表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Reincarnation saga(リーンカーネーション・サーガ)  作者: 八咫烏
◇少年期編~第三章~◇
33/66

カストラート侵攻

11月初旬、ウルク帝国は中央大陸の北に面している為、

既に冬の気配を感じていた…

『暫くしたら、雪が降り始めるだろう。』

灰色の空を見上げ、ダニエル・ノートンはそんな事を考えていた。


 ウルク帝国は今、カストラート王国に侵攻する為、策略を巡らせ、軍を召集していた。

しかし、私は、参謀長として、この案に反対していた。


 既に属国と化しているカストラート王国をわざわざ攻めて、

帝国に組み込む事の利点を見出せ無かったからだ。


 只でさえ、今、国は肥大し、行政が行き届かない状態に陥ろうとしていた。

こんな次期に、新たな国を組み込んで、支配する事は、余計な労力にしかならなかった。

それが、敗戦国ともなれば、旧エルウィン王国の様に、

新たな反乱分子を抱え込むことになるとも限らなかったからだ。


 だが、私の意見は、今まで良い功績が挙げられていなかった、

他の将軍達に却下されてしまった。


 他の将軍達は、今回、私無しでカストラート王国を落とし、

功績を挙げると息巻いている…

ウルク帝国皇帝の『アドリアン・アレキサンドルⅥ世』も私を重用し過ぎた事もあり、

この将軍達の勢いを跳ね除けられなかったのも事実だが、

皇帝としても、中央大陸の統一を掲げていたので、『大陸統一』という想いが、

カストラート王国攻めを決定づけたように思えた。


 そして、今、ウルク帝国が誇る、5騎士団の内の2騎士団の精鋭、6万人が召集を受け、

カストラート王国に向けて進軍しようと、帝都を出る所だった。

帝国以外からも属国の5王国から5万人と、海軍の1万人が今回の侵攻に従軍する予定だ。

合わせて、12万人の兵力を動員しての攻略となる…

カストラート王国の戦力はどうかき集めても3、4万人が限度…、3~4倍以上の戦力で攻められる事に

なる。

これだけの戦力差を覆すのは到底無理に思える…


 しかし、私の情報網には、ある不安要素が齎されていた。

カストラートに『雷の狙撃者』が加わったとの情報だ。

ヤツの力だけでは、この戦局を覆すのは難しいだろうが…


 この夏に起きた、我が軍の調査船の行方不明事件とそれに伴う、

近隣海域の津波や異常発光現象が私の不安を増幅させていた。

ヤツが、今までとは違う戦闘方法を使って、調査船を攻撃したのではないか?

