要求
明けましておめでとうございます。
本年初の投稿となります。
今後ともよろしくお願いいたします。
僕が、首都にあるアルベール家の別邸に着いたのは、
日が落ちて少し立ってからだった…。
竜舎に飛竜を預け、家の執事に養父の所在を聞いた所、
連日、王城『フレイム城』に詰めているとの話だった。
聞くところによると養父は、宰相に復職し、
執務の引継ぎなどで、家に戻らず、王城にカンヅメになっているらしい。
僕に対しては、着いたら、王城にある宰相の執務室へ赴くようにとの事だった。
僕は、養母への挨拶もソコソコに、
王城へ入っても問題無い程度の服装に着替えてから王城に向かった。
顔見知りの門番に養父へ会いに来た旨を伝え、宰相の執務室に案内される。
執務室に入ると養父は、机での書き物の手を止め、僕に顔を向ける。
久しぶりに見る養父の顔は少しやつれているようだった。
何時もは綺麗に梳かしている緑の髪も少しくすんで見え。
緑色の目も何処か疲れた光を放っていた。
「久しぶりだな、リンネ。」
「お久しぶりです。養父さん…。」
「せっかくの文化祭中に呼び出してすまないな…」
「いえ…大事な用件なのでしょう?」
そこで、養父は、顎に手を添え、少し考える仕草をする。
「…そうなのだが…
…今、カストラートは、ウルク帝国から、無茶な要求を突きつけられている…。
その件の対応で、国王が交代された…。」
僕は、驚きで目を見開いた。
戦争になりそうだとは聞いていたが、国王が替わってしまっているとは思っていなかったからだ。
「養父さん…今の国王はどなたなのですか?」
「…第一王子のフィリップ様が国王と成られた。
現在、ウルク帝国への対応が優先の為、戴冠式は落ち着いてからという事になっている…」
『そうか…クーデターが起きたのは間違いないな…
ケネス国王は、穏健派で有名だから…弱腰な態度に抗戦派のフィリップ王子が業を煮やしたのだろう
…』
僕は、少し改まり、養父に確認した。
「…養父上、私をお呼びになったのは、どの様な用向きでしょう…
私の様な成人も迎えていなく、騎士爵も、もっていない者では、
カストラート国のお役に立てるとは到底、思えませんが…?」
と、白々しく、聞いてみる。
養父は渋い顔をしてから、僕に話しかけた。
「…そう、突き放さないでくれ…。
お前には、話をしていなかったが、私はお前の実兄のアルベール殿とは昔からの友人なのだよ。
アルベール殿は我家の家名と同じ名前という事で知り合い、
随分前から友人として接して貰っている…。
お前には悪いとは思いながら…お前のエルウィン王国への戦闘参加も黙認していた…
だが、あくまで、お前の意思を尊重するようには言ってはあったが…」
僕は黙って、養父の話の続きを聞いた。
「いくら隠密行動が得意な兵士でも…そう何度も屋敷に忍び込まれて気づかないはずはないだろう?
…お前の活躍も、アルベール殿や、実際にエルウィン王国への攻略に参加した兵士から聞いている。
…その戦闘能力は『荒ぶる神の如き』だったと。
その、お前の力を今回の国難に役立ててはくれまいか?
今のカストラートの戦力では、ウルク帝国には対抗できない…
属国になっている国や反抗している国々を束ねなければ、拮抗するのも難しいだろう…
しかし、だからと言って、黙って国を滅ぼされる訳には行かない!
勝つのは無理でも、地の利を生かして、侵攻を止める事は可能な筈だ!
それには、リンネ、お前の力がどうしても必要だ。
年端も行かぬお前に頼らなければいけないのは気が重いが…
お前は、普通の子供とは違う!
それは、幼少の頃から見てきた私が断言できる。
どうか、このカストラートを助けてはくれないか?
この通りだ!」
と、言って、養父は頭を下げた…
僕は、一息、息を吐いてから話始める。
「…養父上、顔を上げてください。
…そうだろうとは、思っていました。
僕が、助力するのは構いません。
このカストラートや養父上達にはお世話になりっぱなしですから。
少しでも、ご恩をお返しできるのなら喜んで、力を貸しましょう。」
養父は、僕の言葉を聞いて、嬉しそうに顔を上げる。
「そうか!力を貸してくれるか?!」
そんな、養父に対して、僕は右手の手のひらを向けて、養父言葉を遮りる。
そして、言葉を続ける。
「…但し!条件があります!
僕は、先のウルク帝国との戦いで僕一人では、帝国に太刀打ち出来ないことを悟りました…」
(実際は…反物質を使用すれば…滅ぼすだけなら可能だろうが…
僕はそれを行う気はまったくなかった…
帝国の兵や国民も出来る限り、殺したくない…、被害は最小限にしたかったからだ…)
養父は怪訝そうな顔をして、僕を見つめ返す。
「僕で無くとも、魔法力を『工夫』して、ある程度の人員を動員する事で、
同程度以上の威力を有られるのではと…僕は思っています。」
「お前と同程度…の威力など…可能なのか?」
「可能だと思います。
それには、養父上達の協力が必要です。
僕を只の兵器としてでは無く、指揮官としてお使いください!
