試合
時間は少し遡る。
元同盟国との秘密会議から、遡ること2週間前、『雷光騎士団』の団員が何とか揃い、
演習を行っていた。
当初、僕が考えていた人数より、幾分多い、1千名程度が集まっていた。
騎士団としては、少ないが、光属性魔法の使い手だけを選出したので、この人数は予想外に多いと言えた。
殆どの者が金髪、金目の外見だ。
副団長の『エクス』に確認した所、殆ど実戦経験の無い後方支援部隊の所属の者達との話だった。
200名程は、斥候部隊などの実戦経験者であるが、それ以外は、戦闘経験は皆無との話だった。
僕は、まず、実戦経験者と、そうで無い者とに振り分け、実戦経験が無いものには、
100名を一組とし、100人長を任命し、徹底的に、レーザー銃の扱いを訓練させた。
訓練は、『正確性』『次射装填の迅速性』『他の者との連携』の三つを軸に訓練を行った。
レーザー銃に関しては、光魔法の充填に早いものでも10秒以上かかる。
これを、補う為、予め、魔法石に光魔法を充填しておき、カートリッジ代わりとし、
照射後、このカートリッジを交換する事で、光魔法の充填を短縮した。
このカートリッジの製作は、就寝前に出来る限り準備し、予備弾倉は、10個以上作っておくよう指示してある。
余談になるが、『光魔法』は『光粒子』と『ガス』的特徴を合わせ持っているようだった。
その為、レーザー銃の銃身部分の魔法瓶内では、光魔法が充満すると、共振して、光魔法粒子が同調する。
そして、レンズで集束した、光魔法を照射する事で、レーザーとしての事象を起こす事が出来ていたようだった。
普通の光だけでは、ここまでの威力は出なかったので、思いもよらなかった嬉しい誤算だったと言える。
このレーザー銃の光魔法の一回の照射時間は約3秒、その威力は、鋼鉄の甲冑を焼き抜ける程ではあったが、
魔法障壁には、阻まれる事が確認出来ていた。
…やはり魔法である事には変わらないということだろう…
この世界の戦闘では、魔法障壁を展開しながら、攻撃をするのが常なので、
戦闘時には、まず、魔法障壁をどうにかする手段が必要だと僕は考えていた。
◇◇◇◇◇
『雷光騎士団』は、カストラート王国から北にある国境の城塞都市『レウン』から、
数キロ南の平原で、この訓練を行っていた。
僕は、天幕で訓練状況の報告を『エクス』から聞いていた…
「只今、大方の連携訓練は終了し、何時でも実戦可能です。」
「そうですか。
以外に早く準備が整いましたね?!」
「後方支援に従事していたとは言え、皆、兵士です。
今まで扱った事が無かった武器ですが、それ程取り扱いが難しい武器ではありませんので、
使用には問題なかったようです。
何にも益して、前線で活躍できるとあって、士気が上がっています。」
「そうですか。
慣れない武器で戸惑うか、とも思いましたが、取り越し苦労でしたね。」
「光魔法の使い手は、元々目がよく、狙撃者向きですから、この武器は打ってつけだと言えます。」
「じゃ、予定の10kmの狙撃も可能ですか?」
「…流石にその距離を当てられる者は、少ないですね。
8kmまでなら、何とかなると思いますが…」
「まあ、正確に当たらなくても、レーザーが其処まで届けば問題ないです。
威嚇も兼ねていますし、何万規模の戦闘では、余程大きな目標でなければ、狙わなくても構わないでしょう。」
今、カストラート王国は、ウルク帝国との戦闘を間近に控えていた。
2週間前にウルク帝国の要求を正式に拒否し、国内のウルク帝国駐留部隊を強制退去させたからだ。
駐留部隊は、一部隊の兵力も千名前後とそんなに多くはなく、
駐留場所も、ベイト領とサイアス領の二箇所だった為、問題も起きず、退去させる事が出来た。
それは、監視部隊が拍子抜けするほどだったという。
その後、ウルク帝国軍より、宣戦布告がなされ、帝都からウルク軍が、
カストラート国境へと向かおうとしていた。
この間、1ヶ月…僕は、レーザー銃を改良し、
騎士団員分を何とか揃える事に成功していた。
「何とか、開戦に間に合いそうで安心しました」
「ええ、私も冷や冷やしました。」
僕とエクスは、笑い合う。
「…で、エクス、養父に頼んでいた件が、上手くいきそうなんだ。
あなたには、申し訳無いが、特使としてそちらの交渉に向かって欲しい」
「私がですか?
