』がそれぞれ長として、
100名毎の部隊が二組。
その部隊に配給する『レーザー銃』は、只今絶賛生産中だ。
持ち出しのレーザー銃は、
『ベアトリス』と『ロドリゲス』の持っていた4丁を含めても10丁しかなかったので、
試作の為パーツ取りで提供している1丁を除いた9丁を使って、斥候部隊は、射撃訓練を行っている。
効率が悪いが、量産されるまでは我慢してもらう他無い…
射撃訓練が出来ないものは、『光学迷彩』の魔法の訓練と、連携に勤しんでいた。
ちなみに、キースもこの訓練に参加して貰っている。
キースの希望でもあるが、今後の活動で斥候部隊としての研鑽を積んで置きたいとの事だ。
ティファとエリザとユーリには、ダイナマイトの生産の手伝いを頼んでいる。
そして、僕は、リオンとアルベール兄さんとマルケルを交えて、今後の作戦を練っていた…
「……以上が、僕の作戦です」
粗方、今回の作戦を簡易会議室で説明する。
マルケルが、僕に向かって怪訝そうに発言する。
「…リーン殿、そう上手く事が運びますかな?
リーン殿のおっしゃる『ダイナマイト』やらの威力も未知数ですし?」
僕は苦笑し、返答する。
「『ダイナマイト』に関しましては、何処か手ごろな場所で、威力をご覧にいれましょう…
ただ、かなりな爆発音が予想されますので、出来れば、エルウィン王国国内は避けたい所ですね」
アルベールが僕発言に反応する。
「リーンよ、それ程の爆発音があるのか?」
「はい、威力は一本程度ならば、そこそこの筈ですが、音がかなり出ます。
出来れば、人に感づかれない程度には人里離れた場所で、試暴は、行いたいところですね。
…坑道や海上の方が良いとは思いますが…」
「まぁ、それは追々、行うとしよう…で、今回の作戦…
自信はあるのか?」
「それは、お任せください。
後は、『砦』と『港』と港の『海軍詰め所』の情報を出来るだけ集めてください。
それを基に作戦を詰めたいと思います」
「解った!
リオンよ!ただちに、間者に連絡を取って最新の状況を報告させよ!
それと、潜入する間者を増員させよ!
今回の作戦の要だからな!」
「は!了解いたしました」
こうして、エルウィン王国奪還作戦の準備は着々と進むのであった。
◇◇◇◇◇
僕らがヴォルタールについてから2週間が経過した…
今は1月末…もう直ぐ2月だ。
この時期のエルウィン王国は、一年で一番寒い季節となる。
この時期、雪はよく振り、今も多い所で1メートルほど積もっている場所があった。
まあ、ウルク帝国では、3~5メートル積もるのも当たり前のようだから、
それとは比べ物にならないが…
僕は、そんな雪の積もった町並みの景色を旧エルウィン王国の首都『エルウィン』の
とある商家の二階の窓から眺めていた。
ここは、解放軍のアジトの一つだ、最終移動の前の最後の会議場所として利用している…
作戦の為の『レーザー銃』と『ダイナマイト』は何とか用意でき、すでに各分隊に配布済みだ。
この寒い時期を逃せば、帝国からの増援も来やすくなってしまう。
帝国や周辺地区との行き来が途絶えがちなこの時期を逃すわけには行かなかった。
作戦の決行は、今日の夜だ…
『ダイナマイト』の試爆も山奥の平地で行い、その爆発力も申し分ない事を確認している。
試爆に立ち会った、兄と摂政と数名の兵はその威力に驚いていた。
試爆では、一本で2~3メートルのクレーターが出来ていた。
3本ほど纏めれば、砦の外壁でも破壊出来そうだ。
ただ…僕は、3日前に入った情報が気になっていた。
それは、新しい司令官が、『アイルゼン砦』に入城したとの連絡だ。
問題は、その人物が、異世界人らしい…との話だったのだ…
そんな僕の思案を知ってか知らずか、ユーリが声掛けてきた。
「…リンネ?何か気になる事でもあるの?」
僕は素直に自分の考えを話す。
「…心配事は耐えないよ、戦いにはどんなに準備しても完璧はないからね…
出来るだけ不足の事態も考えて対処出来るようにしておかないと…
ただ…、新しく来た司令官という人物が…
どうにも引っかかっているんだ…」
「例の異世界人の司令官?
でも、リンネは、その異世界人の人達にも勝ってきたじゃない!
リンネなら大丈夫よ!
きっと勝てるわ!
いざとなったら、私達も居るんだし!何でも自分ひとりで抱え込まないで、
私達も頼ってね!」
その声に、賛同するように、ユーリの後ろからも声が掛かる。
「そうよ!
私達だっているんだから!
全部、リンネさんが抱え込まないで、私達も頼ってね!」
とティファが声を掛け。
「…そうです。
リンネさん。
遠距離からの支援は、私達や解放軍の方々も居ますし、接近戦なら、騎士団の方々が居ます…
すべて、自分でやろうとはしないでくださいよ…」
とエリザが追随した。
僕は、その言葉に頷き、みんなに答える。
「ありがとう。
みんな、もちろんそのつもりだよ。
今回の作戦は特にみんなに頼らせてもらうよ。
何せ、3方面からの同時攻撃だからね。
流石に三箇所同時には僕でも攻められないよ…
僕の体は一つだからね、みんなの事は、当てにさせてもらうよ!」
と、僕は、みんなに笑いかけた。
「…後、話は変わるんだけど…、今ここには、カストラートの面々しか居ないからいいけど…
人前では、『リンネ』って人称は、出さないように気を付けて欲しい。
一応、ここでは、『リーン』だし、司令官でもあるからさ。
『リーン指令』か、ただの『指令』でお願いするよ。
軍の指揮に関わるからね…」
と、僕は苦笑しながら、注意した。
三人は、『イケナイ』といった感じで、口に手を当てて
「「「ごめんなさい!気をつけます!」」」
と、声をそろえて、謝っていた。
その後、僕らは夕闇に紛れて、各自、事前に説明した配置へと向かっていくのであった。
ご意見・ご感想頂ければ幸いです。
今後の執筆の参考とさせて頂きます。
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