一大隊で良いのです。
僕に預けて頂けませんか?
但し、所属する全ての兵士は光魔法の使い手で揃えて頂きたい。
…光魔法の使い手は、兵としては、後方支援部隊への配属が主で、
その処遇はあまり、良くないと聞いています…。
是非、そのもの達を私にお貸し頂けないでしょうか?
そうすれば、必ずカストラート国境で、敵を食い止めてご覧にいれます。
…只、戦況をもっと良い状態に持って行くには、その他の裏工作も必要ですが…。」
養父は、顎に手を当てて少し考えてから、話だした。
「…光魔法の使い手を部隊から外すのはそんなに問題は無いだろう…
斥候部隊以外は、魔法石で、代替できる作業が殆どのはずだ…」
養父は、頷き、僕に答えた。
「分かった、リンネ!
陛下にこの事を上申し、部隊を編成させよう。
お前にも、権限を持たす為、騎士爵を与えて貰う!」
「ありがとうございます!養父上。
後、これが、肝なのですが…これも兵士の分だけ作ってもらえませんか?」
そう言った後、僕は懐から、紙を取り出し、机に広げて見せる。
「?リンネ?これはなんだ?形だけなら帝国の使っている銃に似ているが…」
その紙に書いてあった、設計図は、見た目は、ライフル銃だが、銃身が魔法瓶のような作りになって
いた。
「そうですね…構える部分は木製で、銃身部分は空洞で筒の中は反射するように銀を塗ってあります
。そして銃身の先端には凸レンズをはめ込み、
引き金を引く事で、レンズを遮断していた蓋が開いて、銃身に溜め込んだ光魔法を照射します。」
「…光魔法を照射?
それでは、只、眩しいだけではないのか?」
「レンズが無ければ、眩しいだけでしょうね?
でもレンズで圧縮された光は高熱を発します。
…取り敢えず一丁作ってもらえませんか?
論より証拠です。
その威力を御見せしますよ。」
と僕は不適に微笑むのだった。
◇◇◇◇◇
翌日、僕は、騎士爵を授与された。
あまりに呆気なく、許可され、少し拍子抜けする。
初めてフィリップ陛下にお会いし、お声を掛けて頂く。
フィリップ王子は養父と同年代と聞いていたが、
養父より若く、見受けられた。
緑色の髪や目も溌剌としていて生気を感じるからだろうか…。
「リンネ・アルベールよ。お前の噂は、聞いている…まさかこんなに若かったとはな。
お前の戦果、期待しているぞ。
存分にお前の力を示してみせよ!」
「は!承知いたしました…。」
僕は卒なく返答したが、内心は、少し辟易していた。
『ふー、まぁいつかは駆り出されるとは思っていたが…こんなに早くなるとは…
だが、受けるからには全力を尽くそう…ユーリや養母や友人達のいる、
カストラートを滅ぼされる訳には行かない…。』
夕方になると、昨夜頼んでおいたガラス管銃の試作品が出来たとの連絡を受け、
早速、城内の鍛冶場に赴く、鍛冶場では戦争に備えて急ピッチで、剣や盾や防具を作っていた。
そんな喧騒の中を僕は、鍛冶場の奥に通される…
鍛冶場の奥には、会議室があり、そこに養父と見慣れない男と騎士らしい男性が待っていた
。
見慣れない男は筋骨隆々で、背はそれ程高く無いが内面からくる威圧が凄いひげ面の初老の男性だっ
た。
ちなみに髪と目は赤色なので、火魔法の属性魔法が得意だろうと予想できる。
そのひげ面の男性が、僕の顔を見るなり話だす。
「おう!お前が噂の新しい団長か?
随分、若ーな?
まだ、子供じゃないか?
しかも女か?」
ひげ面の男性は、失礼な言葉を連発する。
「いえいえ。
僕はこれでも男ですよ。
まー若いのは確かですが…」
「ふん!このけったいな物を注文したのはお前さんでいいんだな?
