リオン
2012年12月30日改修
私の名は「リオン・ウィード・ヴォルタール」この国…エルウィン王国の近衛騎士団の
「風雷騎士団」に所属する騎士だ。
この国には4つの騎士団が存在する。
4つの騎士団とは「地震騎士団」「水龍騎士団」「火炎騎士団」「風雷騎士団」だ。
これは、この世界の四大元素魔法「地・水・火・風」に基づく。
それぞれの騎士団員は、その属性魔法に沿った騎士団に所属するのが通例となっている。
まれに、この四大元素魔法に含まれない、
「光」や「闇」系魔法を操るものもいるがかなり少数で、そういったものは、
どこの騎士団に所属するかは、自由となっている。
といっても、仮に『風属性』だから『水属性』の騎士団に入ってはいけないという規定もないのだが…
ちなみに、自分は、自分が使用できる風属性の魔法を活かすため、
魔法剣術学院卒業後、通例通り、「風雷騎士団」に入団した。
近衛騎士団は、その名の通り、王族の身辺警護を兼ねた騎士団だ。
…今、自分は、王に呼ばれ、謁見の間に向かっている。
この国の王は「エリック・ウォーター・ペンドラゴンⅤ世」だ。
水属性の魔法を駆使し、公益国家である、この国「エルウィン王国」を治め、
思慮にたけた「賢王」で近隣諸国には有名な国王だ。
この国は、海に面した海洋貿易を主とした国柄もあり、
代々の王は水属性魔法の王が多い…
水属性系の血族といっても、例外もあるし、水系以外の属性を持った王も過去にいた。
そんなエリック王の第四王妃に、3日前、第四王子がお生まれになった。
王子には騎士団から側近が必ず一人つくのが通例となっている。
騎士団長からその側近への推薦をした旨を聞いていたので、今はその命を受けにいく途中である。
この側近は、各王子にもっとも近い存在となる為、大貴族から抜擢され、その王子が王についた時に
は、近衛団長や摂政などになることが多い重要なポストだ。
これに選ばれたということは出世間違い無いと同時に、
王位争奪のゴタゴタに巻き込まれるということにもなる。
光栄なことだが、王位争奪に巻き込まれることを考えるとかなり憂鬱になる…
自分の生まれもやはり、王家以外の5大貴族と呼ばれる「ヴォルタール家」の出なので、
こういうことはありうるとは思っていたが…
ちなみに5大貴族とは各属性魔法に長けた貴族でそれぞれの4大属性+1の貴族を指している。
火の「サラマンダー家」、地の「イディオム家」、風の「ヴォルタール家」、
水の「ウィンディー家」光の「スターリング家」を指す。
それぞれ、属性に合った魔法を使う事で有名だ。
「リオン!」
ふいに声を掛けられた。
振り返ると同僚の「ヴァレリ」だった。
ヴァレリは同じ「風雷騎士団」の同期であり、友人だ。
フルネームは『ヴァレリ・フォン・ギュンター』
「リオンこれから謁見か?」
「ああ、この間お生まれになった王子の側近になるように騎士団長から言われていたから、
その件だろう」
「そうか!お前もこれで出世間違い無いな!
なんせ、側近はそのまま、王子の役職の補佐役になるのが通例だからな。
今のエリック陛下の側近だったマルケル様は今は摂政だからな。
でも、第四王子殿下では王位に就くのは難しいかな。
それでも、大体、王のご兄弟は大事な要職に就く事が多いから、
やはり出世すると考えた方がいいか。」
などと言ってきた。
自分もそう思っていたので頷く。
「要職に就いた時は、俺も起用してくれよ!」
なんて、軽口を言ってきた。
「ああ、期待しててくれ」
と、私も軽口で返して、笑い合う。
そんなやり取りの後、ヴァレリが周囲を伺い声をひそめた…
「ところで、第四王子殿下なのだが…よくない噂がある…
出産に立ち会った侍女の話なのだが…王子はどうやら『無色』らしいんだ…」
「無色」とはごく稀に色素が無い真っ白な人の事を指す。
この世界では、魔法元素の影響が大きく作用し、
あらゆるものがその魔法元素に左右された色合いを持って存在している。
火の属性なら「赤」、地の属性なら「黄」、風の属性なら「緑」、水の属性なら「青」、
光の属性なら「金色」、闇の属性なら「黒」という具合だ。
これは、普通の動物もその影響を受けていて、それぞれの属性の色を持っている。
例えば人に限らず馬であっても「赤毛」ならば火属性を持ち、時には本当に火を吹いたり、
炎を纏って走ったりする。
今の火炎騎士団団長の愛馬も炎を纏って走るので有名だ。
ちなみに自分は『緑色の髪に緑色の目』、ヴァレリもやはり『少し薄い緑色の髪と緑色の目』だ。
無色はどの元素魔法の影響も受けていない事を指す。
噂だと、『無色』は体も弱く、魔法も使えないので、早死にすると言われている。
王家でこの色は『禁色』である。
強さを求められる王がまったく魔法が使えないとあっては、威厳に関わる。
おのずと声を潜めて聞き返す。
「それは本当かヴァレリ!」
「あくまで噂だ…だが本当なら陛下はどうするんだろうな?