という予感がどうしても拭えなかったからだ。


 …だが、今回の侵攻には、私と私配下の『黒竜騎士団』は加わっていない。

『他の将軍のお手並み拝見と行くか…』

と私は、心の中で呟いていた。


◇◇◇◇◇


 ウルク帝国の帝都を出てから数十キロ…ウルク帝国が誇る

『赤竜騎士団』団長で将軍のドラグ・ド・スレイヴは、

晴天の荒野を6万の兵を引き連れてカストラート王国国境へと向かっていた。

『赤竜騎士団』は、火属性魔法を得意とする軍団だ、その人員の殆どは、赤目、赤毛の兵士で構成さ

れている。

かく言う私もその例に漏れず、赤目、赤髪だ。

体格は、ウルク帝国内でも屈指の偉丈夫で、身長は、195cm、体重は、130kgだ。

特に、格闘戦を得意とし、『重戦車』の異名を持っている。

そして、ドラグ・ド・スレイヴは、今回の侵攻の総大将を任命されていた。


 カストラート王国までの国境までは、10年前は、2国を挟んでいたので、かなりの距離ある。

この数万の軍隊の行軍では、少なくとも1週間は、掛かるだろう…

 また、途中の砦で、連合国軍が加わる予定なので、その際の軍の再編成に3日は掛かるだろう。

だが、カストラート王国がどんなに兵を集めても4万人に届くか届かないかの人員のはず…


 カストラートとの国境には、城塞都市『レウン』があるが、

今回用意している攻城兵器と新型の大砲を持ってすれば容易いと考えられた。

 攻城兵器は立てた時に、高さ40m、幅20m(9階建ての高さ)になる移動式のヤグラで、

鉄製の板で補強したものだ。

城塞都市『レウン』の城壁の高さは丁度40mなので、その城壁に兵をそのまま送り込める。

 また、最新の大砲は、砲内に緩い螺旋の溝を作り、砲弾を異世界人が使用していた弾丸のように、

尖った砲弾を使用している。

 これにより、飛距離と貫通力が大幅に上がっていた。

今まで大砲と言えば、飛んで3kmぐらいがせいぜいで、何処に当たるか分からないものが多かった。

その為、今まで、魔法の方が重宝されてきたが、今回の新型はその倍の6kmは飛び、狙いもかなり正

確だった。


 まずは、大砲で敵兵や大門や城壁を攻撃する…

そして隙をついて、城塞兵器で、兵士を送り込む!

4倍の兵力差だ、城壁が使い物に成らなければ、難なく、攻略できるだろう。

この『レウン』さえ落とせば、後は王都までの障害は無いに等しい。


 後は、王都攻めの前に、海側の主要都市を攻略すれば問題無い。

海側は、海軍『水竜騎士団』に任せてあるので問題は無いだろう…

新型の大砲も軍船には優先して配備しているので、敵艦は相手にならないと思われた。


私は一人呟く…

「これで、功績を上げれば『大将軍』位も夢では無い!

見ていろよ!成り上がり者の異世界人ども!

近い内にまとめて排除してやる…」


◇◇◇◇◇


 ウルク帝国の同盟国は現在、カストラート王国を除くと5ヵ国ほどが存在する。

その5ヵ国というのは、『オベロン王国』『クー・シー公国』『バダッハ王国』『コートラッド王国

『レプラホーン王国』だ。

この同盟国とは名ばかりで、この5ヵ国は、全て、ウルク帝国の属国と化していた。


 この中央大陸で、ウルク帝国の同盟国に属していないのは、

東の山脈に隔たれた、『ティターン皇国』のみとなっていた。

『ティターン皇国』は、国力はウルク帝国には及べるまでも無いが、地理的条件で、

他国からの侵略を免れていると言っても過言では無かった。


 国境は全て山脈に囲まれ、唯一、海路のみで他の国と交易しているといった国だったのだ。

また、東の大陸からの交易品の中継地としても重要拠点で、

東の大陸の国々がウルク帝国に交易を独占されるのを嫌い、海軍増強を援助していた。

これが、帝国が『ティターン皇国』を攻めあぐねている原因になっていた。


 ちなみに、この皇国を囲む『ティターン山脈』は、飛竜ドラグーンの生息地として有名で、

『ティターン皇国』は、飛竜ドラグーン産出国であり、

中央大陸一の飛竜ドラグーン騎士団を持っているので有名だ。

(他の国では、『大隊』を組めるほどの飛竜を集められない為、『部隊』程度しかない…)


 ここは、その『ティターン皇国』の王城内の一室…

ウルク帝国の同盟国とされている5ヵ国の特使と、カストラート王国の特使、

そして、『ティターン皇国』の宰相がこの場に集っていた。

この集まりは、カストラート王国が、ティターン皇国に仲介を依頼し、実現した、秘密裏の会合だっ

た。


「…では、『雷の狙撃者』がこの戦いに参戦したとの噂は本当なのですね?」

と、一人の特使がカストラートの特使に確認する。


「はい、本当です。

しかもそれだけではありません。

今回、『雷の狙撃者』こと、『リンネ・アルベール』には、部隊を預けております。

その名を『雷光騎士団』と申します。」


「『雷光騎士団』…」


「『雷光騎士団』は、『雷の狙撃者』と同程度以上の戦力だと付け加えておきます…。」


「ば!馬鹿な!『雷の狙撃者』と同程度以上だと!

私は、先のエルウィン王国攻略に参加したが、『雷の狙撃者』の『トールハンマー』は、

それは凄まじいものだったぞ!

