7カ国同盟
レウン攻防戦から一週間、カストラート侵攻軍、総大将だった、
私は、謁見の間にて、居並ぶ、貴族、将軍と、
ウルク皇帝『アドリアン・アレキサンドルⅥ世』に、敗戦報告を行っていた…
「…同盟国軍の離反と、敵、『雷の狙撃者』率いる軍団を前に、
善戦虚しく、撤退せざるおえませんでした。
まことに、申し訳ございません」
アドリアン・アレキサンドルⅥ世は不機嫌に右手を頬杖にして、報告を聞いた後、
ため息混じりに言い放つ。
「貴公は、それで、何もせずにおめおめと撤退してきたと申すのか?」
私は、その言葉に体を『ビクン』とさせ、冷や汗をかきながら弁明する。
「は、は!
何分にも、敵の攻撃方法が不明な状態では、対処の仕様も無く…
陛下からお借りしている兵を無駄死にさせる結果となってしまう為、
苦渋の思いで、撤退いたしました。」
ここで、玉座の脇に控えていた、
参謀長のダニエルがドラグに助け舟を出した。
「恐れながら、陛下…、ドラグ将軍は、懸命なご判断をされたと思います。」
「ダニエル…、なぜそう思う?
ドラグは碌な戦闘行為も碌に行わず、撤退したのだぞ?!」
「陛下…私の偵察部隊の報告によれば、敵は、『雷の狙撃者』だけで無く、
見たことの無い兵器で予想外の射程から攻撃してきたとの報告…
しかも、同盟国軍は、逃げ出し、帝国軍の本隊が孤立させられた…
この状況では、如何な勇猛果敢なドラグ将軍でも反撃は難しかったと思われます」
皇帝は少し思案し、ドラグに言い放つ。
「……ドラグよ、ダニエルの言う事も最もだが、
敵を甘く見て、情報収集を怠ったのはお前の責任だ!
3万もの兵を無駄に戦死させた責任は重い!
よって、将軍職を剥奪する!
しばらく、自領での謹慎を命ずる!」
ドラグは、一層畏まり、頭を下げて、答えた。
「は!ははぁー、承知いたしました」
「では、下がれ!」
ドラグは、畏まりながら、謁見場を後にした。
謁見場の居並ぶ貴族や将軍が皇帝に問いかける。
「陛下…同盟国軍の敵前逃亡!これは反逆行為です!
直ぐに、何らかの罰を与えるべきです!」
「そうです!ヤツラから賠償金と軍の責任者の出頭を命じましょう!
責任者は処刑して、見せしめにすべきです!」
貴族や将軍が口々に同盟国の処罰を口にする。
そんな中、参謀長のダニエルが再び報告する。
「…陛下、ご報告がございます」
「なんだ?ダニエル」
「同盟国軍は、レウン攻防戦後、カストラートと協議を行ったもようです…」
将軍の一人が声を荒げた。
「何?!もしや最初から、カストラートと協力して、こちらを嵌めたのか?!」
「…その可能性は高いと私は睨んでおります。
もっとも、カストラートとの協議では、すでに、カストラートと同盟を結び、
帝国との同盟を破棄するらしいとの報告も受けております…
こちらは、目下、裏付けを取っていますが、まず間違いないでしょう」
先ほどとは違う将軍がいきり立って叫んだ。
「同盟破棄だと!?同盟国のヤツラめ…、陛下!
こうしては、いられません!
直ちに兵を再度召集し、同盟国各国、いや、カストラートに再度侵攻しヤツラに、
帝国の力を見せ付けましょう!」
皇帝はそれを冷めた目で見た後、ため息混じりに答える。
「…貴公は、馬鹿か?
先日、敵の攻撃手段も分からずに退却したばかりだぞ?
例え、参謀長の『黒竜騎士団』を持ってしても、勝てるかどうか解ったものでは無い!」
意見を述べた将軍が畏まる。
「…ダニエルよ!」
「は!」
「早急に間者を使い、出来うる限り、カストラートの兵器と『雷の狙撃者』の情報を収集させよ!」
「畏まりました」
「皆もよく聞け!
如何な強大な軍隊でも、敵を舐めてかかれば、今回のような事が起きる!
相手を侮った行動は許さん!
今後は、参謀長に情報を集め、参謀長が戦略を下知する!