名前は?」
「はい。
僕が注文しました。
リンネ・アルベールです。
どうぞお見知りおきください。」
僕が挨拶をすると、ひげ面の男性が、試作銃を投げてよこす。
そして、自分の名前を名乗った。
「俺は、ここの鍛冶場の監督をしている『ガイス・ウッドスミス』だ。
『ガイス』でいい。」
「早速、試作品を作って貰ってありがとうございます。
ガイスさん。」
僕は、試作銃を受け取り、確認する。
試作銃は注文通りの寸法で、銃身部分は黒い金属で出来ていて、
中を覗くと銀で加工された内部が光を乱反射していた。
トリガーを引くと、レンズの蓋が開く事を確認し、銃身が曲がっていないか確認する。
『注文通りだ。
これを、殆ど時間をかけず作るとは…かなり、腕の良い職人なんだな…』
僕は、一通り、銃を確認して、関心をした。
「ガイスさん。
流石です。
注文通りですよ!」
「ふん、そのくらいの物、当たり前だ。
あんな正確な図面を出されちゃ間違いようが無いってもんだ。」
ガイスは少しふて腐れた表情で、そっぽを向く。
僕は、成り行きを見ていた、養父に向き直り、話をする。
「養父上、僕の部隊に所属予定の兵士を一人呼んで頂けませんか?」
養父は頷き、横にいた騎士を促す。
「リンネ殿、お初にお目にかかります。
貴方の補佐を勤めます、『エクス・カリバーン』と申します。」
僕はその名前を聞いて少し驚く。
『エクス・カリバーンって英国の聖剣みたいな名前だな…』
と、思ってしまった。
そんな、僕の驚いた顔に『エクス』が怪訝そうに見返す。
僕は、慌てて言葉を発した。
「…あ!少しお名前が知っている『もの』に似ていましたので…
失礼しました。」
「そうですか?
…それはどんな方なのですか?」
「いえ。
直接は知らないんですよ。
物語に出てくるものなので、気にしないでください。」
「はぁ…。」
『エクス』は何処か納得いっていなかったが、
僕が話をしづらそうなのを見て、深く追求するのをやめてくれた。
話が途切れた所で、養父が話を付け加える。
「『エクス』は、以前は斥候部隊の優秀な部隊長だったのだが、ある任務で負傷して、
最前線での任務に就けなくなってな…
だが、通常戦闘には支障は無い。
隊長としての経験も十分なので、何でも相談すると良い。」
僕は、養父の話に頷いて答え、自己紹介をする。
「名乗るのが遅れました、リンネ・アルベールです。
よろしくお願いします。」
僕達は、名乗った後、握手を交わした。
僕達は、試射の為、場所を弓矢の射撃場へと移した。
射撃場は、夕方で、的が見えにくい時間に入っていたので、人はいなかった。
『…丁度いい!
今なら、試射をするのに好都合だ。』
僕は、『エクス』に打ち方を指導する。
「この筒の中に光を集めるだけ集めれば良いのですか?」
「ああ、その中に光を集められるだけ集めて、許容量が一杯になったら、
そのトリガーを引いて欲しいんだ。」
『エクス』は了承し、ガラス銃を構える。
的は、弓矢での的だが、この世界では、風邪魔法を付与しての射撃なので、
的まではかなり遠くに設定されている。
約、500mはある…
『『高出力レーザー』…なら問題ないと思うが…
キースは、レンズだけでかなりの高出力のレーザーを出す事が出来ていた…
光の漏れを無くして、照準がぶれない様にライフル型にしたのだから…
大丈夫なはずだ…』
『エクス』が標的に向けて構える…
光が集まり、筒の隙間から光が少し漏れていた。
『もう少し、密閉性を上げる必要があるな…』
と、僕は、一人心の中で呟く。
一段と光魔法が集まるのを感じた時、『エクス』がトリガーを引いた。
光線が的の中心を打ち抜く!
的の中心に風穴が空き、当たりに焦げ臭い匂いが漂った…
打った『エクス』も養父も『ガイス』も的を凝視していた。
厚い木製で出来た、的の中心はぽっかりと黒い穴が空き、的の後ろの盛り土も貫いて、
外壁の石にこげ後を残していた…
『時間にして、三秒程度…
満タンでこの威力なら…
鉄製の鎧ぐらいなら打ち抜けるか…
問題は、連射か…』
などと僕が考えていると、『ガイス』が僕に詰め寄る。
「おい!小僧!
これはどうなっているんだ!」
僕は、ガクガク揺さぶられながら答える。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
これは、レーザー銃です!
光を収束させる事で高熱を発生させて、打ち出す事で、標的を焼くんですよ!」
「な!なに!
そんなもの見た事も聞いた事もないぞ!」
「まあ…そうでしょうね…
僕も実際に見るのは初めてですので…」
僕の返事に『ガイス』は少し呆けた後、「ガハハハ」と盛大に笑い出した。
「小僧!お前は面白いな!」
その様子を眺めていた、養父と『エクス』が僕に近づく。
「リンネ…確かにこれが一大隊分もあれば…
かなりな戦力になるな…」
と養父が言い。
「リンネ殿…この武器は正に光魔法を使うものにとって、うってつけ!
いいえ!最良の武器です!
これならば、斥候や後方支援に甘んじていた同胞も喜ぶでしょう!」
僕は、頷く。
「でも、まだ改良の余地はあります!
もっと精度を上げて、確実なものにしましょう!
そして、カストラートを守りましょう!」
僕達は、握手をして健闘を誓った。
ご意見・ご感想お待ちしております。