私は構いませんが、部隊はどうします?」
「訓練も粗方、終了したから、あなたの補佐の…女性仕官、
『ベアトリス・バトン』に任せれば平気だろうと思うんだけど?」
「まぁ…彼女ならば、大丈夫だとは思いますが…
部隊内には依然、団長を不振に思っているものも居るようですので…
私としては、部隊を離れるのには、不安ではあります」
「…ここらで、僕も彼らにお飾りでない所を見せようと思っていたんだ…
あなたが、一時的に部隊を離れる前に、催しものを開こう。
部隊で一番強い兵と、僕とで試合を組んでほしい。」
「団長自らですか!?」
「あぁ…カストラートでも強い者を支持する傾向があるからね…
実際の集団戦闘にはあまり個人の強さは、関係ないけど…どうしても、騎士である事が先行してしまっている。
僕の個人的な実力が通常の兵より、上回っていると知れば、みんなも、
僕の言う事を少しは素直に聞いてくれると思うんだ。」
「まぁ…あなたの実力ならばどんな兵にも勝てるとは思いますが…」
エクスは苦笑いを浮かべて肯定した。
エクスには、僕の能力を話してある。
実際、手合わせもしたので、その経験から、どんな兵士でも適わない事を把握していた。
だが、実力を知らない他の兵には、僕を胡散臭い小倅と思う者も少なくなかった。
また、僕は、素顔が女顔で迫力に欠けていたので、
人前では、目の周りを覆うマスクを着けている。
これも胡散駆られた要因の一つだろう。
ちなみに、マスクはまるで『ガ○ダムのシャ○・アズナブル』を彷彿とさせる仕様だった。
そんな状態だったので、この『雷光騎士団』は副団長のエクスが纏めていると言っても過言ではなかった。
僕としては、エクス無しで、指揮官として認めて貰わなければならなかった……。
◇◇◇◇◇
エクスが、特使として派遣される2日前、雷光騎士団内で模擬試合が行われた。
試合は、団長の『リンネ・アルベール』と百人長の『ロドリゲス・ゼファ』で行われた。
『ロドリゲス』は、斥候部隊出身の実戦派で、自他共に認める接近戦のスペシャリアストだ。
年も30才を過ぎ、身長も175cmとリンネより10cmは高い。
体格もかなり鍛え上げた体つきだった。
対する僕は、身長165cmで最近少しは筋肉が付いてきたとは言え、痩せ型だ。
どうしてもひ弱に見える…
部隊内は、この試合があまりに実力差が有りすぎて、意味の無いものだと思っている兵が大半だった。
ロドリゲスも団長の気まぐれに付き合わされて、手加減するのが大変だろうというが、団員の大半の意見だ。
審判役のエクスが、試合場とした、広場で、リンネとロドリゲスに試合の注意事項を告げる。
「双方、木剣を用い、相手が『戦闘不能』な状態になるか『降参』した時点で、
攻撃を止めるように!」
僕と『ロドリゲス』は了承し、頷いた。
「では、試合開始!」
僕は、木剣を両手で正眼に構える。
今日、僕の使用しているのは、両手持ちの木剣を使用している。
これは、体重差を考えて、防御度外視で、打ち込めるようにしたためだ。
対して、相手は、片手に木剣と反対の手には、木の盾を構えたオーソドックスなものだった。
僕が、盾を装備していないことに眉を潜めていたが、試合開始の合図と共に、真剣な表情となっている。
そして、僕に対して、話かけた。
「…団長、本当に本気を出して良いんですか?」
「ああ…本気を出して貰わないと困る。
でないと、怪我するよ?!」
「…はっ!舐めてもらっちゃこまりますぜ!」
ロドリゲスは言うやいなや光魔法を発動した。
恐らく、試合開始前から準備していたのだろう。
「【閃光】」
眩い光が弾ける。
目潰しに使う魔法だ。
まともに食らえば、失明しかねないほどの光…
ここの観客は、光属性の兵ばかりだ、これぐらいでは、目くらましにもならないが、
僕に対してならば、効くと思ったのだろう。
だが、僕は、『ルールスペース』を体に纏うように薄く発動中だ。
これぐらいの魔法の光はまったく効かない。
ロドリゲスは、魔法を放つと僕の背後に素早く回りこみ、木剣を上段に構え、袈裟切りに斬りつけてくる。
僕は、余裕で振り向き、半身になってその剣を避ける。
会場に驚きの声が上がった。
「今のを避けるとは…
思っていたよりやりますね。」
「今の程度で、驚いて貰っても困るんだけど?」
僕は、肩を竦めてみせた。
そんな、僕の態度にロドリゲスは青筋を立てて睨み返す。
そして、連続して、剣を繰り出してきた。
上段から袈裟切り、返す刀で切り上げ、続けて胴を払いに掛かり、咽に突きを突き込んできた。
僕は、それを全て、紙一重で避ける。
実際は、ルールスペースで圧縮した空気を纏っているので、どのような攻撃も届かないのだが…
その後も、ロドリゲスは、連続技を繰り出すが一向に当たらない。
ここに来て、他の団員も僕の尋常ならざる体捌きに驚きを隠せずにいた。
ロドリゲスは、とうとう息を切らし、大きく距離を取る…
僕は、その瞬間を見逃さず、ルールスペースで作った圧縮空気を後方部分だけ開放し、
ロドリゲスに向かって弾け飛んだ!
ロドリゲスは、5mの距離を一機に詰められ、目を向いて、急いで盾で防御したが、
体制の崩れかけた構えに、僕に横に回りこまれ、盾を持っている籠手を打る。
堪らず、持っていた盾を落とす。
そして、僕は、返す刀で、下段からの切り上げ、木剣を弾き飛ばしていた。
僕は、静かに、ロドリゲスの眼前に木剣を突きつける。
そこで、審判役のエクスが勝敗の声を上げた。
「それまで!
勝者、リンネ・アルベール!」
「ウォォォォ―」
「団長!スゲー!」
「なんだ今の体裁き!」
「見たことないぞ!」
静まり返っていた、会場が歓声に包まれていた…