よいな!」
謁見場に集まった諸侯達が、胸に手を当てた敬礼をして、皇帝の言葉に答えるのだった。
◇◇◇◇◇
レウン領、官邸では、ウルク帝国の同盟国の五国の使者と、東の国『ティターン皇国』の使者
が、カストラート国王『フィリップ』に謁見していた。
宰相のエイナスが、使者の発言を促す。
代表して、ティターン皇国の使者が発言した。
「フィリップ国王陛下、今回の勝利おめでとうございます。
ウルク帝国軍に圧勝されるとは、流石と言うほかありません。
つきましては、我々、6カ国の代表はカストラート国と手を結び、
ウルク帝国に対して反旗を翻したいと考えております。
その決意を示しました、各国の国王の血判状をここにお持ちしております。
どうか、ご検討していただけませんでしょうか」
そう言うと、蝋で封をしてある書状を差し出す。
宰相が、書状を受け取り、国王に手渡し、国王が内容を確認した。
「うむ…確かに各国の国王の連盟の血判状だ。
よかろう、今後、我が国もこの同盟に参加しよう」
書状の内容は主に下記の事柄が記されていた。
①ウルク帝国への同盟破棄
②7カ国同盟の結成
③7カ国内での貿易の自由化
④ウルク帝国からの侵攻があった場合の軍の派遣
⑤ウルク帝国の貿易制限
宰相も確認し、後日、血判の連盟に署名を連ねる事を約束する。
ここにウルク帝国に対抗する『7カ国連盟』が結成されたのであった。
◇◇◇◇◇
リンネは、各国使者と国王の謁見の後、養父の執務室に出向いていた。
宰相にしてリンネの養父のエイナスは、難しい顔で、リンネに応対している。
「…では、リンネどうしても、行くのか?」
「はい、父上…この機会を逃せば、エルウィン王国を取り戻す事は、難しくなります。」
「だが…今、お前がカストラート離れるのはまずい…」
「承知しております。
ですので、背格好の似ている方に代役を頼みたいのです。」
「代役では、お前の能力の代わりにならないぞ」
「そこは、兵器でカバーできます。
以前から、鍛冶場の監督の『ガイス』に頼んでいた、
螺旋の溝入りの大砲と『炸裂弾』が昨日、このレウンに届きました。
この大砲を城壁の上に配置すれば、最大射程距離は8kmになります。
これと併用して、レーザー銃を使用すれば、私が居なくても、昨日と同じ戦いが可能です」
炸裂弾…それは、弾の内部に火薬が詰められた砲弾を指す。
この世界の大砲の弾は、単なる金属球だ。
それに対して今回の炸裂弾(榴弾)は、弾丸の内部に炸薬が封入されており、
着弾時など信管が定めるタイミングで爆発(炸裂)する。
榴弾が炸裂することで、弾殻が破砕され、その破片が広範囲に飛び散り、
周囲の物質に突き刺さるのだ。
これにより、広範囲に損害を与えることができる。
「すでに、副団長と百人長には、戦略方法は、指導済みです
問題なく、部隊と併用して運用できるでしょう…
大丈夫です。
数ヶ月で、エルウィン王国を取り戻してみせますよ」
僕は、にこやかに養父に宣言した。
「…そうか…確かに今、帝国軍は、今回の敗戦により、
エイウィン王国で大規模な反乱が起こっても、直ぐには部隊を回せないだろう…
我々7カ国同盟の動向もあるしな…
エルウィン王国を取り戻すには、確かにチャンスには違いない。
アルベール殿には、今回、海軍を足止めしてもらった恩もある…
解った、リンネ、お前の提案を受け入れよう。
アルベール殿によろしくお伝えしてくれ」
エイナスは、ため息をつき、リンネ部隊からの一時離脱を了承した。
◇◇◇◇◇
僕は、養父との話し合いの後、雷光騎士団の詰め所で、
副団長と100人長、その他、主だった者を集めて、
エルウィン王国からの依頼で、自分が、部隊から一時離脱する事を伝えた。
部隊は、ウルク帝国の再侵攻を牽制する為、このレウンに留まり、
自分だけ、エルウィン王国開放戦線の援護に向かうことを伝える。
100人長の『ロドリゲス・ゼファ』が反対意見を叫ぶ。
「団長!そりゃないですぜ!『雷光騎士団』を見捨てる気ですかい?!
団長あっての雷光騎士団ですぜ!」
ロドリゲスは、僕との試合の後、反抗的だった態度が一変し、
僕の事を崇拝していた。
僕は、苦笑交じりに説明する。
「…いや、ロドリゲス百人長、さっきも説明したが、僕が居なくても、
同等の戦果が上げられる方法を説明しただろう?
第一、一人の兵士の能力に頼るのは危険だ。
敵としては、僕を排除できれば、勝ったも同然になってしまう。
僕に頼らなくても、一般の兵だけでも戦える様にならないと意味が無い」
団員達は、黙り込む。
その静寂の中、副団長が発言した。
「…団長、わかりました、留守はお任せください」
「エクス副団長、後は頼みます。
…みんな、副団長には、幾つか戦術を伝えてある。
副団長を僕だと思って、任務に励んでくれ」
団員が一斉に右拳を胸に当てる敬礼を行った。
僕は、一人詰め所を出た後、自分の与えられている部屋に寄って荷物をまとめ、
竜舎に向かっていた。
その途中で、副団長補佐の『ベアトリス・バトン』と百人長の『ロドリゲス・ゼファ』
が旅支度をして待ち構えていた。
「団長!遅いですぜ!」
「待ちくたびれましたよ、団長」
「どうしたんだい?
…まさか付いてくる気じゃないだろうね?」
ベアトリスが、にっこり笑って答えてくる。
「はい。そのつもりです。
あ!安心してくださいね♪
副団長には、了解をもらってますから!」
「ああ!団長の事をくれぐれも頼むってよ!
他の連中も来たがってたが、隠密行動なんで、俺達二人が代表してお供する事になったぜ!」
僕は、ため息を付き、せっかくの副団長や騎士団の好意に甘える事にした。
「…わかったよ、でも厳しい戦いになるよ、覚悟は出来てるかい?」
「はい!もちろんです!」
「団長!どこまでもお供しやすぜ!」
ロドリゲス達は、二頭のそれぞれのドラグーンに向かい、
僕は、自分のドラグーン(アスラン)に向かった。
「まずは、一度サイアスに寄らせて貰う!
出発!」
僕らは、一路、サイアスを目指して飛び立った。
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