あれと、同程度とは信じられん!」


「…ならば実際の戦場でお確かめください…

その命を賭けて…」


会議室が静まり返る。

この会議室の防音は物理的な防音設備だけで、無く、

黒魔法による結界魔法を掛けてあるので、室内の音はまったく洩れないが、

外の音もまったく聞こえ無い、静かになると、静か過ぎて、息苦しさを感じさせた。


その静けさを破ったのは、今回の調停役の『ティターン皇国』の宰相だった。

「まあ、まあ、みなさん。

今回、お集まり頂いたのは、カストラート王国から『提案』があるとの事で、

集まっていただいたのです。

まずは、その提案をお聞きしましょう。」


そう言って、カストラートの特使に続きを促す。


「はい、提案は、帝国が、我が国の『城壁都市レウン』攻める際に、こちらが、合図をだします。

その際に、前線から皆様方の部隊を退いて頂きたいのです。」


会議場の特使の面々がその言葉を聞いて、声を荒げる。


「馬鹿な!そんな事をしたら、後ろから帝国軍に攻撃されかねん!」

「そうだ!そんな事をすれば、後で国を攻めるいい口実を与える事になる!」

「カストラートやエルウィンと同じになる訳にいかない!」


と、それぞれ異論を口々に吐出した。

そんな、騒然とした会場が、少し、収まったところで、カストラートの特使は、

言葉を続ける。


「…失礼。

『提案』ではありませんでした『警告』でした。」


他の特使達がその言葉に息を飲む。


「団長は合図の10分後に『トールハンマー』もしくは同等の攻撃を

真正面に向かって開始するとおしゃっております。」


「『真正面』から『トールハンマー』だと…」


「そうです。

真正面からです。

トールハンマーの貫通力はご存知でしょう?

どんな装甲や魔法防御も貫きます。」


「…あれが真正面から…以前は丘の上からの攻撃だったが、

それでも、鉄杭は兵を貫き、そこかしこに突き立った鉄杭は、地中深くまで食い込み、周りを陥没さ

せていた…

あれが…正面からだと…。」


特使達は、声を無くし、項垂れる。


そんな中、カストラート王国の特使が淡々と話を続ける。

「まあ…私どもと致しましては、退かれないなら別に構わないのですが…

元同盟国として、ご忠告を差し上げたまで…どうされるか、ご自身では判断されかねると思いますの

で、

一度、お国に戻ってご検討ください…。


このまま、ウルク帝国に滅ぼされるか、

一意団結して、ウルク帝国に立ち向かうか…。

この帝国との戦の後、再同盟を促したいと思います。


…私、個人の意見としては、ここらが決断の時だとは思いますけどね?

これ以上、国が無くなったら、もうウルク帝国に飲み込まれるだけでしょうから…。」


そして、各特使は、この『警告』を持ち帰ることに決めたのだった。


◇◇◇◇◇


 各特使が、退出した後、カストラート王国特使にして『雷光騎士団』副団長の『エクス・カリバー

ン』と、

『ティターン皇国』宰相の『セルクト・アイバーン』が残っていた。


「『エクス』殿、随分と強引な交渉ですな?」


「そうですか?

団長としては、出来るだけ被害を抑えたいとの事だったのと、

『脅しでもかけなければ、弱腰の元同盟国は動かないだろう』とのお言葉です。」


「確かに…

今残っている国々は、弱腰だった国ばかりだ。

圧力をかけねば動かないか…」


「はい。

それに、団長は、今回の戦で戦果を見せれば、このまま、国を滅ぼされるより、

我々と一緒に戦う気になってくれるだろうとの事です。」


「団長殿は、余程、今回の戦…自信がおありのようだが?

腐ってもウルク帝国…そう上手くいきますか?」


「まあ、団長は、他にも考えがあるようです。

今回の会議は、あくまで、保険だとおっしゃっていました。」


「そうですか…。

それは楽しみです。

今回の戦、勝利した暁には、積極的に同盟国に参加するよう皇王に助言しましょう。」


「ありがとうございます。

セルクト殿。」


エクス・カリバーンとセルクトは握手を交わした。


ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