お前も側近になるんだったら…これは出世ではなく…左遷なのかもしれないぞ」
親友は、真顔で心配そうに私を見つめた。
私としては…どんな任務でも受けたらしっかりこなすつもりだが…
大貴族間の駆け引きもあり、他の貴族から『厄介ごとを押し付けられた恐れもあるな』と考えた。
「まあ、陛下からこれから直接お話があるそうだから…聞くだけ聞くさ。
命令されたら断ないだろうが…。
でも、第四王子殿下の母上は、第四王妃「メアリ」様だ。
メアリ様は他の王妃様達より、陛下からご寵愛を受けていることで有名だ。
血統的にあまりに近くて、正室(第一王妃)にはなれなかったが…
その方のお子で自分の息子だ…無下にはしないんじゃないか。」
そう、メアリ様はエリック王の姉のエヴァ様のご息女、
エヴァ様は王より10才年上で隣国のカストラート王国の王族に嫁いでいる…
メアリ様は、その長女で、エリック王の姪にあたる。
この国では近親婚は禁止していないが、血統が近いと、
天才か欠陥を持った者しか生まれないとされ、好まれていない。
するとヴァレリは、肩を竦め言い放つ。
「そうは言っても「無色」はどうだろう?
実際、初めて陛下が第四王子を見に行かれた際、
王子を見た瞬間かなり落胆していたご様子だったらしいし、
それきり、第四王子の所に行かれていないご様子だ。」
「まだ、3日目だし、陛下もお忙しい身だ、そうとも限らないだろう」
「メアリ様がご出産するまでは、必ず毎日、メアリ様の所に通っていたのにか?」
私は言葉をつまらせた。
「まあ、ここで陛下の気持ちを考えても埒があかない。
実際、これからお会いするのだからそれと無く陛下のお心を探ってみるさ。
もうそろそろ行かないとまずいから、この話は、また夜にでも話そう。」
私は話を打ち切り歩き始めた。
その足取りは、少し重かったのは言うまでもない…
謁見の間の前の衛士に謁見に来た旨を伝え、
しばらく、謁見の間の扉の横にある長椅子に座りながら考えにふけっていると、
ふいに扉が開き、招かれた。
謁見の間は、いつもなら、陛下と王妃様が玉座に座り、横に摂政が控えていて、
衛兵が何人か横に控えているはずだ。
だが今は、陛下と摂政しかいない。
衛兵までいないとは…これはただの謁見ではないな…と心の中で感じながら私は前に進んだ。
玉座の前にきて、片膝をついてこうべをたれ、発言する。
「風雷騎士団、リオン・ウィード・ヴォルタール、ただ今、参りました。」
すると陛下が「かしこまらなくてもよい、おもてをあげよ」と申された。
顔をあげると、少し暗い表情の陛下の顔と無表情の摂政の顔が見てとれた。
陛下とは、初対面では無い…近衛兵ということもあり、よくお見かけするし、
闘技大会でも自分は大会で優勝しているので、何かにつけて、お声掛けいただいてはいる。
「リオン、今日からお前を我が第四王子『リーン・ウォーター・ペンドラゴン』の
側近警備及び教育係りに命ずる。
ただし、王子の事は他言無用とする。
くれぐれも王子の様子などは、外部に漏らさないよう細心の注意を払うよう。」
私は驚いた…王子の様子は他言無用…これはどうゆう事だろう?
すると摂政の『マルケル・ド・フランシーヌ』が発言した。
「ここからの話は、絶対に外部に漏らさないよう細心の注意をするように…」
と前置きし、話始めた。
「リーン殿下は「無色」である。
リーン殿下は本来なら第四位の王位継承権があるが、魔法能力の有無でこれははく奪される。
場合によっては、養子に出したり、お亡くなりになる場合もある。」
私は、絶句した、「お亡くなりになる」…とは「いなかったことにする」
「殺害する」ということか?
自分の息子を…あまりにも残酷だ…だが、力を示せない王族では…
この王宮で生きていくのは難しいとは確かに思う…だが殺すことはないのではないか?
と思ってしまう。
どうりで、人払いがされている訳だ…
これは下手をすると自分が王子を殺す任務をさせられるかもしれないと思い、やな汗がでた。
これは、今一度確認しておかない…と思い発言する。
「一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
すると摂政のマルケルが怪訝そうな声で問い返す。
「なんだ、申してみよ」
私は思い切って聞いてみた。
「この件は、メアリ王妃殿下もご存じなのでしょうか?」
すると摂政が答えようとしたとき、陛下が手を挙げそれを制し、発言した。
「このことは、メアリには話してはならん!
お前はあくまで、リーンの新しい側近として振る舞うように!
朝には必ず前日の様子を「摂政」に報告する事を命ずる。」
と、おしゃっられた。
私は、これは…場合によっては本気で王子を亡き者にしかねないな…と思い、
陰鬱な気分になった。
謁見の間を出た私の足取りは重かった。
栄転どころか…
子供の監視とは…気が滅入ってきてしまった。